第二十九話 今、出来る事を
星一朗はデバッグ作業の合間を縫って、
しっかりと自分のゲームプレイタイムを創造していた。
仕事でこれでもかという程にゲームをしていれば、
プライベートタイムでもゲームをする人間は少ない。
恐らくであるが、根本的な考え方の部分で
星一朗は一般的なゲーマー達と違うのだろう。
仕事ではノベル及びハック&スラッシュをプレイし、
プライベートではバリバリのやり込み系アクションゲームや
下手の横好きであるTPS系のゲームをしていた。
ちなみにTPSとは、
キャラクターの背後を見ながら射撃操作を行う
シューティングゲームの総称である。
代表的なゲームと言えば、【バイオハザード4】や
【ロストプラネット】が該当するだろう。
近い言葉でFPSというものもある。
彼のプレイ中の表情から伺うに、
義務感でプレイしているわけでは無さそうだった。
敵を華麗に倒せば喜び、理不尽にやられれば怒り、
切ないストーリーであれば涙が頬を伝っていた。
ゲームは1日1時間、なんて小学校の頃に親と取り決めた約束は
今や忘却の彼方。
下手すれば24時間ゲームしっぱなしの日々である。
「どうやったらエイム(射撃などの狙いのこと)が上手くなるのか。」
「ひたすら練習あるのみですね、チェスター君の場合。」
「ガンシューティングで鍛えてみるのもありか。」
デバッグ作業の休憩時間、
【コレクションルーム】のディスプレイでは、
星一朗が個人的にプレイしているTPSのゲーム画面が映し出されていた。
映像を見るに舞台は現代ではなく未来のようだった。
近接武器を使った攻撃や回避アクション、
トラップを使った攻撃等の操作について星一朗は苦にしない。
だが、途端射撃武器になると話は変わる。
自分で遊戯銃を撃つ場合は軽々と狙いを定め高い命中精度を誇るのだが、
ゲームになるとあまり上手いとは言えない状態だった。
実際の射撃とは違い、距離感が上手く掴めないような状態とも言えよう。
傍らで星一朗のプレイを見ていたセシルも
あまりこういったジャンルは得意ではないようで、
ゲーマーとして遺憾ながらも一般的なアドバイスに留まっていた。
「あ! これが原因か!」
突然、ノートパソコンでネットの海へ出掛けていた恵玲奈が叫ぶ。
反射的にディスプレイから視線を逸らし
星一朗とセシルは恵玲奈の方を見やる。
直後、ディスプレイ上ではゲームオーバーを告げるジングルが流れ、
赤く画面は染まっていた。
「急に大声出して、どうしたの恵玲奈ちゃん。」
「分かったんですよ、原因が!
ずっと謎だった摩訶不思議のあの件が。」
「何のことだあの件って、サッパリ分からん。」
「そりゃあ、
【箱庭】の急な客足の伸びについてに決まってるでしょ。」
恵玲奈の反論に思わず納得の2人。
【箱庭】の急激な客足の伸びの答えはどうやらネットの中にあったらしい。
竜二は恐らく面倒臭がってこういった要因を調べてはいないだろう。
恵玲奈は2人にも見えるようにノートパソコンを移動させ、
カチカチとマウスを操作し、
とある情報サイトらしきページを表示させる。
そのサイトは良くある口コミ系の店舗紹介サイトで、
日本国中にある隠れ家店舗をまとめたようなところだった。
サイドメニューバーには、様々なキーワードがカテゴライズされてあり、
ユーザーはすぐに目当ての店を検索できるような工夫が施されてある。
例えば【喫茶店】【穴場】【コーヒー】
という項目をクリックするだけで、
紐付けされた店舗が画面上に表示されるというもの。
恵玲奈は特定のキーワードの組み合わせでクリックし
【箱庭】の画面を表示させた。
そこにはユーザーからの評価やレビューが並び、
勝手気ままな内容が踊っている。
幸いにも【箱庭】の評価は10段階中8段目のなかなかの評価。
案の定、最大の魅力はコーヒーの味となっていた。
ワンポイントとして、オーナーの情報を載せる項目もあったが、
竜二の写真やコメントは一切無かった。
こういったサイトに対して竜二が了承するとは思えなかっただけに、
星一朗達はやっぱりと安堵していた。
「ここで紹介されてたんか。
んで、たまたまサイトを見た周辺のヤツらが来たと。」
「丁度一押し店舗みたいな形でピックアップされてたみたい。
直接的な原因はそこじゃないかな。
結局、一週間くらいで客足もだいぶ落ち着いたし。」
「一時期は本当に修羅場だったもん、
恵玲奈ちゃんが居なかったらおじさまはどうなっていたのかしら。」
「セシルさんも居なかったら、ですってば。」
星一朗は思い出していた。
接客に勤しんだあの日のことを。
「それでも前よりは多くなったよな。
竜二さん、マジでバイトを雇うことを検討しているみたいだぜ。」
「おじさま1人で今後やっていくには、
