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第四十五話 たまには昔の話を

※一部文章がおかしかった為大幅訂正

 今年最後の営業日、オーナーである竜二は

常連客で賑わっている店内からちょっとだけ通りに顔を出した。

通りを吹き抜ける北風の冷たさは例年通り、

仕事着で深呼吸をする程度ならまだしも

このまま動き回るものじゃないなと思っていた。

向かいの古書店【木野子屋】の店主である初老の男が

タイミング良くぬっと暖簾をくぐって顔を出す。

この初老の男こと、織間おりま氏の日課は【箱庭】開店一番の客として来店し、

モーニングセットを食すことであった。

サニーサイドアップにロースハム2枚とレタスが少々、

バターを塗ったトースト1枚にブレンドコーヒー、

これが【箱庭】のモーニングセットである。

起き抜けに竜二のコーヒーは最高だと言ってはばからず、

彼が来店した瞬間、竜二はオーダーがかかる前に調理を始めるのが定番となっていた。

織間氏もオーダーを替えた事は一度も無く、

この不思議な関係は数年ずっと日課として続いている。

そんな織間氏は店の前の掃除をしにきたわけだが、

普段、この時間帯で竜二が外に出ることはあまりない為、

珍しさもあって声を掛けてくる。


「おや、岩尾さんがこの時間に外にいるとは珍しいですな。」

「あ、どうもこんにちわ。

 いえね、ちょっと新鮮な空気を吸いに。」


 織間氏はちらっと【箱庭】の店内に視線を送る。

店内には常連客のいつもの顔が多数あった。

なにやら賑やかそうな様子が見え、

織間氏は何やら思い出したかのようにふふっと笑みをこぼす。

織間氏の店は古書店で、見ての通り絶版になった書籍や雑誌を取り扱っている。

つまりゲームの攻略本やムック本、

果ては珍妙なアンソロジー紛いの解説本まで何でも御座れなのである。

周辺ゲーマー達の間では、過去のゲーム情報(現物)が欲しかったら

取り敢えず【木野子屋】へ行って見るべしと言われている。


「カウンター席で何やら楽しそうにしているのは、

 黒瀬君と岩尾さんの姪御さんですかな。」

「ははは、分かりますか。

 全く、うちが営業している喫茶店だという事を

 忘れているんじゃ無いかと、たまに考えてしまいますよ。

 あとで注意しておかないと。」

「良いじゃ無いですか、今日はもう終わりなのでしょう?」

「まあそうなんですけどね。」

「二人ともよく私の店にも顔を出してくれるお得意さまでね、

 今時珍しい素直な若者だと思いますよ。」

「素直、ですか。

 ははは、言い得ても妙と言いましょうか。」


 竜二は織間氏の言葉を聞いて星一朗とセシルの顔が脳内を過ぎっていた。

素直と言えばその通りだが、欲望に純粋というか興味ある対象へのみ素直というか。

同意するには二人の事を少々知りすぎてしまっていたのだった。


「ほとんどは黒瀬君一人で来るんですけどね、

 たまに妹さんや姪御さんも連れてきてくれて店が華やぐんですよ、

 いやぁ有り難い事です。」

「これはどうもお世話になっています。」


 そんな風にのんびりと世間話をしていると、突然店のドアが開け放たれる。

店内の暖かな空気が外に流れ出て、室内と室外の温度差に竜二は驚いていた。


「もう、どうして星君は!」

「おや泪ちゃん、どうしたんだい、そんなに鼻息荒くして。」


 ふんすっ!と鼻息を荒くして泪が店から出て来た。

少々顔が紅潮しているところを見ると、何やら言い争いでもしてきたのだろうか。

本人の性格はわりとクールで理屈屋っぽいのだが、

見た目はサイドテールの髪型やフリルのついた可愛らしい服装を好んで着ており、

意外とギャップのある人物である。

身長も決して低くなく、スタイルも上から下までバランス良く整っており、

黙っていれば相応の美人であろう。

また何を隠そうこう見えてゲームプレイの腕は天才的であるのだが、

本人はそこまでゲームに興味があるわけではない。

興味は無いが理解はしてくれているようで、

ゲーマーに対しては比較的優しい人物でもある。

多分に星一朗の影響はあるのだろうが。


「姿が見えないと思ったら、竜二さんはここに居らしたんですね。

 ちょっと聞いてください、

 星君ったら私達と話ながらゲームをする指を止めないんですよ!

