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第三十話 本日は女人禁制

 【箱庭】の地下の【コレクションルーム】のドアには、

ミミズの這ったような汚い手書き文字で、

”本日は女人禁制”と殴り書きされたコピー用紙が貼られてあった。

女人禁制とは穏やかではない雰囲気ではあるが、

星一朗の提案で本日の【コレクションルーム】は

そういう”縛り”になっていた。

星一朗、竜二、海斗、悦郎の四人は真剣な表情のまま、

あとは頼むとだけ言い残して地下へ潜っていった。

星一朗は特別ゲストを招待しているようで、

男性陣みんなに対して”期待してくれていい”と言ったのだった。


 恵玲奈は憮然とした表情のまま喫茶店スペースでコーヒーメーカーで、

まだ慣れない手つきではあるがコーヒーを煎れていた。

星一朗の妹・恵玲奈ですらも兄の行動は予想外だったようで、

一体何が始まるの?としつこく兄に聞いていた。

だが、星一朗はノーコメントだとだけ言って答える様子はなかった。

男性陣より【コレクションルーム】から追い出された女性陣達は、

仕方なく一階の店舗スペースのカウンター席に腰を落とし、

自分達を追い出した星一朗及び男性陣に対して文句を垂れていたのだった。


「一体何をしているんでしょうね。

 おじさままで一緒になって。」

「きっとイカガワシイことよ、ほら、たまにはね。」


 セシルの隣に座る”緋河水希ひが みずき”は、

セシルを見つめながらニヤニヤと笑っている。

ふぅっと溜息を入れてセシルは、

目の前におかれてあるカフェラテのカップを手に持つ。

湯気が立ち上っている。

ちょっとだけカップに唇をつけるが、すぐにカップから離した。

思った以上に熱かったようである。

今日のセシルは黒と白のボーダーのタートルネックに、

紺色の柔らかそうな生地のキュロットを履いていた。


「お兄ちゃんのアホーっ!」

「ま、まあまあ、恵玲奈ちゃん落ち着いて。」


 恵玲奈はキッチンスペースで

カップにコーヒーを注ぎながら兄を罵倒した。

今日はヴィクトリアンメイド風のウェイトレス衣装ではなく、

キリッとスマート且つ初々しい女性マスターの格好をしていた。

黒を基調としたシックなデザインの上着と

白のブラウスと黒のタイトスカートがとても似合っていた。

この衣装は、もしもの為に竜二が用意していた”幹部候補”の

女性用ユニフォームである。

準備が整っている事は良いことだが、

女性用ユニフォームをちゃっかり用意してある事については、

一考の余地はあるだろう。


「エレなんは案外、そういう衣装似合うよねぇ。

 フォーマル系っというんだっけ?」

「そお?

