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道化師は笛を吹く CHAPTER8 「笛吹きの魔術師」

この物語は【箱庭でかく語りき】本編のストーリーとは一切関係ありません。

【箱庭でかく語りき】の登場人物である「鷲谷悦郎」が製作している

ゲームシナリオがこちらになります。どうやってハクスラにしたんでしょう。

「アナタ達はいーですね、

 運が良ければ人間達から食べ物を分けて貰えるんですから。

 アタシの場合は勤労しないと飲めず食せずの無間地獄。

 いやはや選択を間違えましたかねぇ?」


 夕暮れ時、エンリカはアエルの住宅街にある小さな公園のベンチに座り、

目の前で気持ちよさそうに日向ぼっこをしている黒猫と三毛猫に話しかけていた。

無論反応はなく、欠伸を一つ入れてまるまってうつらうつらの猫達。

彼女はこう見えて、動物に話しかける酔狂な趣味を持ち合わせているのだろうか。


「暇なのでアナタ達に話しかけてみたワケですが、

 リアクションが無いと実につまらないものですねぇ。

 やはり常にリアクションをしてくれるディックが一番見ていて楽しいです。」

『独り言はそんな大声で言うものではないよ。

 エンリカ。』


 突如、男とも女ともとれない不思議な声が辺りに響き渡る。

エンリカはこの声の主を知っているようで表情一つ変えずに聞いていた。

するとエンリカはベンチから立ち上がり昼寝をしている猫達に近づいた。

猫達もエンリカに慣れているのか、特に反応を見せることはなかった。

エンリカは猫達を優しく撫でながら答えた。


「独り言ではありません、アタシの声に反応した人物が居ればそれは会話です。

 どうしたんです? 赤目さんからご指示でも?」

『赤目さんの指示じゃ無いよ。

 ふふふ、相変わらず変わった子だね君は。』

「自分では変わっているとは考えていませんよ、普通です。普通。」

『今日は労いと感謝を言いに来たんだ、あの子を助けてくれてありがとう。

 あの子は見ての通り真面目で融通が利かないところがあるから、

 大変だっただろう?』


 声はすれど姿形は無し。

虚空からこだまする声にエンリカはふっと鼻で笑った。

隠そうとしていない人間のそれとは思えない気配、

魔に身を委ねた者特有の気配である。


「それはどうも。

 そんなに心配ならば顔を見せてあげたらどうです?

 彼女、それはもう太陽のように眩しい笑顔を見せてくれるのでは?」


 しばらくの沈黙。不思議な声は少しだけ感情を見せて答えた。


『――出来ない相談だね、太陽の輝きは今の僕にとっては猛毒に等しい。』

「そうですか。」


 無愛想な返答だった。

その言葉を聞いてエンリカは猫と戯れるのを止め、ベンチへ戻っていく。


「それはそうと、

 初めてお会いした時と比べて随分アタシ達側になりましたね。」

『らしくなった、ということかな?

 ははは、赤目さんの薫陶を受けているからね。』

「あの日、美術館で誓約を結んだ事、後悔はしていないようですね。」

『まさか。

 君の言葉が例え僕をたぶらかす甘言だったとしても、

 僕には女神の慈愛に満ちた至言に思えたよ。

 それに停滞した日常に辟易していたからね、これ以上ない機会だと思ったから。』

「……うーん、全世界の女神に謝ったほうがいーですよ?

 アタシはどっちかってーと反対側ですし。」


 女神という単語を浴びせられたエンリカは、

額にシワを寄せ露骨に顔をしかめ、

すっと首につけていた紅いチョーカーに手を伸ばす。

そのチョーカーには数ミリ程度の小さな宝石があしらってあり、

その輝きは鈍く黒ずんでいる。


「それは? 今まで気づかなかった。

 君に似合う良いデザインのチョーカーじゃないか。」

「あー、これですか?