 話をしている時くらいはって思いません?」

「いや、ほらそこは星一朗君だし、諦めるしか無いよ。」

「……はぁ……そうなんですよね、だから星君なんですよね。

 あーもう!

 ここで私達が納得してしまうからダメなんです!

 ふぅ……さてもっかい戦ってきます!」


 そう言い放ち織間氏と竜二にぺこりと一礼してから、

気合いを入れて泪はまた店内へ戻っていった。


「元気なお嬢さんですなぁ、えぇーと彼女は確か……。」

「ええ、ここ半年くらいから来てくれるようになった

 黒瀬兄妹のイトコさんです。」

「ああ、なるほどですねぇ、顔立ちやら雰囲気がどことなく似ておいでだ。」

「言われてみれば。」

「では、そろそろ仕事に戻りますかな。」


 織間氏はそう言って周囲のゴミ拾いを始めた。

ぱっと見たところゴミが散乱しているわけでは無いが、

放置しておくような状態でも無かった。

元々人通りがあまり多くないのだが、

ここ数日の悪天候も相まって風がゴミを運んできたのだろう、

微妙に蓄積していたのであった。

竜二は織間氏が掃除をはじめたのを確認して、

肩をぐるぐると回し首もぐるっとほぐした後、店内に戻ったのだった。


********


「達也さんは……あー、えーとなんだぁ。

 【箱庭】の元常連でゲーマーの先輩だよ。

 アーケードのゲームに関しちゃ凄ぇの何のって。」

「おいコラ、それじゃなんの説明にもなってねぇだろうが。」

「と言われても、俺はその認識しか。」


 コメカミを抑えて目を閉じる達也だった。

泪から達也について紹介してくれと要望があり、

星一朗が説明すると言い張ったのだが、結果は見ての通り散々たるものだった。

もう少し情報整理して正しく伝えて欲しかったのだが、

と達也は星一朗の額を小突いて思っていた。


白鷺達也しらさぎ・たつやという、

 普段は全国津々浦々を廻っている”サラリーマン”だ。

 まあ元はフリーターしながら、

 ここの常連でしょっちゅう市内のゲーセンに入り浸っていたんだがな……。

 故あって足を洗い、今じゃ立派な社会人ってわけだ。」

「あれ、達也さんってフリーターだったんすか?」

「……どうやってゲーセンのプレイ代を捻出してたと思ってたんだお前は。」

「あ。」


 達也は星一朗の額にデコピンを炸裂させ問い質す。

小気味よい音が店内に響き渡り、星一朗の痛がる声も一緒に響き渡る。

思わず噴き出す彼の妹とイトコと喫茶店オーナーだった。


「……いちち、で、でもほら昼間っからここに居たし、

 居ないときは量販店のゲーセンに居たし。」

「遅い時間のバイトやってたんだよ俺は。

 言っておくが、俺はニートではなかったんだからな!

