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第四十一話 光あれ

「……く、頭いてぇ……んーここはどこだ?」


 星一朗は強烈な眠気に抵抗しつつ頭痛が残ったまま、

フラつきながらも何とか立ち上がり周囲を見渡した。

薄暗く空気は少々湿っている。

雰囲気的には閉鎖空間にいるようだと判断出来た。洞窟か、あるいは…。


「イベントかな?

 それにしては乱暴だ……。」


 北方山麓の街の酒場で、

出されたものをホイホイと疑いなく受け取った自分を恥つつ文句を垂れた。

あれが睡眠薬だからまだよかった、

致死量の毒だったら別の場所で目を覚ましていたことだろう。

逆説的に、まだ始末(ゲームオーバーに)する気は無かったということでもある。


「んん……。」


 星一朗の隣で胎児のように丸まって眠っていたセシルが目を覚ました。

目をこすりつつ星一朗を見つめては、パチクリと瞬きをする。

繰り返すこと3回。

どうやら自分の置かれていた状況を思い出したようで顔を紅潮させ、

セシルはこほんと咳を一つ入れ、

ニヤニヤしながら自分を見ていた星一朗を睨む。


「よ、おはよう。」

「いじわる……チェスター君のいじわる!」

「面白かったので、つい。」


 星一朗達がいる場所、

それはサッカーのスタジアム級の規模の地底湖がある巨大な地下空洞だった。

さしたる光源は見当たらないが、空洞全体が薄ぼんやりと光っていた。

自生している植物や棲息している昆虫のおかげだろう、

星一朗は昔読んだ百科事典にそういう類の生物が載っていたことを思い出していた。

足元を照らすには充分の光源とまではいかないが、

【レミーラ】や松明よりは不安要素は少ない。


「空気が流れていますね、地表が近いんでしょうか。」


 セシルは嘗めた指先を晒して言った。

空気が流れていることから、どこかで地上と繋がっているのだろう。


「とにかく移動だな、空気の流れを追ってみるか。」

「ですね。

 それに少し運動もしないと。」


 どの程度時間が経ったのかは分からないが、

血の巡り具合からせいぜい数時間といったところだろう。

ここに留まる理由も見つからなかった星一朗とセシルは風を追って歩き始めた。


********


 魔法戦士と魔法使いのコンビは、

とある禍々しい気を放つ巨大な門の前で座りこんでいた。

開けようとアレコレ出来る限りを尽くしたのだが、

この重厚かつ巨大な門はピクリともしなかったのである。

人間二人程度では、どうすることも出来ないのかと考えてしまい、

ヘタっと地面に座りこんだのであった。


「引き返す?」

「却下。」

「だよねぇー、戻ってもなにも無いしね……あああああああっ!

 お手上げだよこんなの!」

「ちょっと恵玲奈!

 急に叫ばないでくれる?」


 恵玲奈は頭を抱え込みながら、溜息交じりで状況を嘆いていた。

泪はそんな恵玲奈の様子を突っ込んではいたものの

心境としては似たり寄ったりであった。


「この手の門を開けるには、

 やっぱり”トリガー”が必要なのよ……それがなんなのかさっぱりだけれど。」

「物理的なカギじゃないよね、どー考えてもさ。」

「可能性としてアイテムは無いわね、あと呪文も同様。」


 いきなり泪の表情が険しくなったかと思うと、

地面に転がしていた杖に握りしめ恵玲奈には目で合図を送った。

何者かが近づいてくる、と。

耳を澄ませるとほんの僅かだが恵玲奈にも足音が聞こえた。

その数は二つ。

靴を履いた人間の歩く音だと判断した二人はより警戒を強めた。


「……(気付かれた?)」


 二つの足音が急に聞こえなくなったのだ。

肉眼で確認しようにも薄ぼんやりと光っているその背景には、

足音の主と思われる存在の姿は見えなかった。

思った以上に距離があったのか、

泪と恵玲奈の額にはビッシリと冷や汗が浮かんでいる。


 しばらくこの妙な緊張感が続いたが、その崩壊は突然やってきた。

足音がまた聞こえてきたかと思うとリズムが今までと比べ早くなったのだ。

走って近づいてきている。


「おーい!

