第三十三話 寒い日は暖かい部屋の中でゲームを
星一朗と悦郎の急な思いつきで、
報告会参加者全員の参加で始まった
【箱庭】ゲーム杯(海斗が後に命名)。
最終ステージに残った人間は以下の4名である。
企画者の一人・黒瀬星一朗。
企画者の一人で今回の主賓・鷲谷悦郎。
オーナーの姪でゲーマーの本条セシル。
星一朗の後輩で毎回彼等に振り回される栗野海斗。
これまでは【スターオーシャン Till the end of time/ディレクターズカット】の
対戦モードを利用し勝敗を決して来たわけであるが、
今回は別のゲームソフトを使うのことで、
星一朗の手元には既にゲームソフトが用意されてあった。
一体何のゲームソフトなのだろう、
最終ステージへ進んだセシルは
チラチラと星一朗の方を見ながら考えていた。
判りやすく格闘アクションゲームか、スコアを競うシューティングか、
対戦落ちモノパズルか、意外とボード系のパーティゲームか。
選択肢は多い。
「竜二さん、例の件は宜しくお願いします。」
「構わないけど……。」
星一朗の隣に座っていた恵玲奈は、
竜二と話して注意力が低下していた兄の隙を見て、
ひょいっと彼の手元のゲームソフトを奪い取る。
「次はっと……んー?
お兄ちゃんこれって……。」
「どうしたの恵玲奈?
変な顔をして。」
「エレなん、その顔頂き!」
携帯端末を利用して恵玲奈の変顔をパシャリと撮影する水希。
意外と自由人な水希に対して、
恵玲奈は勝手に人を撮るなーと抗議の声を挙げるも効果は薄そうだった。
泪は恵玲奈の様子が気になったのか
近づいて恵玲奈が手にしているゲームソフトへ視線を落とす。
恵玲奈ほどではないが、ゲームソフトを見た後に、
これを選んだと思われる星一朗達に視線を移す。
小さい声でらしいと言えばらしいけれど、と漏れ聞こえてきた。
女性陣の動きを見ながらセシルは
余計にゲームソフトのタイトルが気になっていた。
「では最終ステージのゲームソフトを発表しよう!
すでに何人かにはばれてしまっているが……ってか恵玲奈!
勝手に見てんじゃないよ!」
「いいじゃない、私達はどうせ敗退してるんだから。」
「そういう問題ではない気がするが。」
悦郎は恵玲奈の答えに突っ込みを入れる。
今回のゲームソフト選択は星一朗である。
始め、悦郎はこのジャンルは時間が掛ると反対の姿勢だった。
だが最終ステージに残る人間達は、間違いなくゲーマーの面々、
ルール理解には問題は無いはずだと星一朗が推し悦郎が折れた形になった。
そう言って星一朗は泪が手に持っていたゲームソフトを取り上げ、
ディスクケースからメディアを取り出しゲームハードにセットした。
そのゲームのジャンルはボードゲーム。
ダイスを振って出た目を数だけ盤上のマスを進んでいき、
特定の目標を達成することでクリアとなるゲームが多い。
「【いただきストリート】っすか。
【人生ゲーム】や【桃太郎電鉄】を選ばない辺りが先輩らしいっすよね。」
「ねぇー本条ちゃん聞いていい?