 ってキミタチ、なんだその信用してないってぇ目は!」


 星一朗を含めた店内の人間の視線、

それは達也の言った言葉を鵜呑みにしていない視線だった。

オーナーの竜二や彼を良く知る星一朗ですらそうなのだから、

当時の達也は今の星一朗の比にならない程に

社会人としてダメ街道を歩いていたのだろう。

達也は竜二と星一朗に向かって、

そりゃねぇーぜと冗談めかして言葉を荒げると、

空になっていたグラスを手に取り冷水を一杯オーダーするのであった。


「ふむ、白鷺さんは言わば星君にとっては趣味の世界の先輩、という認識でいいのかしら?」

「ま、そんなところだろうなぁ。」


 星一朗はようやく携帯ゲーム機から手を離した。

何やかんやしながらもしっかりとゲームを進めてやっと一段落ついたのだろう。


「高校の時なんか悦郎君と一緒に

 ほぼ毎日レベルで通ってたもんね、お兄ちゃん。

 私が何回お母さんに言われて迎えに来たことか。

 一番酷い時なんか、”今日は俺ここに泊まるわー”っとか言って大げんかだよ。」

「うぅ……エレなんは昔っからお兄さんに振り回されてたんだねぇ。」

「サイテー星君。」

「何故このタイミングで俺の過去がほじくり返され、なじられるのか。」

「ま、まあまあ。

 あ、皆さんオカワリどうですか?

 良かったら……。」

「あ、お願いねセシル。

 半分くらいで構わないから。」

「もう達也さんと悦郎君もセットになっているから、

 説得するにも骨だったというか……

 そういう意味じゃお兄ちゃんも成長したね☆」

「にゃろう……ここぞとばかりに。」

「はい恵玲奈ちゃんオカワリ。

 ここに置いときますね。」


 唯一の味方?かどうかは分からないが、セシルは助け船を出してくれた。

恵玲奈と泪は星一朗の過去を良く知る人物でもある。

妙なタイミングで過去が掘り出され、

結果として強烈なダメージを受けてしまいかねない。

これ以上傷口を広げる必要はないと判断した星一朗は、

くるっと身体を達也の方へ向け口を開いた。


「そういや最近、達也さんはゲーム何してんですか?

 スト4(ストリートファイター4)? ギルティ(ギルティギアイグザードサイン)?」

「あ、逃げた。」

「……チェスター君ってば(気持ちは分かるけど)」

「に、逃げてねぇよ!

 ほ、ほらゲーマーとして興味あるし!」

「あん?

 今はゲーセン行く時間もねーし、最近は格ゲーあんましてねぇんだ。

 どうもレトロゲームに回帰しちまってな、

 パソコンで復刻してるゲームばっかしてんぜ。」

「へぇ~レトロゲームかい。

 【イーアルカンフー】とか【スパルタンX】とかかい?」

「だから竜二さんも格ゲーを無理矢理絡めないでくださいよ。

 別にジャンルはなんだってかまわねぇさ、

 【ドラゴンスレイヤー4 ドラスレファミリー】とか昨日はやってたな。

 ただ攻略方法がサッパリで何度もゲームオーバー食らったけどな。」

「パソコンでとなると、MSX2版あたりかい?

