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第三十四話 紅キ竜二跨ガリシ王子

 今年冬一番の雪は、数十年ぶりの記録的な積雪となった。

室内気温を測定する温度計の数字も一桁を指し示し、

エアコンまたはコタツの電源は1日中入りっぱなし請け合いである。

朝のニュースでは各局繰り返し報道を繰り返し、

通勤通学で凍結や降雪に注意するよう喚起していた。

自室のベッドで毛布に包まりながら、

くしゃみを一つして星一朗は寝ぼけ眼で起き上がった。

数日前、電器量販店で投げ売りされて勢いで買ってきた

型落ちの新しいコタツの電源を入れ、

暖まるのを待ちながらスマートフォンを触る。

時間は正午を少し回ったところ。


「昼か。」


 欠伸を交えて時刻確認を行う。

昨夜は言うまでも無くかなり遅い時間まで、

もとい朝日が昇る時間帯まで起きてゲームをしていたようで、

目の下に少しだけだがクマが出来ていた。

星一朗の部屋には【箱庭】の【コレクションルーム】ほどではないが、

中型サイズのディスプレイが置いてある。

アンテナは繋いでいない為、テレビ放送は受信出来ない。

完全なゲーム用でプレイ頻度の高いゲームハードが全て接続されてあった。

ケーブル類はよく見ないと

何のゲームハードのものなのか分からなくなる程だが、

部屋の主である星一朗には愚問だった。

恵玲奈がよく部屋の片付けをしてよ!と

口を酸っぱくして言っているようだが、

星一朗曰くこの状態が一番どこに何があるのか分かるんだと言って聞かないのだ。

部屋の片付けをしない人間がよく言う反論である。


「さて……取り敢えずこっちは一旦置いておくか。」


 そう言って、徹夜してまでプレイしていたゲームソフトを、

丁寧にゲームハードから取り出しケースに戻した。

始めたらついついボタンを押す指の勢いが増し、

ゲームの止め時がイマイチ分からなくなるゲーム、と

竜二からちょっと脅されてプレイしていた。

案の定だったらしく、2時間で止めようと思っていたのだが、

悠に10時間はプレイしてしまったようである。


「【俺の屍を越えて行け】か……恐るべし!