ちょっと厳しいのは間違いないですね。」
恵玲奈は迷っていた。
竜二から正式に打診があったわけではないが、
もしバイトを本気で雇う気があるならば申し出てもいいかもと。
無論、そうなった場合、
今働いている大型書店のバイトは辞めなければならない。
ダブルワークは時間的に両者ともマッチングしている為出来ないし、
そもそも恵玲奈自身の体力が持たない。
【箱庭】はある意味で自分の庭に等しい。
そういった精神的負担を大幅に軽減できる点は魅力的だった。
賃金についてはどの程度になるか不明である為、
竜二の情報公開を待たなくてはならないが。
「もし竜二さんがバイトを雇うつもりなら、
私が名乗り出ようかなー。」
「ほう、いいんじゃね?
お前なら納得の人選だろう。」
「そうなると、今のバイト先は辞めるってことかな?
それは寂しいよ……。」
「んー、そうなるかと。
書店のバイトも悪くはないんですけど、
やっぱ自宅から結構遠いし、
移動時間も含めると拘束時間が長いんですよね……」
地理的な話をすれば、
【箱庭】は黒瀬宅からは自転車で来れる距離である。
恵玲奈が働いている書店は、
公共交通機関を利用して約30分前後かかる場所にある。
交通費は支給されているのだが、
それよりも時間的拘束が大きくバイト変更の要因として
天秤に掛ける程度には悩み所だった。
恵玲奈は遅刻した事は一度もないが、
道路の渋滞や事故などでバスが遅延し
時間ギリギリでタイムカードを押したことは多い。
「もしかしたら竜二さんから直接頼みにくるかもな。
あの人も見知らぬ誰かを雇うより、
性格や働きぶりも知っている恵玲奈なら楽だろう。」
「ですねー、あたしも恵玲奈ちゃんなら大歓迎だよー。
書店のバイトでは会えなくなるけど、こっちで会えるし。」
「ゆっくりと考えておこうっと。」
そう言って休憩時間は終わりを迎え、
3人は再びデバッグ作業へ戻っていったのだった。
星一朗は報告が貯まっているバグレポートの作成作業に、
セシルはイリーガル要素を絡めたシステム周りのチェックに、
恵玲奈はひたすらクリアを目指す通しプレイに。
残り時間はもう僅か。
少し前、悦郎が進捗作業確認の為ここを訪れた際に
とある課題を持ってきた。
今はその課題を消化する為、
歩みを止めるわけにはいかなかった。
********
一週間前の週末、
鷲谷悦郎はデバッグ作業を依頼した友人の元へ来ていた。
目的は作業進捗の確認と、
今後の作業についてとある報告をする為である。
デバッグ作業の窓口兼プランナー兼シナリオライターを兼務している悦郎は、
日々のストレスで少々不眠気味だった。
疲れがあまり表に出ない体質なのだが、
おかげで周囲からちゃんと疲れが取れてて羨ましいですと誤解されていた。
悦郎はふぅっと深い溜息を入れる。
友人たる星一朗から
【箱庭】の地下で作業を続けていると聞いていたようで、
彼は【箱庭】のの店側から堂々と【コレクションルーム】へ向かった。
竜二は丁度客のオーダーに応えて調理をしていた最中であり、
悦郎は軽く会釈だけして地下へ潜った。
「いらっしゃい、皆下で待っているよ。」
「お邪魔します。」
この【コレクションルーム】、
地下にある関係上、防音効果も高く機密性も意外なほどに高かった。
階段を一段降りる度に上階の音が心細くなって行くのが分かる。
悦郎は【コレクションルーム】のドアの前に立ち、
ドアの側に取り付けられている呼び出しベルを押す。
ノックしたところでノック音は
彼等には聞こえないだろうと思ったからだ。
しばらくして【コレクションルーム】のドアがゆっくりと開かれた。
「失礼する。
作業の進捗確認と報告に来たぞ。」
開口一番、
悦郎は星一朗に向かって聞こえる程度の大きさの声で言い放った。
声に気づいた星一朗は振り返りながらソファーからすっと立ち上がり、
よぉっと言うように右手を挙げて挨拶をする。
口で言えば良いところなのだが、
口にはオヤツの肉まんを咥えていた。
「いらっしゃーい。」
「どうぞこちらへ。
今、飲み物を用意しますので、
ソファーにお掛けになってくださいね。」
「ああ、ありがとう。」
悦郎は恵玲奈とセシルに挨拶した後、
促されるままソファーに腰を降ろした。
彼に手には菓子折と思われる手提げ袋を持っていた。
おもむろに袋から中身を取り出し
紙の包装をバリバリと音を立てて豪快に開封する。
中身は有名菓子店のクッキー盛り合わせだった。
デパート地下の菓子売り場のショーケースに並べられている代物で、
単価では買いたくないと星一朗が思っている類のものだった。
もちろん、人様から貰えるならば喜んで頬ばる所存のようだが。
「悦郎よ、随分頑張ったな。」
「肉まんはもう食べたのか、早いな。
土産か?