 恵玲奈っ!泪っ!」


 声が聞こえた、それもやたらと聞き慣れた声が。

はじめ恵玲奈も泪も幻聴だと思った、

彼がここにいるわけがないと思っているからだ。

やがて声の主が座り込む二人の前に現れた。

毛皮のフードに毛皮のマントを身につけた冒険者風情の星一朗と、

彼の傍らに同じような格好をしたセシルの姿もあった。


「なんだよその顔……まるで幽霊を見たみたいだな。」

「気持ちは分からなくもないですけど……。」


 我に返った恵玲奈が口を開く。


「どうしてお兄ちゃんとセシルさんがここにいんの?」

「そりゃ俺達のセリフだっつの。」

「……なるほど、そういうことか。」


 泪が突然納得顏をして言い放った。

他三人はお互いの顔を見ては疑問符を飛ばすばかり。

泪は三人の様子を見ながら、

うんうんと頷くと星一朗の肩をポンっと叩き言った。

その様子は歌劇を演ずる舞台女優のような仕草だった。

思わずたじろぐ星一朗、恵玲奈はきょとんとした顔で泪を見つめていた。


「勇者様、お待ちしておりました。

 どうか私達二人をお仲間に加えてくださいませ。」

「へ? なんで俺が勇者だってお前知ってんの??」

「私は呪文を、あの子は魔法剣を少々嗜んでおります。

 必ずやお力になりましょう。」

「ちょっと、泪さん?」

「おお、お仲間にして頂けると!ありがとうございます!

 私は泪、あの子は恵玲奈、共に魔王を倒すため頑張りましょう!」

「会話のキャッチボールをしようよ。」


 泪は星一朗の質問をスルーして、

芝居がかった口調で私達は”勇者一行”ですよと公言した。

何かワケがあるのだろうと察知した他三人は、

泪のペースに合わせることにした。

白々しいとは思いつつも互いの自己紹介と保有する戦闘能力を確認した。


「俺は勇者だ!

 俺の【ライデイン】で魔王もイチコロだぜ!」

「あたしは賢者です、

 【ホイミ】や【ギラ】で戦況に応じて使い分けます。」

「私は魔法戦士だよ!

 私の火炎斬りが魔物を切り捨てろと呻るぜぃ!」

「私は魔法使い、

 眼前の敵にはこの【ベギラマ】をお見舞いするとしましょうか。」


 ちなみに星一朗が勇者ポジションであることに妹から文句の声が上がったが、

反対勢力は彼女一人だった。

互いの役割を把握したところで泪はさっと手をあげ会話を切り上げる。


「さぁて、どう出るかしらね。」

「……お前、俺が勇者って適当言ったな!」

「いいじゃない、本当に”勇者”様なんだから。」


 泪がほくそ笑んだ瞬間、

今まで開く気配すら無かった禍々しい巨大な門が鳴動しはじめたのだ。

重低音を響かせ、まるで四人を招くように門はゆっくりと開いた。

門の先は暗闇が広がっていたが、

あからじめ配置されていた青白い炎の蝋燭が灯り、

その暗闇の空間をゆっくりと照らしていく。

どこかで見た光景に星一朗とセシルは渇いた笑いを浮かべるしかなかった。

奥には玉座らしきものも見える。


「光あれ……ですね。」

「あら、どうぞお入りください、と言っているかのようね。」

「何で急に開いたんだ?