ウチ、ゲームはあまりしないから分からないんだけど、
これってすごろくとか【人生ゲーム】とかとは違うの?」
「え、えーとそうですね。」
水希の問いにセシルはしばらく思考を巡らせた後、
室内に常備してあるメモ紙とペンをどこからか用意して、
ささっと手早く図と文字を描いて言葉を交えながら説明を始めた。
ボードゲームの基本、ダイスを使ってマス目を移動していく、
そこまでは誰もが判る。
恵玲奈や泪も興味があったようで、
セシルの説明をふむふむと頷きながら聞いていた。
ただゴールをするだけでは無く、いかにして効率よく資産を増やし、
競争プレイヤーの資産を奪うか、
【いただきストリート】はそうやってゲームを進めていくのである。
「海外のボードゲームで【モノポリー】と
いうものがあるんですけど知ってます?」
「んーなんとなく?」
「あのゲームに近いシステムなんですが、
すごろくのようにダイスを振って出た目の分マスを移動しながら、
物件や株式を購入して資産を増やすゲームです。
ゴールがない代わりに目標金額が設定されてるんです。
競争プレイヤーから物件を買収したり、
通過する度に通行料を採ったりして、
目標金額まで資産を増やして
最初に銀行に辿り着いたプレイヤーが勝利するというシステムです。
まあ、実際に見た方が判りやすいゲームシステムだと思いますね。」
「なるほど、わからん。」
「ウチにもさっぱりだよー……真野さんはどう?」
「何となく分かったかも。」
恵玲奈と水希はセシルの丁寧な説明を聞きながら、
笑顔のまま頭上にハテナマークを飛ばした。
泪はそうなるのね、とセシルの描いたメモを見ながら
理解を示したような反応を見せている。
細かいシステムの理解はセシルの言うように実際に見た方が早いだろう。
「ちなみに聞いとくけど、皆はプレイ経験どのくらいあんの?
俺はプレイステーション版のみ。」
「オレも似たようなものだ。
携帯機でちょっと前にしばらくやっていたな。」
「自分は1作目のみっす。
最近のはサッパリっす。」
「あたしも最近のはあんまり。
そもそもボード系はほとんどプレイしないんです。」
「つまり、比較的最近のヤツであれば
プレイ経験値は同じくらいと考えていいってことだな。」
ゲームが起動しタイトル画面が表示された。
それは【ドラゴンクエスト&ファイナルファンタジー in いただきストリートSpecial】と
ディスプレイ上に映し出されている。
日本RPG界の両雄【ドラゴンクエスト】シリーズと
【ファイナルファンタジー】シリーズのキャラクターが
同時に登場するゲームであり、
実はこのゲームが発売されるまで一度も
両作品のキャラクターが一同に会する事は無かったのである。
システムはあくまでも【いただきストリート】、
用語や各ギミックやミニゲームに
両作品をモチーフにしたものが採用されている。
両作品を知っているプレイヤーであれば、
幾分理解も早まるようになっている。
選択できるキャラクターも多く、コンピュータ対戦の場合、
キャラクター毎に攻め方が異なっており、
原作とはまた違ったキャラクター付けも印象的である。
「モードはフリープレイで4人プレイっと、
まずはキャラクター選択だな。
俺は……【ローレシアの王子】で行くぜ!」
【ローレシアの王子】は、
青色の頭部全て覆うフードにゴーグルを身に付けた出で立ちをしている。
【ドラゴンクエスト】シリーズで唯一呪文が使えない主人公の一人である。
代わりに全ての武器防具を装備でき、
作中で最も頼りになるメインアタッカーだ。
「ふむ、オレは【ティーダ】で行こう。」
【ティーダ】は【ファイナルファンタジー10】の主人公で、
身体能力に優れる召還士(幻獣を呼び出せる特別な術士の一つ)の
護衛を務めている。
剣を巧みに操り少々トリッキーな攻撃で翻弄するスタイル、
元マリンスポーツの選手であり泳ぎも得意。
「じゃあ自分は……【ビアンカ】さんで。」
【ビアンカ】は【ドラゴンクエスト5】のヒロインの一人、
選択肢により主人公の花嫁になる事が出来る。
長い金髪を一つに結い前に垂らし、
ぱっちりとした緑色の瞳が印象的な美人で、
主人公の幼馴染みでもある。呪文攻撃が得意。
「あたしはそうですねぇ、じゃあ【ティファ】で。」
【ティファ・ロックハート】は
