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第三十七話 クエスト

 暗く不気味な雰囲気を醸し出している森の中を、

星一朗チェスターとセシルは

呪文【レミーラ】の光を頼りに周囲を警戒しつつ、

森の入口付近にあった村で聞かされた洞窟を探していた。

村人の話によると、その森の奥の洞窟には村人達を狙う

凶悪且つ獰猛な人食い魔物が棲みついているのだとか。

どんな手を使ってでも村の平和の為、

即刻退治してほしいと頼まれたのである。

魔物の数は一匹、目撃証言を元に

村人が描いた手製の手配書を渡されていた。

星一朗は手配書を見ながら味がある絵だなと思っていた。


 かれこれ森の中を歩いて一時間以上は経つだろうか。

普段運動をあまりしない二人の足腰は疲労感でいっぱいだった。

どこか安全そうな場所で休憩をしたいところなのだろうが、

いつ魔物が襲ってくるかわからない状況である。

おいそれと腰を降ろす事は躊躇われていた。

ふとセシルは頭上を見上げる。

【レミーラ】の光がいつの間にか小さく弱くなっていた。

光が弱くなる、つまり闇が強くなると同義である。

この時を見逃すほど、闇の世界を闊歩する異形達は優しくは無い。


「ちぃっ! 出たなお約束っ!」


 二人の前に青い半透明なぷるぷるとした

ゼリー状の身体を持つ魔物が茂みの奥から現われた。

青い身体には大きな目と赤く大きな口があるだけ。

映像で見るとの実際に見るのとでは迫力が違う。

その数5匹。

魔物の中では最下位に属する低級魔物であるが、

今の二人に、しかも同時に5匹は荷が重い。

星一朗は渇いた笑いを飛ばしながら【銅の剣】を抜き放ち戦闘準備、

セシルも【ブロンズナイフ】に手を掛けたまま魔物達の動きを見つめていた。


「呪文で先手!

 あとは肉弾戦だ!」

「はい! 先手打ちます!

 【ギラ】っ!」


 セシルは魔物を標的に自身の腕を伸ばし、

さらに人差し指も伸ばして、ギラの呪文を叫ぶように唱えた。

言葉とほぼ同時に彼女の指からオレンジ色に輝く帯状の炎が生まれる。

オレンジ色の帯状の炎は、

セシルが標的にしていた魔物一体目がけて飛翔した。

 【ギラ】とは、帯状の炎を虚空より作りだし、

指定した標的を焼き尽くす攻撃呪文。

低級魔物であれば大抵この一撃で片はつく。

シリーズの中でも古参の呪文だが、

タイトルによっては効果範囲が異なっており威力もやはり異なる。

セシルの放った【ギラ】は初期タイトルの性能に合わせてあるようで、

帯状の炎は魔物一体を焼き尽くすと、即座に炎は消え失せたのだった。


「よっしゃ! あとは任せな!」


 そう言い放つと星一朗は銅の剣を振りかざし、

セシルにヘイトが向かっていた魔物達に襲いかかる。

所詮は雑魚魔物という考えがあるのか、

星一朗は眼前の魔物に対して一切の恐怖心を抱いてはいなかった。

ゆえに立ち向かう事が出来るのだろう。

剣を振るが、適当に振っていては当たるものも当たらない。

星一朗は冷静に魔物達の動きを見て、改めて攻撃を繰り出した。


「なかなか当たらないもんだが……うおりゃああっ!」


 剣術のイロハを知っているわけがない為、

剣の扱いについてはややギコチナイが、

それでも魔物を屠るのに十分だった。

暗い森の中、星一朗が振るう銅の剣の刃が舞い、

青い身体の魔物を切り裂く。

ピキーッという甲高い断末魔をあげ絶命した。


「【スライム】ですよね、実際に見ると結構大きい……。」


 セシルは地面に転がっていた【スライム】だったものを見つめて口を開いた。

彼女の瞳の奥には、ほんの少しだが戦闘で感じ取っていた恐怖の色が見える。

星一朗は地面に腰を降ろし、

魔物達は一体どうやって作られているのかと探っていた。

だが、得られた情報と言えばゼリー状の青い半透明な物体があるというだけ。

動いている理屈は分からなかった。


「こいつらどうやって動いてたんだ……?