 気がついたら中盤の山場【大江山】へ馳せ参じ、

 宿敵と一戦交える直前まできてしまった。

 竜二さんのお勧めするゲームって

 結構な確率でこのパターン多いよなぁ……

 ついつい止め時が分からなくなるって。」


 ゲームソフトをディスクケースに収め、

近くに置いてある金属製の棚にゲームソフトを戻す。

ここは星一朗の部屋の中でも聖域。

家族の人間には絶対に触らせない棚だ。

ここには星一朗お気に入りのゲームソフトや

ゲームのサウンドトラック、希少性の高さも上へ下へ、

とにかくそういう趣味に関する重要で貴重なものが収められたところである。

過去に恵玲奈が掃除と称して触れたことがあった。

その時、普段滅多な事で怒ることの無い星一朗が、

最愛の妹・恵玲奈に対して怒ったという。

それ以降、恵玲奈もこの棚は兄の許しがない限り決して触ることは無かった。


「さてさて、今日も雪が止む気配もないし部屋に閉じ籠もりますかね。」


 天気を理由にするが、普段と何ら変わらない星一朗であった。

コタツもようやく暖まってきたようで、

柔やかな表情で足をゆっくりと入れ新品コタツの性能とやらを確認する。

流石型落ちとは言え最近のコタツだ、

コタツ布団の面積に対する暖まり方がスムーズだ。

そう思いながら星一朗はコタツの上に置いていた

別のゲームソフトのディスクケースを開ける。

このゲームも竜二から借りてきたソフトの一本で、

竜二の助言を信じて最後にプレイすることにしていた。

パッケージの裏を見て踊るテキストに少々の不安を覚える。

予想できない展開なのだろうかと思案する星一朗だった。


「”挑戦的で意欲的なシナリオ”ですか。」


 聞いた話によると、【三国無双(一騎当千を体現したアクション)】と

【パンツァードラグーン(3Dの奥行きシューティング)】に近いゲーム性で、

そこにオリジナリティ溢れる

ダークファンタジーのシナリオが展開されるとのことだったが。

以前誰かに聞いたゲームレビューが脳裏をよぎる。

そう言えば以前、海斗も同じような表現で

このゲームを評価していような気がすると思い出していた。


「【ドラッグ・オン・ドラグーン】か……

 ったく竜二さんもすーぐ俺を脅すんだからなぁ。」


 ゲームを起動させ取り敢えずニューゲームを選択する。

するとオープニングムービーが始まり、

主人公と思われる青年が軽々と身長大の大剣を振り回し、

鋼鉄の鎧に身を包んだ兵士を一撃の下に屠っていた。

世界観の描写は陰鬱とした雰囲気たっぷり、

灰色と黒色と赤色と茶色と……

平たく言ってカラフルとは言えない色使いである。

星一朗は合間を縫って取説を手に取り、

パラパラとめくりキャラクターを確認していた。

直感で言えば、星一朗がかなり好きな部類の設定だったらしい。

剣と魔法の世界ではあるものの、ポップさはなくダーク要素満載。

幼い頃によく見ていたファンタジーの洋画を思い出させる。


「【カイム】が主人公か……んでヒロインはーっと……妹?」


 女神として紹介されていた主人公・カイムの妹である【フリアエ】、

彼女がこの世界のヒロインである。

彼女が女神になることで世界は安定してなどと書いてあった。

ぱっと身、薄幸をビジュアル化したような印象を受ける女性キャラクターだ。

取説には兄への思慕とかあったが、

大丈夫だろうかと色々な意味で不安はさらに増す。


 画面上ではイベントが進み、いつの間にか操作できるようになっていた。

星一朗は取り敢えず適当にボタンを押して、【カイム】の操作感を掴む。

少々クセはあるが、操作していけばすぐに慣れるだろう。

星一朗操る【カイム】は戦場を駆け抜け、

襲いかかる兵士達を血祭りにした。

最初のステージだけあって敵もたいしたことなく、

ダメージをほとんど受けずに進めることが出来た。

ステージ中央には堅牢そうな城がある。

どうやら目的地は城内で女神のところへ向かうことらしい。

敵を倒しながら城内へ侵入するとイベントが始まった。


「お、これがタイトルにもあるドラゴンかー。

 レッドドラゴンかねぇ、名前は【アンヘル】。

 ほう、天使の名を持つドラゴンとな?」


 どうやら主人公がこのドラゴンと契約を結ぶことで、

【ドラッグ・オン・ドラグーン】の物語は本格的に始まるようである。

心の奥底で沸々と湧き上がるワクワク感に星一朗は気づいていた。

これはある意味で危険な臭いがするゲームだぞと彼の直感は警告していた。


―― コンッコンッ! ――


 星一朗の自室のドアがノックされる。

誰が何用だと思いながら、重い腰を上げてコタツから出てドアを開ける。

そこには彼の朝食兼昼食をトレイに入れ、

いつまで寝てるんだこの兄貴と言った表情の恵玲奈の姿があった。

最近、髪を伸ばしているようで今日はポニーテールの様相だ。

そう言えばまだ何も食べていなかったと思い出した星一朗は、

恵玲奈を招き入れトレイを受け取る。

恵玲奈はうー寒い寒いと言いながらコタツに足を入れる。

やはり冬のコタツは正義。


「はふはふっ……ん、美味い。」


 作りたてのオムレツをスプーンを使い口へ運ぶ。

恵玲奈作だろうと感じていた星一朗だったが、

珍しく文句なく美味いと言える出来だったのだ。

恵玲奈の料理はまずくは無いのだが、味が安定しないのが唯一の欠点。

今回は思わず本音が零れる。

恵玲奈はにやーと笑みを浮かべて兄の頬をつねりながら言葉を返す。


「いひゃいじゃないか。」

「ちゃんと味わって食べてよね、今日は私が作ってあげたんだから。」

「分かってるっての。

 そういや我が家のママンは?」

「仕事に決まってるっしょー。

 朝早くからバタバタして行っちゃったよ。

 バスが止まらないうちに出るって息巻いてたけど、この天気なんだもん。

 朝から既に動いてないよね。」

「パパンは……あ、そういや長期単身赴任中で御座ったわ。」

「お父さんカワイソ……。」


 そう言って恵玲奈はディスプレイに視線を移した。

相変わらず恵玲奈の知らないゲームが起動している。

見たところファンタジーなんだろうという事は分かったが、

他の似たような世界観のゲームとの違いを

すぐに判別することは彼女には難易度が高かった。

恵玲奈のゲーム知識は兄と比べれば月とスッポン、

否、星一朗がオカシイだけである。


「アクションゲーム?」

「ん。

 剣で敵を斬り飛ばして、

 ドラゴンで火を噴いて一網打尽にするアブナイゲーム。」

「えーやだ、なにそれこわい。」

「こら、言葉に感情がこもって無かったぞ。」

「だって剣で斬ったら血がばぁーって出るんでしょ?」

「よく言うぜ。

 さんざん、ゾンビにライフルでヘッドショットかましてるクセによ。」

「オホホホ。」

「ってお前、今日【箱庭】のバイトじゃねぇの?

 ここに居ちゃダメじゃね?」

「んーそうだったんだけど、

 さっきセシルさんから連絡があって雪が凄いから今日は臨時休業にするって。」

「まあ、この天気じゃ客はこねぇーわな。」

「そゆこと。」


 そう言って自室の窓へ視線を移し、

しんしんと雪の降り続ける空を見つめる。

黒い雪雲がずっと続いている。

釣られて恵玲奈も空を見る。

見るからに寒そうな外気にぶるぶると

身体をふるわせ両手もコタツに突っ込む。


「そういう連絡は本条さん経由で来るんかい……。

 ええ加減、竜二さんも携帯契約すりゃいいのに。

 店には確か電話引いてあったよな?」

「お店の電話は私用じゃ絶対に使わないんだってさ。

 竜二さんって頑固なところあるよね。」

「あの性格だから喫茶店やってんだろうねぇ。

 っと飯も食ったし体力全快だぜ!