 私、身長があんまり無いからなぁ……セシルさんには勝てませんぜ。」

「本条ちゃんはともかく、胸はウチよりあるくせに何を言うか。」

「あ、あははは……ま、まあまあ水希さん。」


 恵玲奈は下手な口笛を吹いて誤魔化した。

見ての通り、身長は高い方ではない恵玲奈だが、

胸に関してはそこそこのサイズがあるようで、

少なくとも水希よりは大きい。

そしてその二人よりもスタイル的な意味で

圧倒的勝利を収めているセシルはノーコメントを貫くのであった。


 水希は恵玲奈が用意したオレンジジュースをずずっとストローで飲みながら、

嬉しそうな表情で休日を満喫していた。

恵玲奈の招待を受けて、

今日初めて水希は【箱庭】にやってきていたのだ。

セシルと水希ももちろん顔見知り、

バイト先(某大型書店)の友人である。

セシルもまさかここで水希に会えるとは思っていなかったらしく、

バイト先同様に婦女子達の語らい(ガールズトーク)に興じていたのだった。


「でも本条ちゃんもここの常連だったなんて、もう。」

「このお店、あたしのおじさまのお店なんです。」

「そうだったんだ~。

 羨ましいなぁ本条ちゃん、ウチもたまに来て良い?」

「もちろん! 水希さんなら大歓迎です!」


 すると恵玲奈は懐に忍ばせていたスマートフォンを取り出す。

どうやら誰かから連絡があったらしい。

ついついっと画面を操作してメールを確認している。

そしてうわーっと声を漏らした。


「泪も後でこっち来るって。

 やっとこっちに顔出せるーって。」

「真野さんも忙しい人ですよね。」


 恵玲奈は皆に見えるようにメールを見せた。

泪らしく過剰な装飾は見られないが、文末に顔文字が書かれてあった。


「んー、何か前に電話したとき言ってたんだけど。

 卒業課題やら企業イベントのコンテストやらが纏めてきたらしいよ。」

「泪さんって、エレなんのイトコちゃん?」

「そだよ。」

「こっち来るんだよね? ウチ楽しみだなー。」


 どうやらこの喫茶店【箱庭】に、

それとなく関わり合いのある人間達が、

どんどん集まってきているようである。

噂をすれば影、あの酒好きで速筆の女性記者も現われる事だろう。

ともあれ、本日【箱庭】は一身上の都合により貸し切りとなっている。

一見さんが店のドアを開け中に入ってくることはないだろう。


********


 【コレクションルーム】の大型ディスプレイ上には、

華やかな映像が映し出されていた。

竜二は細い目を更に細めて、いいよねぇと繰り返している。

悦郎は腕組みをしたまま首を縦に振り、話し手に相槌を打っている。

海斗はまるで企業のプレゼンテーションをしているかの如く、

大手を振り全身を使って饒舌に語っていた。

星一朗はそんな男連中に囲まれた状態で、

ゲームのコントローラパッドを握りしめボタンを押していたのだった。

俺も語りたいのだが、というオーラを発しつつ。


「……ふぃ~久々に語ったっす!

 いやぁ、周りの目を気にせずに

 好きな事をガンガン言える環境って素晴らしいなぁー。

 さすが竜二さんっす!

 たまには女人禁制も悪くないっすね。」

「いやいや、ここを気に入ってくれて何よりだよ。」

「ゲーマーたる者であれば、ここを気に入らない愚物はおりますまい。

 栗野と言ったな、なかなか雄弁に語るではないか。

 一つ、オレもだな……。」

「お前等……人の背中で楽しそうにしてんじゃねぇよ!

 俺も混ぜてくれぇ。」


 星一朗がこめかみをぴくぴくさせながら、

目は画面を見つめたまま言葉を発した。

そう悲痛な声を上げならも、

星一朗の指は正確にボタンを押しゲームプレイを続けている。


「抜かせ星一朗。

 お前が自分から名乗り出たのだろうが。

 ゲームプレイは俺に任せろ!、

 そう言って栗野からコントローラをもぎ取って

 ボタンを押しているのは誰だ?」

「う、うるせぇな!」


 大型ディスプレイ上に映し出されているのは、

ドラマティックアドベンチャーの代表作で、

オープニングアニメーションに物凄い予算を掛けたと言われている

【サクラ大戦3~巴里は燃えているか~】である。

場面は戦闘シーンで、

キャラクター達が駆ける【光武】と呼ばれるロボットが

画面内を駆け回っている。

この手のゲームに置いて、

星一朗は余程の事(強制イベントや想定を遥かに上回る展開)が

無い限り負けを知らない。

計算しているのか、はたまた勘なのかは分からないが、

彼の操作にはどことなく不思議な安定感があった。


 そんな星一朗の背中で展開されていた彼等の話題は、

サクラ大戦シリーズの中でどのキャラクターが一番好きかというものだった。

数多くの魅力的な女性キャラクター達が登場するゲームだけに、

プレイヤーによって好みはまちまちである。

幸いにもこの4人の中ではキャラクターが被った者はいなかった。

キャラクター比較で語ってしまうと不毛な言い争いにしかならないのは、

火を見るよりも明らかである。

各々ここだけは譲れないものがあるのだ。

星一朗は自身のスマートフォンを取り出し誰かにメールを打った。


「俺はやっぱ【真宮寺さくら】さんよ。

 黒髪ロングの正当派ヒロイン、おまけに北辰一刀流の免許皆伝だぜ?

 【北大路花火】さんもいいが、ポニテ剣士よ。」


 星一朗はどのゲームでも、

だいたい決まってメインヒロインポジションである。

ゆえに周回プレイをあまりすることがなく、

取り敢えずメインだけ見れば満足してしまうキライがあった。

最近はそれを反省して、セーブデータを多く作成し

効率よくプレイ出来るよう工夫しているようだが。


「ふ、【神崎すみれ】嬢に決まっている。

 あのプライドの高さ、そして優美さを持っている。

 個人的には【グリシーヌ・ブルーメール】嬢と迷ったがな……。」


 悦郎は少し年上のお姉さんキャラクターが好きなようである。

悦郎はノベル系のゲームをしっかりと読み込み、

周回プレイをするタイプである。誰よりもストーリー理解度が深い。


「僕はやっぱり【ロベリア・カルリーニ】さんかなぁ。

 いいよねぇああいう感じの女性。」


 竜二は誇らしげに恍惚の表情で言った。

最も意外な答えである。

竜二以外の三人の予想では、【マリア・橘】や

【コクリコ】だろうと口々に言っていたからだ。


「自分は【プチミ】……ごほっごほっ……

 んー喉が変っすね、もとい!