 泪よ、何か知ってるんなら教えんかい。」

「ほえー、何やってもダメだったのになんで?」


 泪は、これはあくまでも私見と前置きして説明を始めた。


「仮説だけれど、この門の開門条件はカギとかじゃなくて、

 勇者一行が門の前にいることだったんじゃないかなと。

 わざと勇者の存在を声高に言ったんだけれど、正解だったのかしらね。」

「あーそうか、だから二人じゃ全然ダメだったんだ。」

「想像だけれど、

 魔王と相対するものは勇者とその仲間達であるべき……

 開発者はそう考えているのかもね。」

「あり得え……るな。」


 四人は警戒を強めながら門の中へ入っていった。

青白い蝋燭の炎が時折ふわっと揺らめく。

目的地は門のところからはっきりと見えていた玉座の前に辿り着くと、

ある風景の中に同じ映像を映し出す鏡があるような違和感を覚えた。

するとその違和感があった場所の空間が揺れた。


『グルォォォォォッ!』


 低くおどろおどろしい獰猛な咆哮がした直後、

虚無の空間に突如巨大なモノが現われる。

素人目に見てもその存在がそこらで蠢く魔物と格が違うことは明白だった。

妖しく輝く紅の双眸、鋼鉄よりも硬い鱗、

背中には自身の体長より一回り大きな翼があった。

ロールプレイングゲーム、いやもっと範囲は広く、

ファンタジー世界に置いて絶対強者として描かれる存在、名をドラゴン。


「……【ダースドラゴン】か?」


 橙色の強靱な身体、敵を威嚇するような紫色の鶏冠、

ギロリとこちらの睨む鋭い眼光に思わず

びくっと身体をふるわせるセシルと恵玲奈。

星一朗の言った【ダースドラゴン】とは、

【ドラゴンクエスト】のラストダンジョンに登場する魔物の一種で、

睡眠呪文ラリホーを使用する強敵である。

ちなみに”ダース”の意味だが本来、

ダークドラゴンと命名される予定だったらしく、

諸事情(文字制限)等により”ダース”になったという噂である。


「今にも襲いかかってきそうな気配だな、おい。」


 そう言って星一朗は背中に装着していた槍を構える。

鉄製の槍は重量感があり、長さも通常の槍と比較して幾分か長めである。

呼応して他三人も同様に獲物を構える。

星一朗はちらっと泪を見やる。

そして【ダースドラゴン】をびしっと指した。

泪は星一朗の意図が分かったようで、杖を構えとある呪文を用意する。

星一朗はニッコリと笑み、

恵玲奈の肩をぽんと叩いてドラゴンへ攻め込むぞと促した。


「あいた! わかってるよ、もう!」

「おっしゃっ! 恵玲奈っ!

 ドラゴンの炎に気をつけて【氷結斬り(マヒャドぎり)】を叩き込め!