【ファイナルファンタジー7】の登場人物の一人で、
主人公【クラウド】をよく知る幼馴染みで、
長い黒髪が似合うグラマー美人でもある。
見た目に反して格闘技を取得している肉体派でもあり、
自分よりもはるかに重いであろう相手を軽々と持ち上げる怪力の持ち主。
星一朗は参加する全員が無事キャラクター選択を終えたのを確認すると、
コントローラを改めて操作し、
今回の対人にフリープレイの詳細設定を決め始めた。
「マップの彼の伝説の大地【アレフガルド】。
目標金額はそのまま25000Gでいいよな。
ダイスを振る順番はランダムっと、オッケーじゃあプレイ開始だ!」
********
いかに効率よく資金を増やし目標金額を達成するか。
その点のみを目標として、ダイスを振り物件を買いながら
競争プレイヤーと相対すればいい。
だがどうしても人間という生き物は欲が強く働く時がある。
それは一発逆転の可能性を秘めたギャンブル要素。
目下最下位である星一朗はカジノを利用した一発逆転を狙っていた。
順位を決める資金額の差で考えれば、一位との差はそう大きくない。
だが、獲得物件の株式の動きや空き物件の数、
盤上の進み具合から判断して順位を覆らせるのは難しい状況だった。
カジノマスに狙いを済ませダイスを転がすも、
やはり現実はそう甘いモノでは無い。
「カジノよ……俺には縁がないと言うのか?」
「お兄ちゃんの物欲に反応して、
ゲーム側で止まらないようになっているんじゃないの?」
「そうそう、
ゲームによってはそんなセンサーが搭載されているって
噂もあるくらいだしね。
星君の物欲センサーに反応したんじゃないのかしら。」
「恵玲奈に泪!
二人して爆笑しながら言ってんじゃねぇよ!」
そう言ってダイスを振る星一朗。悲しくもカジノマスは通り過ぎ、
セシルの持ち物件マスに止まってしまい買物料が発生していた。
ただでさえ最下位で少ない星一朗の資産はどんどん減っていく。
星一朗の反してセシルは株式運用も上手く回しているようで、
今現在、セシルと海斗が一位を巡りデッドヒートを演じていた。
「セシルと海斗君か、どっちかな……まあなんだね。
【いたスト】って当事者より端で見ていた方が楽しいときもあるね。
気が楽というか、傍観者も悪くないってね。」
「思うんですけど、竜二さんってたまーに趣味が悪いなぁって。」
「おじさま……私、少し幻滅ですっ。」
「な、なんだい?
セシルに恵玲奈ちゃん、僕はそんなに変なことを言ったかな?」
年若い女性二人から、妙な疑念の視線を向けられたじろぐ竜二。
そんなに変な事を言ったかなと竜二は珍しく
真剣に自分の言動を思い返していた。
脂汗を額に浮かべている竜二の隣でセシルは
コントローラパッドを悦郎に渡し、
テーブルの上のティーカップに口をつける。
「チェスター君だけ一度もカジノマスに止まれていないですよね、
そう言えば。」
「欲まみれでダイスを振るからそうなるのだ。
オレのように無欲でダイスを振れば……ふ、この通りよ。」
そう言って悦郎はダイスを振りカジノマスに止まったのだった。
ふざけんな!と叫びながら悶える星一朗。
尻目に見つつ海斗がダイスを振る。
華麗に空き物件を豊富な資産で購入していく。
順位で言えば、上から海斗・セシル・悦郎・星一朗の順である。
「そうっすよ先輩。
このゲームは地道にコツコツと足場を固めつつ
周回して資産を増やさないと。
一発逆転なんて発想は他のゲームでやって欲しいっす。」
「これが一位の貫禄ってヤツか!
栗野うっせ!
最下位の俺にはそんくらいしか希望がねぇんだよ!
5倍買い(他人の物件を強制買収)なんか出来るわけねぇし……
つか、なんで俺の周りには俺以外の人の物件しかねぇんだよ!」
「ガタガタとうるさいヤツだ。
お前自身のダイス運の無さを嘆くんだな。」
「悦郎のヤロウ……
俺よりちっとばかり成績が良いからって余裕ぶりやがって。」
星一朗が文句を言いながらダイスを振る。
展開は進み、目標金額である25000Gに到達した者が現われていた。
対象者はやはりセシルと海斗の二人。
ダイスの目次第では、どちらが勝つが分からない情勢だと言える。
既に勝敗争いから離脱してしまった悦郎と
星一朗は最下位争いを繰り広げるので精一杯だった。
「ふはははっ!
