第三十二話 たまには一対一
【コレクションルーム】の巨大ディスプレイが置かれてある
スペースの前には、10名程度なら楽に座れるソファーがある。
そして中央にはゲームハードを置く為だけの専用テーブルが設けられてある。
巨大ディスプレイを利用してゲームを動かす場合は
必ずこの専用テーブルに設置する事が義務づけられているのだ。
無論、その義務を放棄した者は今後一切この部屋へ
入室する権利を失うペナルティが科せられるのである。
ちなみにこれまでその義務を放棄した不届き者はいないらしいが。
「まさかこの部屋の、この専用テーブルの上で、
多種多様のゲームソフトではなく
多種多様の菓子類や飲料が並べられる日が来るとは
……竜二さん、これは一大事ですよ。」
「僕だってビックリだよ、それにこの人数もビックリさ。」
そう言って竜二は【コレクションルーム】の
ソファーに腰を降ろしている面々を見やる。
左から順に、海斗、恵玲奈、星一朗、竜二、セシル、泪、水希、悦郎。
この座り順に色々と思惑があるのかなぁと竜二は苦笑いを浮かべていた。
とはいえ、今回の主役は悦郎である。
おまけに水希もだが。
星一朗はジュースの入ったグラス片手に、
モリモリと必死に菓子をほおばる悦郎を名指しし、
さっさと報告を始めろと促した。
悦郎は菓子をほうばったままこくりと首を縦に振り、
テーブルに置いていた水をまるでビールを飲むように
ぐびっと一気に飲み干した。
そして、ゆっくりと立ち上がり皆を見渡しながら挨拶を始めた。
「お忙しい中、本日はお集まり頂き誠に恐縮である。
すでに周知されているように製作していたゲームの提出が完了したので、
関係者一同にその報告を兼ねてこの会を企画させて頂いた。
尽力してくれた黒瀬兄妹、
場所を提供してくれた竜二さん、ありがとう。」
「緊張してんじゃねーぞ!」
「お兄ちゃん! 茶化さないの!」
「まず完成度という点でいけば、90%は達成したと言えるだろう。
残り10%、納得していない。」
「鷲谷さん、残りの10%はなんすか?」
「未知の不具合の可能性と時間的制約により開発側で妥協した点だ。
時間的制約によって妥協した点は、
やはり今でも悔しくてたまらない部分でもある。」
悦郎の言葉を聞いて泪が口を挟む。
共感する部分があったのだろう、いつもより話す言葉に熱が宿っているようだった。
「製作する(クリエイター)者なら当然。
そう簡単に制作物に対して納得できたら苦労しないわ。
まあ逆説的に納得してしまったら製作者としては、
ヤバイ気もするけれどね。」
「あーそれウチにも何となくわかるよ~。
絵を描いている最中は最高のものしようってなるんだけど、
完成してしばらくすると反省点がいっぱいだもんね……。」
「そうそう……もう、グラフィッカーってそんなんばっかりですよね。」
悦郎の話を聞きながら
開発スタッフの一人である水希は納得顔で頷いていた。
デバッグ作業に携わった星一朗・恵玲奈・セシル・海斗も同様に
お互いの顔を見ながら、ですよねと言い合っていた。
泪はゲームが完成したタイミングで、
悦郎からテストデータを渡されていたようで、
一度だけプレイしたと語った。
どうやら直接的な作業を断っていた件を少し気にしていたようで、
暇を見ては悦郎に直接何か出来ることはないか、と相談をしていたらしい。
「じゃあ悦郎的には、取り敢えず成功って判断なんだよな?」
「ああ、取り敢えずはな。
あとはコンテストの評価委員会が決を下すことだろう。
人事を尽くしてあとは天命を待つのみ、
人世においてこのような達成感を味わえたことに感謝しているところだ。」
「……で、入賞を目標だと言っていたが、落選した場合は?
落選する方が確率論で言えば高いだろ?」
「落選上等、それをバネにもっと高見を目指すだけだ。」
「それを聞いて安心したぜ。
まあ、そんなこったろうなぁとは思ってはいたがな。
あ、ポップコーンの袋開けていい?」
星一朗は悦郎の答えを聞いて、にやっと笑い
テーブルに置いてあった未開封のポップコーンを掴む。
そして豪快に開封し皿に入れがしっと鷲掴みにした。
恵玲奈とセシルは星一朗の行動を見ながら、
この人なりに悦郎の事を心配していたんだなと思っていた。
この後、悦郎や水希の開発中で起こった
今だと笑える苦労話や愚痴が飛び出した。
それに負けじと星一朗達もデバッグ中で
感じていた様々なことをざっくばらんに語り合った。
竜二は皆の話を楽しそうに聞いて、たまに相槌を打ったり、
横から感想を聞いたりして場の緩衝役を担っていた。
二時間ほど時間が経った頃だった、
突然星一朗と悦郎が腕組みを始め栗野に視線を移す。
「栗野っ!