 ってか魔物ってなんなんだ?」

「設定では

 ”魔を統べる偉大なる王により創造された傀儡”となっていますね。」

「傀儡ねぇ。」


 しばらく二人は座って休憩していると、

地面に転がっていた【スライム】達の亡骸がぼうっと

怪しい白い光に包まれた。

そしてその刹那、霧のように消え去ったのだった。

後には丁寧に小袋に入れられたゲーム内通貨が数枚と、

何かの鉱物の欠片が転がっていた。

星一朗は小袋を拾い上げ中身を確認しセシルに手渡した。


「倒した魔物は一定時間で消え去る、実に自然に優しい仕様だなぁ。」

「どういう仕組みなんでしょうね。

 ……その辺りは問い詰めてもお父様のことです、

 ”企業秘密だよ”とか言ってはぐらかしそうですよね。」

「そうそう資金管理お願い。

 俺だと無くすか無駄遣いしそうでさ。」

「分かりました♪

 ……っと、これは?」

「さぁ……換金アイテムかなとは思うけど、取っといた方が良さそうだ。」

「警戒を続けながら洞窟を引き続き探しましょう。

 今回のテストはそこまでですし。」

「了解だ、腹も減ってきたしチャッチャと片をつけたいもんだぜ。」


 星一朗はそう言いながら立ち上がり、

同じく座っていたセシルに手を差し伸べた。

少し顔を赤らめながら星一朗の差し出す手を取るセシル。

だが、立ち上がろうとしたセシルはガクっと急に膝をついた。

あれ?あれ?と疑問符を飛ばして何とか立ち上がろうとするも、

どうにもチカラが入らない様子だ。

星一朗は彼女が立てない理由を知っているのか、

ニヤニヤと表情を緩めセシルを眺めていた。


「緊張の糸が切れて腰が抜けた……じゃないかな。」

「えぇーっ……やだ恥ずかしいな……。

 もう! チェスター君笑わないで!」

「笑ってないってば。」

「じゃあ、ニヤニヤしないでっ!」


********


 一方その頃、恵玲奈・泪の二人は広大な草原地帯を歩いていた。

膝近くまで草が生い茂っており、

注意深く歩いていないと草に足が絡まってしまうようだ。

時折、恵玲奈が呆れた口調でまただよと言って、

屈み込んで絡まった草をナイフで切っていた。

二人の格好は頭部に【毛皮のフード】を被り【旅人の服】を着ていた。

武器は恵玲奈が【鋼の剣】を腰に差し、

泪は【魔道士の杖】を手に持っていた。

装備から恵玲奈が前衛、泪が後衛と考えていいだろう。


 泪は恵玲奈の代わりに周囲を警戒し、魔物達の襲撃に備える。

泪はすぅっと大きく深呼吸をして周囲を見渡した。

遠くに山脈が見え彼女等の右手には大きな湖が見える。

二人の目的地はあの遠くに見える山脈の麓の街。

そこに住んでいる商人に

重要アイテム”潮風のスパイス”を届けることであった。


「泪、どう? 目的地見えた?」

「遠くにちょっとだけね。

 このペースなら夕方くらいになるかしらね。」

「うげ、そんなにまだあるんだ。」

「目測なんだから、正確じゃ無いわよ?」

「私、泪のこと信じてるから♪」


 恵玲奈はそう言って立ち上がり、

抜き身のままになっていた草刈りナイフを鞘に入れると荷物袋しまった。

時折、草原一帯に上空から強い風が吹きつける。

あまりの風の強さに二人は思わず目を瞑ってしまった。


「調子の良いこと言って

 ……そういう所は星君そっくりなんだから。」


 泪は軽口を叩きながら【魔道士の杖】を握りしめた。

風は収まったというのに二人の周囲の草むらが激しく揺れる。

草むらの揺れは次第に二人へ接近してくるようだった。

恵玲奈もすぅっと腰の【鋼の剣】を抜き放った。

【鋼の剣】はそれなりの重量があるはずなのだが、

恵玲奈はそんな素振りを一切見せず軽々と扱っている。


「先制するわよ!

 【イオ】ッ!」


 泪は爆発呪文を唱え草むらに向かって放った。

泪が指定した位置に、小規模だが爆発と同時に強烈な音と衝撃波が発生する。

草むらは一瞬で焦土と化し、爆発の威力を物語る。

隠れている必要がなくなったと判断したのだろう、

彼女等を狙っていた6匹の魔物達が姿を現した。

その魔物は、紫色の身体で額に鋭利な一角を備えていた。

魔物の名は【アルミラージ】、

睡眠呪文ラリホーを操るウサギの姿を模した魔物である。

攻撃能力が高い魔物では無いが、

睡眠呪文ラリホーで行動不能にしてくる為、

集団で現われた場合真っ先に倒した方が良い魔物でもある。


「6匹か……オッケー! 私にお任せ!」

「またこの気持ち悪い色合いの一角ウサギさんたち?」


 恵玲奈は【鋼の剣】を剣道で言う正眼で構えると柄をぐっと握りしめた。

そして、すぅっと大きく息を吐いた。

その刹那、恵玲奈の掌から紅蓮の炎が生まれ、

【鋼の剣】をゆっくりと包み込んでいく。


「魔法剣【火炎斬り】……なんつって。」


そして炎が剣を覆ったのを確認した恵玲奈は、

身近にいた【アルミラージ】に向かって攻撃を仕掛けた。

【アルミラージ】も恵玲奈に気づき突進を試みる。

だが、猪突猛進の攻撃が恵玲奈に当たるわけもなく、

恵玲奈は回避と同時に高温となった鋼の刃を横にして、

まるで溶けかけのバターを斬るように【アルミラージ】の身体を寸断した。

いきり立った他の【アルミラージ】達も、

恵玲奈にヘイトを集中させ一気に襲いかかる。

不敵に笑みを浮かべると恵玲奈は叫んだ。


「泪! 後はお願い!」

「ちゃんと避けなさいよ!