 【ラチェット・アルタイル】様で。」


 何やら途中で言い掛けた海斗。

補足説明。

【プチミント】とは、【サクラ大戦5 さらば愛しき人よ】の

主人公【大河新次郎】がとある理由で女装した際の名前である。

好事家の間の一説によれば、彼こそ本当のヒロインとのこと。

海斗がその派閥の人間かどうかはまた別の話である。


「あー、達也さんから返答アリ。

 日本編なら【アイリス】、巴里編なら【コクリコ】、

 紐育編なら【リカリッタ・アリエス】だそうで。

 この人、全くブレないなぁ……。」

「達也君はブレないねぇ……

 そして一人だって言っているのに3人も挙げるなんて……。」


 白鷺達也を覚えているだろうか。

某企業の営業職をやっている彼は今回メールのみで参加である。

星一朗が言っていたゲストとは達也のことである。


 そもそもこの集まりはなんのか。

簡単に言えば悦郎達が作っていたゲームの完成及び提出完了報告会である。

竜二の提案で、企画された今回の集まり。

何か特別な事をしようという野心的な目論みがあったわけではなかったが、

その案に乗った黒瀬兄妹が関係者へ片っ端に連絡して今に至っている。

報告会の予定だったが、

ゲーマーが集まればやることは決まってしまうのは自明の理。

珍しく男連中が集まった様子を見て、

星一朗は”たまには男らしいゲームをやらんか?”と言い出したのが、

女人禁制縛りの始まりである。

確かに女性陣が居る前ではプレイしづらいところはある。

ゲームをするだけならば気に留めるような連中ではないが、

語るとなれば話は別というところか。


「しかしコンテストは間に合って良かったよな。

 正直、最終版の出来を見てひやひやもんだったぜ。」

「こっちも限界ギリギリだったんだ、

 プログラマーが一人ぶっ倒れていたからな。」

「マジすか、それ。

 自分も最後の方だけ少しデバッグしてたっすけど……

 まあ、よくこれだけ複雑なものを組んだもんだと思ってましたが。」

「本当だよ、まさか徹夜コースになるなんてね。

 翌朝、ゾンビみたいな顔をした君達を見た時はちょっと怖かったよ。

 セシルなんて目を瞑ったまま店舗まで歩いてきたからね……。」


 目標であったコンテストへは無事応募でき、

全てのバグは取り切れなかったが、

普通にゲームを起動させて遊べる状態までは持っていけた。

悦郎はデータアップロードが完了したのを確認して心底ほっとしたという。

開発スタッフは現在、パトロンの申し出により短期間ではあるが

温泉旅行へ繰り出しているという。

悦郎もここの集まりが終わったら駆けつける予定で、

【コレクションルーム】に彼の旅行バッグが持ち込まれてあった。

それにしても随分と粋なパトロンである。

学生サークルの活動なのにその辺の企業より待遇がいいかもしれない。


「チェックリスト埋め作業がやっぱ過酷だったぞ。

 もう当分は表計算ファイルは見たくねぇや。」

「っすねぇ……自分も本条先輩からこれやってねって言われてなけりゃ、

 速攻で逃げ出していたっすよ。」

「栗野よ、お前の働きには目を見張るものがあった。

 開発陣でも何者だ?と話題になった。」

「僕も最後にテストプレイってことで、

 一通りプレイさせてもらったけど、凄いねぇ悦郎君達は。

 僕が学生の頃に作れって言われても、

 この期間じゃ絶対に無理だと思うよ。」

「ま、ゲーム製作については後でゆっくりと話そうぜ。

 今、俺達に出来る事はただ一つ!

 よっし【サクラ大戦3】はこの辺でセーブしてっと、

 栗野助手よ次を持ってまいれ!」


 そう言って星一朗はゲーム機からディスクを取り出し、

隣にいた海斗に指示を出す。

海斗も予想していたようでゲームソフトを取りに行く準備は万端だった


「そうだ、ただ一つだ。

 次は……【CLANNAD】はどうだろう?

 人生について語るのも悪くあるまい?」

「早い!早いっすよ、鷲谷さん!

 ここは斜め上でパズルゲームの【キャサリン】とかどうっすか?」

「……確かに彼女達の前じゃちょっと視線が気になるよねぇ

 ……ってギャルゲーやエロゲーじゃなくてもいいのかい?」


 つまりそういう縛りである。


続く!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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