俺達は何だ?」
「は?
いきなりなんすかチェ……先輩。
質問の意図が……。」
「そうだ、栗野。
オレ達は何だ?」
星一朗と悦郎は海斗に視線を向けながら、
真顔で意味不明な質問を飛ばす。
恵玲奈と泪はまた始まったという表情である。
セシルは聞き耳を立てつつも竜二にお茶のおかわりを注いでいた。
「わ、鷲谷さんまで……
えー、えーとそうっすね……強いて挙げればゲーマーっすか?」
「「その通りだ!」」
「……はいはい、わかりましたよ。
何か皆で遊べそうなゲームを見繕って持ってこいってんでしょ?
いいっすよ、ちょっと動きたかったところっすから。」
ちちちっと口の前で人差し指を立てて星一朗が反論する。
「80点だな。」
「ソフト選びはオレ達に任せるがいい。
我々らしいチョイスに期待するといいだろう。」
「……ほーらまた始まった。」
恵玲奈は兄の頬を引っ張りながら言う。
星一朗は痛いじゃないか、と言って
恵玲奈の手をぺちりと叩き真顔のまま言葉を続ける。
「そういうこった。
お前には俺達がチョイスしてきた、
素晴らしいゲームソフトを起動させるゲームハードの用意を頼みたい。」
「へいへい……お任せあれ先輩方。」
呆れた表情を浮かべたまま海斗は【コレクションルーム】の奥へ向かい、
星一朗と悦郎が指示するゲームハードを用意し始めたのだった。
星一朗と悦郎は海斗の後に続きソファーから立ち上がる。
そして、真っ直ぐ目的のゲームソフトが
陳列されてあるスペースへ向かったのだった。
「こういう時の星君と悦郎君って、意見合いまくりなのよね。
もう気持ち悪いくらいに。」
「みたいですね、親友っていいなぁ。」
「あー、セシルさん……そんなんじゃないと思いますよ。
妹視点でも幼馴染み視点でも。」
「悪友ってやつじゃないのぉ?」
二人の後ろ姿を見ながら好き勝手言う女性陣。
竜二はホットコーヒーを飲みながらノーコメントを貫くのだった。
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星一朗と悦郎が選んだゲームソフトは、
【スターオーシャン Till the end of time/ディレクターズカット】である。
本作は、【プレイステーション2】でリリースされた
【スターオーシャンシリーズ】の4作目にあたる。
ジャンルはRPGに属し、アクション要素が強い戦闘システムや
アイテム精製が出来るアイテムクリエイション等が
有名なゲームソフトである。
ちなみに通称で【SO3】や【スターオーシャン3】と呼称される事も多いが、
タイトルには”3”の文字はない。
ディレクターズカット版は、
オリジナル版の後に追加要素
(プレイアブルキャラクター追加・バグフィックス等々)を含め
リリースされた言わばマイナーアップ版である。
中でも、プレイアブルキャラクター同士を使用して、
格闘ゲームのような対戦モードが追加されているのは興味を引く。
元々、アクション要素が高くキャンセル攻撃や技のコンボ等、
むしろ今まで搭載されていなかった事が不思議なくらいである。
対戦カードは海斗(フェイト・ラインゴッド)対水希(ネル・ゼルファー)、
近距離タイプと中距離タイプの戦いだった。
だが、勝負はあっさりと決まってしまった。
これどうやって技だすの?と言いながら、あたふたしながらの水希。
最初、接待ゲームで対応しようとしていた海斗だったが、
星一朗と悦郎の先輩二人組の厳しい監視下にあった為、
申し訳ないと思いながら容赦なく攻め立てたのである。
無論、ゲーマーたる海斗の勝利。
水希はそもそもゲームをあまりしないようで、
せいぜいライフゲームの【どうぶつの森】ぐらいのものらしい。
「容赦ないなぁ~、もう栗野君のいじわるー。」
「い、いや、すみません、緋河さん。
色々事情がありまして……。」
次戦、恵玲奈(アルベル・ノックス)対悦郎(ミラージュ・コースト)。
近距離タイプ対近距離タイプの戦闘である。
恵玲奈は分からないながらも、何とか技を繰り出して応戦した。
だが、そう簡単に当たるモノではない。
悦郎はタイミングを見計らい、回避と防御を上手く合わせた。
そしていつの間にか【アルベル】のHPは減っており、
【ミラージュ】の一発で沈んだのだった。
「あ、あれ? いつの間に。
私、悦郎君の攻撃をほとんど受けていなかったはずなのに。」
「ふふふ、このゲームはHPを消費して技を出す仕様なのだ。
連発してしまった事が敗因だ。」
次戦、星一朗(マリア・トレイター)対泪(クリフ・フィッター)。
中距離タイプ対近距離タイプの戦闘である。
泪も他の女性陣同様、本作をのプレイ経験は無い様子。
だが、これまでの対戦画面を見てある程度
イメージトレーニングをしていたのだろうか、
素人とは思えない動きと技発動のタイミングである。
やはり天性の素質の持ち主・真野泪。
教えてもいないのにキャンセル攻撃を繰り出し、
プロテクトブレイクを易々と繰り出し、
星一朗の攻撃を紙一重で躱し続けていた。
「や、やべぇ! 泪!
