第三十九話 セオリー・パート2
第三十九話のパート2です
第三十九話 セオリー・パート2
「じゃあ泪お願いっ!
開幕早々、眠ってもらおう!」
「とても効きそうにないんだけれど、睡眠呪文!」
打ち合わせ通り、件の睡眠呪文が効くのか早速試した。
眠ってくれればラッキー、効かなくて当然の構えだ。
この時ばかりは恵玲奈も兄のプレイ内容を
聞くなりなんなりしておけば良かったと、ほんの少しだけ後悔していた。
こんな事になる何て想像できるわけは無いのだが。
ちなみに彼女の記憶の中の【ゴーレム】とは、
【ドラゴンクエスト】に登場する城塞都市メルキドを守る人造魔物の事である。
勇者(主人公)は街に入るためにこの【ゴーレム】を倒す必要があり、
【妖精の笛】と呼ばれる対象を眠らせる効果のある笛を使えば、
楽に倒すことが出来る。
レベルを上げれば使わなくとも勝てるわけだが、
攻略のお約束はしっかりと守る兄・星一朗であった。
「やっぱり駄目……かな?」
もちろん睡眠呪文は効果なし。
逆に呪文を発動させたことで泪にヘイトが向いてしまった。
恵玲奈は急ぎ【ゴーレム】の懐へ入りこみ、
慌てて繰り出した【火炎斬り】で斬撃を与える。
多少、ダメージを与えることが出来たのだろう、
【ゴーレム】の身体を構成する岩石がボロボロと崩れた。
岩石を素材に製造された守護者【ゴーレム】は、
その鈍い巨体を揺らして周りをうろちょろしている人間目掛け、
現在命中率0%の殴打攻撃を繰り出していた。
地面を殴りつける度にもうもうと砂煙が巻き起こる。
「おーにさん、こちらっと! 動きが遅いよー。」
見てからでも回避余裕ですとばかりに、
魔法戦士・恵玲奈と魔法使い・泪のコンビは【
ゴーレム】の注意を充分引きつけてから確実に回避していた。
隙を見ては泪が呪文で、恵玲奈は魔法剣で攻撃を繰り出していた。
「恵玲奈っ!
前ちゃんと見て、地面に穴が空いてる!」
【ゴーレム】によってあけられた穴に、
足が取られそうになっていたのを回避する恵玲奈。
泪は周りを良く見て戦況を分析していた。
魔法使いは常に戦闘では冷静にならなければならない、
以前に読んだことがある漫画の知識を活かしていた。
【ゴーレム】の拳は反復運動のように何度も地面を殴りつけている。
見ての通りに重そうな一撃だ。
当たったら最後、致命傷確定のゲームオーバーになってしまうだろう。
偶然なのか、必然なのか、
この2人も星一朗やセシル同様に
今までただの一撃も攻撃を受けていなかった。
彼女等がその違和感に気づいているのだろうか。
「……いったぁ~!
エンチャントなしじゃ硬すぎて剣が通らないよ!」
恵玲奈は思い付くまま魔法なしで剣を振るったようだ。
空しくも甲高い金属音が周囲にこだました。
堅牢な身体を持つ【ゴーレム】にとってそれは羽虫の一噛み、
彼女のチカラ程度ではダメージにならなかったわけである。
泪はその様子を見て杖を構えると声を張って言い放った。
「恵玲奈下がって! 【ヒャダルコ】!」
泪は恵玲奈の離脱を確認し、中級の氷結呪文【ヒャダルコ】を唱えた。
この攻撃呪文は泪が扱える最強呪文であり、
これが効かないとなれば攻撃呪文は全てお手上げになる。
泪の言葉の後、成人大の氷柱が数十個宙空に出現した。
そしてそれは加速を伴いながら【ゴーレム】へ向かって落下する。
轟音と共に氷片と砂煙が巻き起こり一時的に視界が遮られ、
気温もぐっと下がったように感じられた。
周囲に物音はなく降りしきる雪が雑音全てを吸収しているようだった。
2人はしばらく警戒を続けていた、油断大敵、石橋は叩いて渡れである。
「もんのすごっ!