 いやー懐かしいなぁ……僕は音楽を聞きたいが為に

 全キャラ使って挑んだもんだよ。」


 星一朗は諸先輩達が口にしたゲームタイトルを聞きながら

うんうんと首を縦に振っていた。

この手の話題についてくれる人材は星一朗以外にいるとすれば、

可能性としてセシルのみであろうか。

余談ではあるが、コンシューマーゲーム(家庭用ゲームとも)の中でも

パソコンを使用するゲームがある。

今でこそゲーム専用機を使用したゲームソフトが多く発売されているが、

過去を見ればパソコン用ゲームソフトの方が多かった時代がある。

アーケードで稼働していたゲームを移植するという場合も、

パソコン版がスペック的にも適っていたこともあるだろう。

特にグラフィックス面とサウンド面は顕著で、

移植度の高さが注目されることも多かった。


「ねぇセシル、あの人達何について語っているのかしら。

 貴女分かるかしら?」

「さ、さぁ……あたしにもちょっと。」

「ははは……もうね、私には謎の呪文の羅列にしか聞こえないのだよ。」

「いやぁ~こりゃ苦労するねぇ、誰とは言わないけどさ。

 お、ちょっとウチデザート頼もうかな。」


 流石に話しについて行けない普通の人達は、

食後のデザートを頼むべくメニュー表を見ながらアレやコレやと言っていた。


「ウチはチョコパフェねー。」

「じゃあ私もついでに同じものをお願いしようかしら。

 セシルはどうする?」

「んー、あたしは遠慮しときます。」

「チョコパフェ2杯、んで私はコーヒーゼリー1皿っと。

 もうああなると竜二さん仕事に身が入らないんで私が代わりに作るね。」


 そう言うと恵玲奈は席を立ちカウンターの裏に回った。

そして自分のエプロンを身につけ、

手首に巻いていたシュシュで髪を纏め上げる。

いつもやっている仕事始めの消毒をした後は、

テキパキと注文の準備を始めた。

チョコパフェにコーヒーゼリーであれば彼女にとってはお茶の子サイサイである。

手際よくパフェの材料を並べ決められた順に盛っていく。

普段であればある程度スピードが求められるのだが、

今日はスピード度外視のクオリティ重視対応。

恵玲奈は竜二に許可を取って常連客専用盛り合わせを作ったのだった。

ちなみにコーヒーゼリーは冷蔵庫へ放り込まれてあったのを出すだけだったようだ。


「ヘイ、お待ちどおさまー。

 ほいみずっち、ほい泪、何も無いのもアレだからセシルさんにはこれね。」


 恵玲奈は手際よくチョコパフェ2個とコーヒーゼリー、

そして注文に無かったクッキーの入った小皿を一つ追加してテーブルに持ってきた。

クッキーの入った小皿はコトっとセシルの前に置いた。

チョコチップを混ぜ込んだオーソドックスなクッキーに見える。


「恵玲奈ちゃんありがとう、これって……?」

「来年から出す予定の新メニューの一つで、今私主導で試作しているんですよ。

 なのでセシルお姉様! 味見をお願いします!

 ぱっと見はチョコチップクッキーだけど、

 おからとか健康系素材を盛り込んで見たんですよ。」

「お、お姉様って……え、え、えーとじゃあ頂きますね。」


 ちらっとセシルの前に置かれたクッキー皿に視線を送る水希。

香ばしい甘い匂いが彼女の鼻孔を刺激する。


「うわーいいなぁ、ねえエレなんウチももらっていい?」

「まずはそのチョコパフェを何とかしようか、みずっち。」

「それにしてもあの人達、かなり盛り上がっているみたいだけれど、

 濃すぎて意味不明もいいところなのよね。」

「気にしたら負けだと思うの私は。」


********


 ゲーマー達の会話は続いている。

MSX2版の話から始まったのだが、

いつの間にかPC-88やX68K(X68000)と言ったパソコンの事にまで話題は拡大していた。

流石の星一朗も世代が違いすぎる為、

リアルタイム経験談は出来なかったようだが、

何故かゲーム内容については的確に語っていた。

現在は公式にエミュレーション環境が提供されている為、

ゲーム自体をプレイする事はそう難しい話ではない。


「小学生の頃、何故か学校の理科準備室に古いPCがあって、

 ワケも分からず【ハイドライド3】を遊んでましたよ。

 今にして思えばあれは……MSX2だったんすかね。

 英語とか読めるわけないんで、

 取り敢えず敵っぽいキャラを攻撃しまくってました。」

「なんで理科準備室にMSX2があんだよ?」

「さぁ……明らかに私物っすもんね……。」

「先生が持ち込んだ、というのが妥当なんだろうねぇ。」


 達也はそう言えばと何かを思い出したようで、

ボクシングのシャドーをしながら語り出した。

決して元ボクサーもしくはボクシング部だったわけではないのだが、

妙に堂に入っている。


「まあ俺が中学の時は、

 授業中に皆で【バーチャファイター2】のトーナメント対戦やったけどな。

 何故か俺がアケコン(アーケードスティック・アーケードコントローラ等の事)を

 2個も持ってくる羽目になったが……。」

「マジスかそれ。

 いいっすねぇ、でもリングアウトで試合終了多かったんじゃ?」

「まさにそれ。

 シロートって何でああもジャンプしたがるんだ?」

続く!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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