 セシルは俺達のバックアップを頼む!」

「はい! チェスター君、恵玲奈ちゃん! 気をつけて!」

「もう、口で言ってくれないかしら! 【ヒャダルコ】!」


 星一朗と恵玲奈は獲物を降りかざしドラゴン目がけて駆ける。

二人の到着よりも早く、泪の【ヒャダルコ】が発動、

巨大な氷柱が宙空より現われ【ダースドラゴン】へ襲いかかった。

いかな鋼鉄の鱗を持つドラゴンとはいえ、

呪文によるダメージは防げない様子だ。

巨大な身体のあちこちに凍傷と思われる傷が出来ていた。

星一朗はその傷目がけて槍を突き刺す。

恵玲奈も兄の真似をして、魔法剣を発動させ斬りつけた。

【ダースドラゴン】は二人の攻撃を受けたまらずのたうち回った。

巨体にわりに敏感にダメージを受けているようだ。

尻尾や翼、あるいは両腕の鋭い爪を使って星一朗と恵玲奈に襲い来る。


「全力で回避っ!」

「言われなくとも、絶対に当たりたくないよっ!」


 セシルと泪は【ダースドラゴン】の動きを見ながら

呪文による中距離攻撃を行っていた。

的が大きいことが幸いし呪文が外れることは無かったが、

やはり炎系の攻撃は効果が薄いように見えた。

【ダースドラゴン】の大ぶりな攻撃を何とか回避し、

星一朗と恵玲奈の攻撃や呪文攻撃を数回与えた頃、

急に【ダースドラゴン】が大きく吼え口元に紅蓮の炎が現われる。

映画に登場する大怪獣の吐息よろしく、

”溜”動作があると踏んだ星一朗は

一気に【ダースドラゴン】との距離を詰める。

槍を通して【ライデイン】をゼロ距離で叩き込む算段だった。

だが……まさか、【ダースドラゴン】の炎がノータイムで来るとは。

……間に合わない、星一朗がそう思った時、

彼の目の前には紅蓮の炎が迫っていた。


「いやぁぁぁぁぁっ!」


 セシルの悲痛な叫び声が空間にこだまする。

そこで、この場に居た四人の意識は途絶えた。


********


「はっはっはっ、

 仁衣奈にいなちゃんお願いだからアイアンクローは止めてくれないかな。

 い、意識が飛びそうだよ……。」

「そのつもりよ、エイジ君。

 私の見えないところでセシルを危険な目に遭わせたばかりか、

 セシルの大事なお友達まで巻き込むなんて、

 改めて私からの薫陶が必要のようね。」


 セシルの父親はセシルの母親から笑顔でアイアンクローを決められていた。

がっしりと掴まれたそれはまるで猛禽類の爪の如き力強さだった。

セシルと同じ黒髪でボブカットに切りそろえられており、

化粧の影響もあるだろうが年齢以上に若く見える。

背丈はセシルより少し高く、スタイルはセシルの方が良いようだ。

シックで落ち着いた深紅のスーツにタイトスカート、

ハイヒールも赤で統一されていた。


 四人はエイジに呼び出され、社長室というプレートが掲げられた部屋にいた。

しばらくエイジと歓談していたところ、

仁衣奈が突然姿を現し今の光景へと繋がっている。

二人の側で娘であるセシルは、

薫陶の使い方が間違っています!と母親に突っ込んでいた。

さらにその近くでセシルの叔父である竜二が青筋を立ててへたり込んでいた。

コメカミ付近に指の跡が見える。

どうやら仁衣奈から有り難い物理系の説教を頂いたのだろう。

そんな様子を星一朗、恵玲奈、泪は遠巻きに見つめていた。


「セシルさんのお母さんが一番強いっぽいね。」

「初めてお目にかかるけれど、本条さんとお母様ソックリね。

 雰囲気もそうだけれど、容姿なんて瓜二つ。

 彼女がショートにしたらもう遠くからじゃ見分けつかないんじゃなくて?」

「……俺、

 さっき会ったときにセシルさんのお姉さんですか?と言ってしまったぞ。」


 何故か恵玲奈と泪からジト目の視線を浴びる。

星一朗は二人を一瞬だけ見て、視線を外した。


「何故なのか。」


 この間も仁衣奈の素敵なアイアンクローは、エイジの脳髄を締め付けていた。

エイジのうめき声はどんどん弱々しくなっていく。

だがしかし、仁衣奈の表情は一向に変わる気配はない。


「……に、仁衣奈ちゃ……や、やめ……。」

「お母様、もうそれくらいで……お父様が白目を剥いています!」

「あぁなんて優しいセシル、

 エイジ君にはしっかりと反省してもらわないと、ね?」

「姉さん、そのくらい……いや何でも無いです、存分にお続けください。」


 笑顔が怖かったのか、幼少時のトラウマが蘇ったのか、

竜二は姉と決して視線を合わせようとしない。


 ここに呼び出される前、星一朗達は見知らぬ部屋のベッドの上にいた。

部屋の雰囲気から、そこが施設内の一室だというのはすぐに分かったが、

置かれてある機材やスタッフの顔ぶれから

そこが仮眠室ではないことは明らかだった。

しばらくぼーっとしていたが、エイジの秘書である日向が現われ、

この社長室へ案内されたのである。


「社長が落ちたところで、

 私からある程度説明をさせて頂きたく存じます。」


続く!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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