泪ってばこんなトンデモナイ呪文使えたんだー。
流石にこの威力だもん、【ゴーレム】だってヒトタマリもないんじゃないの?」
「手応えはあったけれど……。」
ゆっくりと泪は爆心地へ近づく。
気配を感じないのは人造の魔物だからかしら、と意味不明な事を考えながら。
丁度その時だった、周囲を覆う砂埃と氷片を吹き飛ばす程の突風が吹いたのは。
辺りをまるで霧のように覆っていた砂埃と氷片は全て吹き飛んでしまい、
目の前には【ヒャダルコ】の直撃を受けて凍り付けになった、
言わばアイス・ゴーレムが残っていた。
「うぉーっすっ~! 余裕っち!」
「それ誰の真似よ。」
「……こほん、
ともかく最大の障壁を突破したんだし、泪も少しは喜んだらどお?」
「何言っているのよ、最大の障壁なんてこれからじゃない。」
「へ?」
思わず間の抜けた星一朗のような声を挙げる恵玲奈。
「クエストの事もあるけど、妙なことばかりじゃないの。
どうして私達は今まで無事なの?」
「私達の実力!
……と言い放つほど鈍感じゃ無いつもりだけど、偶然じゃないよね。」
「そう。
体感ゲームという性質上、
私達は常にダメージを受ける危険性に晒されているはず。
なのに、これじゃあヌルゲーどころか、
○○(不適切発言の為、自主規制)ゲーじゃないの!」
「ですよねぇ……泪が改めて言ってくれたおかげで、
ゴーレム戦も違和感ばりばりになったよ。」
「この様子だと、星君達の方も同じような状況かしらね。」
「かもね……、それはそうとさっさと街に入っちゃおうよ。
この氷像、ほっとくとさ氷溶けてまた動き出すんじゃない?」
「えーと、商工会本部の事務所に行って
”ガイ”という人に会えば良いのよね。」
********
麓の街には人が一人もいなかった。
雪が舞っている事も有り、人肌恋しい気温でもある。
オブジェクトは揃っているのだが、肝心の人間が誰もおらず寂しい限りである。
体感ゲームとなると人間も本物、
つまりエキストラを用意する必要があるのだろうか、
と泪は街の通りを歩きながら考えていた。
目的の商工会本部までの道程は非常に分かりやすいものだった。
街の入口に簡単なマップがあり、
そこで確認する限りでは大通りの真ん中あたりまで行けば
商工会の看板があるとのことだった。
「だーれもいないね。」
「ゴーストタウンなのは、現状仕方ないとは思うけれど。」
「そっか、体感ゲームなんだから、バイト雇ったりしないと駄目なのか。」
「バイトって……まあ、端的に言えばそうね。」
「あ、泪!
あったよ商工会の看板。」
大通りの真ん中あたり、
マップ通りの位置に商工会と書かれた簡素な看板が見えた。
雑居ビルのようなアパートのような建物の二階が商工会本部のようで、
他は別の店だったり事務所だったりしているらしい。
どうやら二階へ上がらなければならないらしい。
階段を数十段上がり突き当たりのドアが商工会本部の事務所入口のようだった。
泪はドアノブに手を掛け、ノックもせずに乗り込んだのだった。
「お邪魔するわよ。
貴方がガイさんかしら?」
「ちょっと泪ってば!」
勢い良くドアを開けたその先には、眼鏡を掛けた優男が立って待っていた。
そして二人を見てにこりと微笑み一礼した。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりましたよ。
恵玲奈さんに泪さん。」
「あーっ! 貴方は日向さんじゃないですか!