 【ベギラマ】ッ!」


 恵玲奈の方へ集まってきていた【アルミラージ】達目がけて、

泪は狙いを澄まし【ギラ】よりも高威力な【ベギラマ】を唱えた。

杖の先から高温の帯状の炎が出現し、猛然と標的に向かって飛翔する。

恵玲奈はこの時を待っていたようで、

泪の呪文の発動を計算に入れて立ち回っていたようで、

呪文の射程に入らないよう器用に動いていたのだった。

【ベギラマ】の炎は、【アルミラージ】達全てと

泪から直線上数十メートルの草地を焼き尽くし消滅した。


「さっすが泪、一網打尽とは正にこのことだよねー。」

「自分でやっといてなんだけれど、結構爽快ね。」


 泪は杖をくるくると器用に、

まるで新体操のバトンのように回していた。


「いいなー、

 私もそうやってドッカンドッカンってさ、派手な呪文使いたいよ。」

「魔法使い、という職業ロールになるのかしら?」

「多分ね。

 お兄ちゃんならもっと正確に分かるんだろうけど。

 呪文が使えるんだから魔法使いでいいんじゃない?」


 泪は既に消え去ってしまっていた【アルミラージ】達の亡骸があった跡から、

最早慣れた手つきで小袋を回収していた。

中身を確認して不要と思われるものは投げ捨てた。


「星君達、大丈夫かしらね。」

「んー、ことゲームに関わることなら大丈夫だと思うよ。」

「あら?

 星君、信頼度高いじゃないの。」

「なにせゲームバカのお兄ちゃんだし、

 あの人以上にゲーム関連で安心できる人はそうそう居ないんじゃないかな。」

「言えてるわね……。」

「それにセシルさんもいるし、

 ゲーム以外の事も大丈夫なんじゃないかな。」

「……ま、まぁそうとも言うわね。」


 奥歯に何か挟まったような表情を浮かべる泪であった。

恵玲奈と泪は再び草原を歩きはじめたのだった。


********


「ここが村で聞いた洞窟か。」

「恐らく、あたしもそうだと思います。」


 星一朗とセシルは【スライム】との遭遇戦のすぐあと、

岩壁を見つけ壁づたいに歩き続けた結果、

件の洞窟と思われる場所を発見していた。

湿った空気が洞窟の中から流れ、

森の中の空気とはひと味違うものだと言う事はハッキリしていた。

二人はお互いを見て、洞窟の中へ入る覚悟が出来ている事を確認した。

セシルは【レミーラ】を唱え光を出現させる。


「薬草もあるし呪文もある。

 さてどんなヤツが待っているのやら。」

「行きましょう……。」

「ほんじょ……セシルの呪文が頼りだ、

 呪文は【レミーラ】以外滅多なことじゃ使わないほうがいい。」

「ええ、そのつもりです。」

「あのー、すみません。」

「「!?」」


 二人が覚悟を決め洞窟へ入ろうとしたその時、

彼等の背後から聞き慣れない男の声がした。

気配が全くしなかった、と二人は同時に思った。

まさかこんなところで人間の声がして、且つ自分達に話しかけてくるとはと。

二人は反射的に振り返り声の主を確認する。

するとそこには、赤毛の髪を逆立てている中肉中背の若い男が立っていた。

身に付けている武具が、彼は戦士であることを説明していた。

【青銅の鎧】に【青銅の盾】、

十文字槍に近いデザインの【鉄の槍】を手に持っていた。

どこかの王国の兵士、

あるいは旅の傭兵あたりか、星一朗は勘ぐっていた。


「貴方達も村の依頼でここに来られた方達ですよね?」

「貴方達”も”?」

「ワタシは【リンクス】、旅の傭兵です。

 貴方方同様、村より依頼されてここまで来たのです。

 どうでしょう、一緒に参りませんか?

 呪文は使えませんが、槍には自信があるんです。」

「チェスター君……どうします?」

「旅は道連れ世は情け、

 依頼達成が目的ならば仲間は多いに越したことはない。

 【リンクス】と言ったかな、歓迎しよう。」



続く!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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