悦郎、やはり貴様は俺と同じステージ(最下位争い)に立てる人間のようだな!」
「不覚……まさかあの場面で株価が暴落してしまうとは
……ゲニ恐ろしき人間の欲よ……。
落ちたとは言え、星一朗よお前には負けんぞ!」
最下位争いの二人は妙に元気だった。
さてどうでもいい最下位争いの二人は置いとくとして、
話は一位争いに戻そう。
一位の条件は25000Gを貯め、銀行に辿り着くこと。
海斗は地道に物件を買い、
買物料をベースに資産を増やし株価を上げていた。
そうやって目標金額である25000Gまで到達していた。
セシルも海斗と同様に基本的には物件を買って買物料を獲得しているが、
運も手伝いチャンスカードとカジノの効果もあって
海斗との差を数十Gに迫っていたのだ。
ちなみにセシルのチャンスカードの巻き添えで、
悦郎の保有していた株価が暴落になったのは言うまでも無い。
銀行までの残マス数は、海斗が4マス、セシルが6マス。
ピッタリと止まる必要は無く、
本作のルールでは通り過ぎれば問題ない。
つまり海斗は4マス以上であれば目標達成、
セシルは6マス以上であれば目標達成である。
このマップのダイスの最大目は8、
単純にダイス目が出る確率で言えば、
海斗が八分の五、セシルが八分の三になるが。
平たく言ってしまえば、運の一言に尽きる。
「では本条先輩、自分から先にダイスを。」
「はい、どうぞ栗野君。」
「賽の神よ、自分に恵みを!
えーぃ! 南無三っ!」
海斗はボタンを押しダイスを振る。
ダイスはコロコロと画面上を転がり”3”を示した。
ガックリと肩を落とし銀行手前のマスで止まる。
だが、まだ勝敗は決しているわけではない。
セシルが1~5の目を出してしまえば栗野の勝ちになるのだ。
「じゃあ次はあたしですね。」
セシルはコントローラを操作しダイスを振る。
普段の行いが大事とはよく言うが、
こういう光景を見ていれば自然と
そう思ってしまうのは仕方が無いのだろうか。
セシルの出したダイス目は最大の”8”だった。
結果、一位はセシルとなり海斗は無念の二位で決定した。
最下位争いについては、
順位に変動はなく最後まで星一朗が最下位だった。
一発逆転とは何だったのか、
カジノマスに止まれなければ何も出来ないのである。
「最終ステージの結果発表をするぞ!
一位・本条セシル 二位・栗野海斗
三位・鷲谷悦郎 ドベ・俺!
どうやらダイスの神は俺のことを嫌いらしいなっ!」
「ようやく認めたか。
で、勝者に何か特典はあるのか?」
「言い出しっぺの法則ってあってな……ちゃんと用意してあるよ。」
「え? そんなものあったんですか!?」
そう言って星一朗は竜二から白い封筒を受け取って
中身を確認した後セシルに手渡す。
セシルは封筒の中身を確認して、納得の表情を浮かべていた。
恵玲奈と水希は封筒の中身が気になるようで、
セシルの元へ駆け寄り中身を見せてと懇願していた。
「セシルさん! セシルさん!
特典ってなんだったの?」
「見せてー本条ちゃん。」
「ふーん、【箱庭】のお食事券【3000円】分……ね。
いいところじゃないかしら?
でも、特典の獲得者が本条さんだと何だか複雑ではあるわね。」
「あははは……まあ、でもせっかくなので有り難く頂きます。
おじさま、ちゃんと使わせてもらいますね。」
「ああ、分かっているよ。」
どうやら星一朗の希望の品だったようで、
彼の落胆ぶりはなかなかのものだった。
可能性はそれなりにあったとはいえ、関係者の手に渡ってしまうとは。
3000円分もあれば、しばらく食費が浮き
それをゲーム代に換えられるのに、と
そんな甘い彼の幻想は打ち砕かれたわけである。
続く!
ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。
一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。