 ゲームやろ。」


 そう言ってコントローラパッドを握る星一朗。

食事をしながらゲームをしないだけマシかと思う恵玲奈だった。

陰鬱な雰囲気が繰り広げられるゲーム画面、

兄のプレイを見ながら、

恵玲奈はコタツの暖かさも相まって少しウトウトしていた。

バイトの事も有り、早く起きていたからだろうか。


「おーい恵玲奈ー、寝てんのか?」

「……んー。」

「寝るなら自分の部屋行って寝ろよー。

 コタツで寝ると風邪引くぞ。」

「……寝てないよ、ちょっと目を閉じてるだけ。」

「風邪を引いても俺は知らないからな。」


********


 午後3時半、恵玲奈は兄の部屋でぐっすりと眠っていた。

スヤスヤと静かな寝息を立て周囲にもその眠気を分けているかのようだった。

兄の忠告を受けた後、立ち上がって自分の部屋に行くつもりだったようだが、

眠気が勝ってしまい立ち上がる気力が無かったようだ。

気を抜いたら後は睡魔の思うがまま、

コタツという最強の環境兵器のチカラに勝てる人間はまずいないだろう。

星一朗は気持ちよさそうに寝息を立てる妹の頬をツンツンと突く。

反応は無い。

仕方ないなと小さく漏らした後、

部屋に置いていた予備の毛布を持ってきて恵玲奈に掛ける。


「大剣も良いが、刀いいなぁ。

 シュバッシュバッという音がいい。」


 今は敵とはいえ人間相手ではなく、異形たる魔物の群れと相対していた。

あれはゴブリンかグレムリンか。

とにかく小型の魔物を切り裂いている。

人間相手より幾分か気が楽になったのか、

進軍スピードもこれまでよりも速い。

このゲームでは地上戦と空中戦が存在しており、

それぞれ戦闘システムが異なっている。

地上戦では武器を携え一騎当千の働きで雑兵を蹴散らしていき、

空中戦ではドラゴンを駆って敵の空中要塞や飛行系の魔物と対峙する。

基本的に操作キャラクターは【カイム】のみであるが、

物語を進めていくうちに、何人かの協力者達が彼の仲間に加わっていった。

誰も彼も一癖二癖あるキャラクター達で物語を賑やかしていく。

そんな興が乗ってプレイしていたその時、

黒瀬宅のインターホンが鳴り響く。


―― ピンポーンッ ピンポーンッ ――


 急に現実へ戻されやや不機嫌な表情を浮かべる星一朗。

こんな雪の日に何の用だ、新聞の勧誘か、

だったらお生憎様だと考えながらコタツから這い出る。

コタツから出た途端、部屋の寒さが身に染みる。

ゆっくりと階段を降りて玄関へ向かう、

ひんやりとした板張りの廊下が靴下を履いてはいるにも関わらず、

全く効果が無いように感じた。

玄関は特に冷えるねぇ、と

少々おっさん臭く言いながら星一朗は玄関のドアを開けた。


「へぃへぃ、どちら様で?」


 びゅーっと冷たい空気が家の中へ流れ込み、

ここは極寒の土地かと思わずこぼす星一朗だった。

ドアを開けたそこには、この雪降る日の気温を理解していないのか、

素材は分からないが柔らかそうな生地のフリルがついたミニスカートを履き、

厚手のファーのついた紅いコートを羽織った彼のイトコが立っていた。

髪はサイドテールに纏めている。

この手の髪型って今流行っているのかと思ってしまった星一朗であった。

彼女はニコリと微笑んで手をパタパタと振る。


「やっほー、星君。

 遊びに来ちゃった♪」

「……あ、間に合ってるんで。」

「間に合っているって、どういう意味かしら!?」

「何の用だよ。」

「”泪、久しぶりに会えて嬉しい”とか言えないのかしら?」

「はいはい、じゃあそういうことで。」


 星一朗はドアを閉めようとするが、

客人はちょっと待ってと慌てふためき必死にドア閉め阻止に動く。

泪の脳裏にやってくる既視感。

星一朗もこれは面倒なことになると思っての判断だろう、

案外本気だったりするのだろうか。


「もう!

 なんでいきなり閉めようとするのよ!」

「寒いからに決まってんだろっ!」

「だったら私も中に入れてくれないかしら!?

 歩いてきたから寒くって!」

「こんな日に歩いてくる方がどうかしてんだ!」

「仕方ないじゃ無い!

 バスは途中までしか動いてなかったし、

 タクシーだってここまで無理だって

 ドライバーのおじさんが言ってんだから!」

「チィッ!」


つづく!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

季節感なんて言葉は知りません。

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