ガイさんて聞いたことがあると思ったら。」
「お久しぶりです恵玲奈さん。
先日も含めお世話になっております。」
その男、恵玲奈の知る人物だった。
名を”日向 凱”と言い、
ご存知本条エイジの秘書を務めている。
どうやら凱もテストプレイに駆り出された口らしく、
大変だったようですねと言いたげな表情を浮かべていた。
泪にとっては初対面、第一印象は面倒くさそうだった。
「これが依頼の品です、お確かめください。」
泪は荷物袋から”潮風のスパイス”の入った小瓶を取り出して凱に渡した。
凱は品を受け取るや否やフタを開け匂いを嗅ぐ。
「確かに受け取りました。
この”潮風のスパイス”は、一旦フタを開けてしまうと
独特の風味が一気に落ちてしまい価値が下がってしまうのです。
これはちょっとしたチェックでしてね、
未開封で届けるというのもクエストの一つだったのですよ。」
「あはは、そこまで気が回らなかったよー。
もう戦闘になったらどうしようとか、そればっかり。」
「ええ、そうね。
中身を開けようなんて思いもしなかったわね。」
「と言うわけでクエストクリアです、おめでとう御座います。」
「ありがとうございまーす、やったね泪!」
泪は部屋に置かれてあった椅子を見つけ、
凱に座っても構わないかしらと訪ねた。
凱はもちろんお疲れでしょうと身振り手振りを交えて了承したのだった。
恵玲奈も泪に真似て空きの椅子に座る。
外敵が襲ってこない場所で、ゆっくりと腰を降ろし休憩する。
数時間ぶりの、しかもゲームとはいえ、
この安堵感は中々味わえないものだろうと恵玲奈と泪は思っていたのだった。
「ところで凱さん、
貴方に聞きたい事があるのだけれど、構わないかしら?」
「答えられる範囲で良ければ。」
「ありがとう。」
「単刀直入で聞かせてもらうけれど、
この体感ゲーム、どこまで”本物”なの?」
沈黙が支配する。
泪の質問のせいで途端に重苦しい空気になってしまった。
この時、泪は凱の反応から本条社長同様に、
ノーコメントや企業秘密と言われて逃げられると思っていた。
だが返ってきた答えは意外なものだった。
「一部”本物”ですよ、あとはフェイクです。
フェイクと言っても本物にしか見えないでしょう?」
そう言って肩を竦めた。
彼の言葉はどこまでフェイクなのか、泪の疑いは深まるばかりである。
「まさか返答を貰えるなんてね。
良いのかしら?
結構シークレットな内容じゃないの?」
「構いませんよ、貴方達はテストプレイヤーです。
仕様を知っておいて損はないはずです。」
「ふうん。」
「泪も凱さんも目が怖いよ……?」
何故か置いてけぼりを食らった恵玲奈は、
二人を交互に見ながらあわあわとするのが精一杯だった。
こういう時、星一朗やセシルが居てくれたらと思っていた。
意外と恵玲奈は兄の事を頼りにしているのが分かる。
取り敢えずクエストはクリアした二人は、しばらくこの空間でのんびりすることにした。凱は仕事があるので、と言って部屋に設置されてあった場違いのパソコンを起動させカタカタをキーボードを叩いていた。
よくよく考えれば数時間は楽に動きっぱなしだった、
そう思った途端疲れは一気にピークを迎える。
座り心地の良い椅子のせいもあるだろうが、
恵玲奈は目を瞑ったままうつらうつらと船を漕ぎ出していた。
泪も人のことは言えない状態だったようで、
誰かに連絡を取っていた凱に声を掛ける。
「少し休ませてもらっても良いかしら?
……一段落したらほっとしてしまって。」
「それは構いません。
隣の部屋が仮眠室ですのでご自由にどうぞ。
ははは、恵玲奈さんはすでに夢の中ですかね。」
「そうみたいですね。
あ、そのままで結構、恵玲奈は私が運びますから……と言うかコラ恵玲奈!
起きなさい寝るなら横になって!」
「ふにゃ……いひゃいいひゃい……ほ、頬をつねらないでよ~。」
「ほら立って、そこの部屋に行くわよ。」
泪に叩き起こされた恵玲奈はぶつくさ文句を言いながら、
目は虚ろのままに泪の後についていったのだった。
仮眠室に二人が入ったことを確認した凱は
おもむろに懐から携帯端末を取り出し通話を始める。
「こちらのテストは完了しました。
ええ、はい、そうです。
例の問題については開発のほうから聞いていますが……はい、分かりました。
そちらも終わったようですし、
最終的な判断は現場でのチェック後に行った方が良いようですね。
はい、数時間後にそちらへ向かいますので。
ええ、では失礼します。」
続く!
ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。
一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。




