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第四十九話 怪人の戯れ

 午前十時丁度、

色々と納得していない表情を浮かべながら

星一朗以下映像視聴研究会の4名は寒空の下、

参加する気など毛頭無かったイベントに強制参加させられていた。

寒そうに両肘を抱えて恵玲奈とセシルは白い息を吐いている。

映像視聴研究会の先輩である鈴成の姿もあるが、

もう一人の先輩である犬原の姿は無かった。

星一朗はジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、

決して手を出そうとしなかった。

手袋装備のつもりだったが、慌ただしく家を出た為、

自室のベッドの上に置いてきてしまったのだ。

恵玲奈やセシルが片方でも貸そうかと言ってくれたようだが、

サイズが合わない事も有り丁寧に断っていた。

防寒対策を忘れるなんて情けない、星一朗は別のところでご立腹だった。

そんな様子を見ていた鈴成は、星一朗の隣に立つと小さな声で言った。


「思ったよりも被害者が多いようだね。」

「そうっすね。

 団体さんの数は片手じゃ足りないくらいか。

 ところで犬原さんは?」

「アイツがいると話が進まないから。」

「同意します。」


 星一朗は犬原がいない事を心底ほっとしていた。

ただでさえ面倒くさい事態になっているのに、

面倒くさい人間がいてはたまらないと思っていたからだ。


「他のところでは一体何を盗ったのやら……おっと、皆さん目が怖い怖い。」

「考えたくもないっすね。」

「そうだね。

 まあ、彼等の処罰についてはモノを返して貰った後に他の連中と相談だろうね。」


 校舎と校舎の間に設置されてある学生憩いの場、

休み明けであれば大勢の学生達で賑わっている場所である。

だが、今は眉間にシワを寄せた学生や周囲に睨みを利かせ

威圧感たっぷりの学生達がいるだけであった。

結構な人数が集まっている。

鈴成の言うようにトレハン部の被害者一同なのだろう。

一体何を取られたのやら、

星一朗は彼等を見渡しながらまるで他人事のように思っていた。

一方、決して他人事ではない

恵玲奈とセシルの表情は無論言うまでも無く険しい。


「一体何が楽しくてこんなことをやるんだろう……

 許せないですよねセシルさん!」

「ええ、全くその通りです!

 よりにもよってあのディスクを盗るなんて許せません!」


 指定の場所で待つこと約十五分、何者かの登場でざわめきが止む。

皆の視線は一人の人物に注がれていた。

威風堂々とその人物は歩み進め、

憩いの場の中央になる噴水へ向かっているようだ。

顔には顔隠しの意味だろうか、

アルカイク・スマイルのマスクを身に付け不気味な雰囲気を醸し出していた。

黒のシックなスーツの上には丈の長いコートを羽織っている、

マスクを覗けば紳士的なスタイルと言えるだろう。

会場にいた全員が彼のマスクの不気味さに一瞬、

目を背けたくなったのは間違いない。

アルカイク・スマイルの男はコツコツと靴音を立てながら噴水へ向かう。

噴水は周囲よりも少し高台になっており、

どうやら何かを宣言するのだろうか、

よく見れば手に拡声器を持っていた。

その人物は噴水に辿り着くと拡声器を構え聴衆に宣言した。

当然の成り行きでブーイングが起こり、会場は騒然となってきた。


「あの人は?

 随分奇抜な扮装をしていらっしゃるようで。」

「彼がトレハン部の部長だよ。

 正体不明の怪人みたいなもんさ、部員だって彼の顔を知らないらしい。」

「……酔狂にも程があるでしょうが。」


 どこがトレジャーハンターなのか、星一朗は全く理解出来なかった。

彼の想像するトレジャーハンターと言えば、

映画に登場するような鞭の扱いが得意な考古学者や、

亡き彼女の為に不死鳥の洞窟へ魔石を探しに来る

自称・トレジャーハンターである。

決してあんな妖しいマスクを身に付けた怪人などではない。

その容貌でイメージされるものと言えば、

人の財産を盗む気障な怪盗であろうか。


『ふふふ、いきなりのブーイングかい。

 当然と言えば当然か。

 でも残念ながらいくらブーイングをしても君達の大事なものは返さないよ。

 返して欲しければ僕達が提示する問題をクリアしてくれたまえ。』


 アルカイク・スマイルの男はそう言うと、

コートの中からビラを取りだしてバラ撒いた。

ビラはタイミング良く吹き抜けた風に煽られ聴衆達の近くへ落ちる。

たまたま星一朗の足下へ来たビラを拾い上げ目を通してみる。

そこにはこれから行われる奪還イベントのルールについて書かれていた。

一つでも違反したら返却には応じないと物騒な文言が踊っている。

おいおい重要じゃないかと、星一朗は引きつり笑いを浮かべた後、

そのビラを鈴成や恵玲奈達に渡した。

眉をひそめながら鈴成は星一朗から受け取ったビラの内容を読み上げる。


「一つ、参加人数は最大5名まで、

 5名を超える場合はイベントルールの違反とみなし即返却には応じない。

 一つ、タイムリミットは本日18時きっかり。

 一秒でも遅れた場合は、即返却には応じない。

 一つ、団体同士の連携は認めない。自分達だけで解決すること。」

「こいつら……ただの愉快犯じゃないのか?」

「つまり盗った物品そのものには何の興味も無く、

 盗る行為やそれに対する所有者達の反応に興味があるということ?