 昔、知り合いから貰ったんですよ。

 珍しい宝石?がついてるから冗談半分でつけているんです。」

「冗談半分、かい?」

「冗談半分でいいんですよ、こーいうのは。

 つけている意味や貰った経緯なんて

 実際問題アタシにはどーだっていいんですから。」

「そういうもの、なのかな。」


 エンリカはチョーカーから手を離す。

もうこの話題は振らないで欲しい、そんな意思表示にすら見える。


「さて、アタシも動くとしましょう。

 ディックが真実に辿り着きそうなので、こっちも潮時のよーです……。」

『ああ、わかっている。

 赤目さんからはそろそろ笛を吹いたらと言われていてね。』

「本業に戻るお時間ですかねぇ。」


 魔術師は笛を吹く。

とある神話で登場する笛は、終末の到来を告げるものだった。

とあるお伽噺では人や動物を操るものだった。

エンリカの言った“笛を吹く”とは、

決して縁起の良い比喩ではないことは明白だった。


「まったく、女泣かせで悪い人ですねぇ。」

『アイツもいつまでも泣いているだけの子どもじゃないさ。

 それに僕はもう人じゃない、魔道に身を委ねた醜き人在らざる者、

 用が済めば灰燼と化すそういう宿命だよ。』


 エンリカは瞳を閉じた。するとどうだろう、

彼女の周囲を取り巻く影という影が、まるで生き物のようにうごめく。

そしてその影達は、ゆっくりと瞳を閉じたままのエンリカを覆いつくしていった。

影はやがて人の形を成す。目も口もない頭に、

光を吸収して逃さない程の漆黒の身体。

人はその姿を見てこう言い放つだろう、あれは化物だと。


『……人には戻れない代わりに、人では成し得ない強大な力を有する誓約。

 僕が望み得た力は(エンリカ)という存在を使役する力、

 そして僕が求めた咎人を瞬時に見つける力。

 かつて苦労して情報収集をしていた事が正直馬鹿みたいに感じてしまったよ。

 対象をこの紅蓮の瞳で見つめるだけで咎人かそうでないか

 見分けることが出来るんだから。』


 声の主は静かに語った。

望みを叶える為、人としての生を捨て変生した事を。

ただそれだけの為に、エンリカは声の主の考えを終始理解出来ないでいた。


「解法は、

 変生した者にとって最も大切な存在の手により殺される事、でしたっけ?

 ああ、だから妹さんにアレを送ったんですねぇ。

 別にアレじゃなくても構わないというのに。」

『あからさま過ぎたかな。

 でもまあ、これくらい判りやすい方がいいさ。』

「ふむ、それはそうとアタシの使役にそんな代償は必要ないんですけどねぇ……。

 まあ、アタシ等の業界ではルールみたいなもんなんでどうしようもないですが。」

『最近思うよ、

 僕も人として生を受けるのではなく、

 エンリカのような存在に生まれた時からなっていたら、とね。』


 エンリカは思っていた。

もし最初からこちら側なら、

そもそも貴方はこんな事態に陥っては居ないだろう、そこは言わぬが花かなと。


「無いものネダリは人間らしい感情ですよ。

 故に、精神的には貴方はまだ人間ですねー。」

『あはははっ、まさか君の口からそんな人間らしい言葉が出るなんてね。

 驚いたよ。』

「……アタシも驚いてます。

 それはもうビックリってレベルで。」

『ふふふ、さぁ始めようか、頃合いのようだ。』

「ふぅ、しかし今回は気が乗りませんねぇ、顔見知りが多いだけに。」


 “黒い影”となったエンリカはそう言って、音もなく夕闇に消えていった。


********


 【アエル市立美術館】の特別展示室、

月明かりが室内へ射し込み多くの人達に

見て貰えるよう着飾った宝飾品達を神秘的に照らしている。

そんな暗がりの中、宝飾品展のメインであるグリーン・ダイヤモンドの台座の前で、

初老の男性が立っている。

視線はずっと宝石に向けたまま、ただ目を細め、

まるで自分の子どもを見るかのように愛しんでいるようにも見えた。


『ロード・フォックス、ここにいらしたのですか。』

「君か……どうだね、見てみたまえ。

 美しいという言葉では物足りないくらいだ。」

『識者内では”忘却の翠火すいか”、そう呼ばれているとか。』


 初老の男性ことロード・フォックスは、

口元を少しだけ緩めコツコツと靴音を立てながら美術館のさらに奥へと歩いて行く。

暗がりだけが広がっており、不気味さだけがそこに佇んでいるようだった。

歩きながらロード・フォックスは言葉を続ける。


「笛を吹く準備は整っているのだろう?」

『ええ、もちろんです。

 ただ今更ながらに僕なんかで良かったのですか?』

「君の目的と私達の目的が一致しているのだから、是非もない。

 君の中に燻る憤怒の劫火は至高の火種となり、

 贄を焼き尽くし我ら眷属達の力となるだろう。

 既に君が献上した純然たる憐れな贄の数は充分、あとは仕上げだけだよ。」

『恐れ入ります。』


 そう言って謎の声の男は闇にその身を溶かしたのだった。


********


「奥様聞きまして?