お前絶対どっかでやったことあんだろうが!」
「ないわよ。
でも何回かプレイ見てたから、何となくだけどこんな感じ?」
だが、このゲームソフトを星一朗と悦郎が選んだ事に理由がないわけがない。
かつて二人は散々このゲームソフトを遊び倒し、
対戦モードでも二人で”決着”に使用した事もある。
つまりこの中の誰よりも二人はゲームシステムについて詳しいはずなのだ。
得意キャラクターについては
恐らく今現在二人が使用している【マリア】と【ミラージュ】だろう。
ちなみにこの2名、主人公を差し置いてかなりの強キャラクターであり、
シナリオ中でもプレイヤーが使用する事で無類の強さを発揮できる。
星一朗の目がキラリと光る。
「泪!
そんな回避じゃ、俺のマリアちゃんの攻撃は躱しきれねぇぜ!
クレッセントローカス(蹴り上げ技)からの
トライデントアーツ(回転3連蹴り)!」
星一朗操る【マリア】の華麗な蹴り技が、
泪操る【クリフ】に襲いかかる。
コンボのタイミングが彼女の予想を上回っていたのか、
回避も防御も間に合わず直撃する。
みるみるうちに【クリフ】のHPは減っていき戦闘不能になった。
泪は知らないながらも奮戦したと言えるだろう。
勝負は星一朗の勝ちで終わった。
泪は星一朗をじっと見つめたまま、
何か悟った様子で私の負けでいいわと言ったのだった。
きっと色々見抜かれているのだろう。
「次は僕とセシルだね。
まさかここで姪と戦うことになるとは。」
「おじさま、あたし初めてだからお手柔らかにお願いしますね。」
次戦、竜二(クリフ・フィッター)対セシル(ソフィア・エスティード)。
近距離タイプと遠距離タイプの戦いである。
【ソフィア】は魔法を使用するキャラクターであり、
発動まで少々時間を要する扱いが難しいキャラクターでもある。
パーティー戦においては非常に強力であるが、
一対一の場合は話が変わってくる。
どうやらセシルはプレイ経験があるようだ。
RPGだから当然と言えば当然か。
竜二もプレイ経験があるようで、様子を見ながら隙を伺っていた。
だが、セシルは小攻撃(詠唱の短い魔法含む)を連発し、
着実に竜二を攻めていた。
「しかし上手いなぁ本条さん。
まさか【ソフィア】をここまで操れるとは。」
「褒めても何にも出ませんよチェスター君。
あ、おじさまそこは当たりませんよ!」
「ははは、流石は僕の姪だ。」
星一朗の感想に恵玲奈はハテナマークを飛ばしていた。彼女にしてみれば、ちょこちょこ動いてダメージの少ない攻撃が、”強い”や”上手い”に繋がらないのだろう。
「セシルさんって、やっぱ上手いの?」
「そうっす、本条先輩のキャラクターのメインは魔法。
発動までに時間がかかるから、
ある程度仕様を把握して使いこなしていないと難しいんす。
大攻撃の派手さもいいんすけどね。」
「女性陣唯一のゲーマーさん!
私達の代表なんだから頑張って!」
竜二も善戦はしたものの、
やはりプレイし慣れていたセシルには勝てなかったようで、
勝負はセシルの勝利に終わった。
この結果により、次のステージへ進むメンツが決まったわけである。
星一朗の手元には別のゲームソフトがあった。
どうやら次のステージでは別のゲームをプレイするらしい。
続く!
ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。
一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。
※一部酷い誤記があったので訂正しています