 ……ただの変態じゃない!」

「黒瀬ちゃんの言う事は最もだと私も思うが、

 今は彼等の言うとおりにするしか無いようだね。」


 アルカイク・スマイルの男は聴衆が

各々ビラに目を通しているのを確認した後、改めて拡声器を構え続けた。


『皆に渡ったようだね、見ての通り書いてあるルールはちゃんと厳守して貰うよ。

 ちなみに学内のあちこちに同志を配置して監視させて貰っている。

 不正は見逃さないからそのつもりで。』


 よく言うぜ、星一朗は彼の言動を聞きながら

突っ込みを入れたくて仕方が無かった。

とにかくである。

モノを取り戻したければ彼等の流儀に従うしかない。

不謹慎かもしれないが、星一朗は密かに心を躍らせていた。

彼の奥底で燃え続けるゲーマー魂が疼くのだろうか。

失敗すれば例の自主製作映画が映像視聴研究会以外へ流出してしまう危機感、

ゲームを行う上でのリスクとしては十分。

星一朗自身気づいていなかったが、

恵玲奈とセシルは見逃さなかった兄の口元が緩んでいる事を。


『さぁゲームの始まりだよ!

 君達の大事な宝は我々が預かっている!

 今すぐ取り戻したくば、我らが挑戦に応えよ!

 ……最後にもし失敗しても、来年の今頃には返してあげよう、

 はははっ安心したかい?』


 アルカイク・スマイルの男はそう言い放つと噴水から離れ、

各団体の代表らしき人物に先程バラ撒いたビラとは別の紙を手渡して廻っていく。

ブーイングは鳴り止まない。

最後の一言が余計だったのだろうか、

聴衆のブーイングを嘲笑うかのように男は悠々と各団体を巡っていく。

最後の最後で順番が巡ってきた映像視聴研究会の代表・鈴成は、

露骨に怪訝な表情を浮かべたままビラを受け取った。

拡声器を通していた為、機械的な違和感のある声に聞こえていたが、

どうやら拡声器は関係ないようで、

マスクの裏に小型の変声器を仕掛けて使っているようだった。


『映像視聴研究会・鈴成サン、これが君達の分だ。

 ふ、そうだ安心したまえ、

 まだディスクの中身は見てはいないよ。』

「まだ……ね、ふん、悪趣味が過ぎるぞ。」

『ふふふ、何とでも言ってくれて結構だよ。』

「お前達はトレジャーハンターと言うより、悪趣味な怪盗だな。

 それにそのマスク、一体何の冗談だ?」

「おやおや、鈴成サンのところの後輩は手厳しい。」


 男はくくくと小馬鹿にしたように小さく笑う。

どうにも気に食わないヤツだ、星一朗はマスクで隠した男の本性を探っていた。

顔と声を隠しているのは、

演出なのかそれとも単に顔割れするのが怖かったからか。

それとも別の何か。


「ふーん、私達は図書館か。

 随分探しがいのあるステージみたいだね。」

『ヒントは、木を隠すなら森の中、かな?

 くくく、図書館の蔵書数は数十万冊。

 一応本やメディアディスクの出入りはデータベース管理されてはいるはずだ。

 適当に虱潰しをやっても見つかりはしないよ。』


 星一朗達の前から去った後、

しばらくアルカイク・スマイルの男と各団体の代表達による問答があった。

当然と言えば当然の流れだが、

アルカイク・スマイルの男は飄々とした態度でそれらを全て躱していた。

返して欲しければ我らの挑戦に応えよ、その一言のみ返していた。

ここでいくらやっても無駄だと判断した聴衆達は、

不満顔のまま各団体の指定された隠し場所へ向かって歩きはじめたのだった。


「さ、私達もさっさと図書館へ向かおうか。」

「そうですね、

 ……ヤツの言っていたヒントととやらをどこまで信じたものか。」


 鈴成と星一朗の会話を横で話を聞いていた恵玲奈とセシルが珍しく口を挟む。

これは珍しいなと星一朗と鈴成は思わず二人に視線を移した。


「半信半疑でいいんじゃないの?」

「話半分か、手掛かりがそれしかない以上、

 この際頼ってみるのもいいか。」

「相手がゲーム感覚でいるのならば、解法を用意しておくものではないかと。

 わざわざあたし達の前で言ったんですから、ヒントだと考えて良いのでは?」

「黒瀬兄の疑問はもっともだが、私もこの際だ、

 ”木を隠すなら森の中”というヒントに頼ってみても良いと思っているよ。」


 一同は他の団体同様に、苦虫をかみ潰したような顔のまま図書館へ向かった。

トレハン部部長の思惑とは一体何か、

そんなことはきっと誰も考えてはいないだろう。

それよりも何よりも奪われてしまった自分達の宝を取り戻すことで精一杯だった。


 図書館へ向かう途中、

前方から気怠そうな顔でトボトボと歩いていた男子学生が

星一朗達に気づいたのか、小走りに近寄ってきた。

遠目からでもその姿格好で誰だか大体判断できる。

何せ、年中ほとんど着ている服の種類に変化がないからだ。

厚手と思われる藍色のパーカーに白系のジーンズ、

そして履きつぶしたスニーカーは、

その人物が栗野海斗であることを説明していた。


「あれ?

 黒瀬先輩じゃないっすか、

 それに本条先輩に黒瀬さん、おっと鈴成さんまで。

 どうしたんすか、皆さん仏頂面で。」

「丁度良い、お前も手伝え。」

「は?

 ちょ、黒瀬先輩、フード部分掴まないでくださいよ!

 伸びる!伸びちゃう!」


続く!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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