 あの子、例のヤブ医者の……。」

「ええ存じておりますわ。

 何でも患者達から信じられない額の治療費を請求していたんですって。」

「まあ……っ!

 うちの子もお医者様に掛かったんですけれど、良心的なものでしたわ。」

「この間の新聞で読みましたけれど、自殺したんですって。

 悪どいことをやっていたんですから、当然ですわね。

 主人も言っていましたけれど、自殺を選んだこと自体、驚きではないかしら。」

「保険金もあったそうだけど、警察が押収してワクチン代に充てたのだかとか。

 それで街の人達が助かったのだからヤブとはいえ医者だったのだから、

 本望だったのでは?」


 街のメインストリートから少し離れた商店街、

街行く人達は好き勝手に通りを歩いている一人の少年を見ては、

心無い噂を止めようとはしなかった。

聞こえていないとでも思っているのだろうか、

それとも聞こえても構わないただの子どもだと思っていたのだろうか。

少年の耳には全て届いているというのに。

ゴシップ誌もここぞとばかりに、

事実を知る人間が読めば絵空事としか思えないような記事ばかりを書き殴っている。


「……お、アイツ、例のやつじゃねぇすか?」

「おーマジだ、あのヤブ医者の子どもだろ?

 確か新聞か何かであの顔は見たぜ。」


 小さな広場へ差し掛かった時、

少年と同年代もしくは少し年上の学生達が彼を指さし嘲笑っていた。

人数は二人、背の高い方の学生の手には鉄パイプのようなものが握られていた。

彼等の他に人はいなかった。

罵詈雑言を浴びる程度ならば少年も慣れたもので、特に気にも留めなかった。

遠くから適当な事を言って笑っているだけ、

ある意味無害だったからだ。

ところが今回は少し違った。


「おいお前!

 俺達を無視ってんじゃねぇよ! 聞こえてんだろうが!

 ……あーありゃ一発殴らねぇとダメだわな。」

「犯罪者の子どもなんだから、ナイフの一本や二本持ってんじゃないすか?

 反撃食らうとヤバいっすよ。」

「大丈夫大丈夫、俺達のブキの方が長い。」


 そう言い放った後、背の高い学生は鉄パイプを握りしめ少年へ向かって走り出す。

少年ははっとなり急ぎ逃げようとするも慌ててた事も有り、足が縺れてしまった。

鉄パイプの容赦のない一撃が少年を襲う。

これまでも何度かこういう事はあった、決して初めてでは無い、

故に対処方法も身に付けていた。

両手で何とか頭部を防御するので精一杯、

ただこの嵐が過ぎ去るのを待つほか無い。

少年は殴られている間、一言も喋ら無かった。

ただひたすらに自分を殴りつける人間達の顔を見つめ心に刻み込んでいた。


――決して忘れるものか


「ち、なんだコイツ。

 反撃しなけりゃ一言も口を利きゃしねぇ!」

「もう行きましょうよ!

 何かヤバイ目つきしてますよコイツ!」

「うわ、気持ちわりぃな……しょーがねぇこれが最後だ!」


 学生達は少年を一頻り鉄パイプの形が変わるまで殴った。

流石に彼等もこれ以上やると自分達も危ないと感じたのだろうか。

周りに誰もいない事を確認し広場を後にしたのだった。


「…………口の中、洗わないと……。」


 少年は耐えた。心の中で燻り続ける劫火を保ちながら。

少年はよろめきながら広場に設置されてある水飲み場へ足を向ける。

口の中は血と砂利が混在しており、不快この上ない状態だった。

水飲み場で口の中をすすぎ赤く染まった水を吐き出す。


「…………アリシアだけはどんな手を使っても守らないと……。」


続く

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