この程度ならばポケットマネーでどうとでもなる。
3人とも好きなだけ食べるといい。」
「うわぁ……言葉とは裏腹に顔が引きつっているよ悦郎君。」
「ま、まぁまぁ……
お茶が入りましたので、
取り敢えずご厚意にあずかりましょうよ。」
ひょいぱくっひょいぱっと恵玲奈はクッキーを軽快に口へ放り込む。
丁度小腹も減っていったのだろう、
食べる速度が誰よりも早かった、
そして美味しいと良いながら恍惚の表情を浮かべていた。
セシルは上品に少しずつ味わうように食べていた。
少し食べてお茶を飲みを繰り返している。
本来は彼女のように食べるモノなのだろうと星一朗は妙に納得していた。
星一朗は自分好みのクッキーだけ取り分け雑に頬張っていた。
「本題だが。
デバッグ作業について報告がある。」
「おう、それがメインだからな。
恵玲奈とか忘れてそうだが。」
「ほっといてよ。
おほほほ、どうぞお話を続けて続けて。」
こほんと咳を一つ入れ、悦郎は続けた。
「ここに最新版のゲームデータがある。
今後はコイツを使って作業を進めて欲しい。
理解しているとは思うがセーブデータは
今までのモノは一切使えなくなっている。
初めから作成してプレイしてほしい。」
「分かった。」
悦郎は懐から3枚のディスクを取り出すとすぐに星一朗へ手渡す。
ディスクの表面にはマジックペンでバージョン名が記されてあった。
だが、そのバージョン名について星一朗は疑問符を飛ばした。
普通、バージョン名は連番や日付でつけていくのがセオリー、
あるいはルールみたいなものなのだが、
新しいディスクには連番ではない別の数字が並んでいた。
星一朗の疑問は悦郎の次の言葉で解決を見た。
「コイツは言わばマスターアップ直前バージョンだ。
これまで報告されていたバグ修正は勿論、
必要なシステムデータや要素は全て実装してある。
例によって一部イベントシーンの立ち絵は仮ものだがな。」
「……ちょっと待て、マスターアップ直前だと?」
「ああ。」
悪い知らせだった。
作業期間終了までまだ少し日はあるが、
悦郎が言ったマスターアップ直前という言葉は、
しばらくの間バグ修正を施したバージョンアップは
極力しないと宣言するに等しいものだった。
星一朗のこれまでの経験則から、
この手のパターンで良い記憶は無かった。
マスター提出直前になってもバグが減らず
作業期間が延期されることが多かった為だ。
相手は企業だったので、それも致し方なしだったが、
今回は状況が大きく異なる。
目標はゲームコンテスト提出なのだ。
入賞を目指すのであれば、やはりそれなりの出来にしておく必要はある。
バグが残ったままの状態で出すつもりか、と星一朗は危惧していた。
「無理を言っているのは判っている。
だが、これは制作陣達で何度も話し合い出した結論なんだ。
このバージョンで出せるだけバグを出して欲しい。」
「数回のデータ更新を期待していたが、
そんな余裕はないということかよ。」
「……ああ、プログラマー曰く
”会心の出来だ。このバージョンでバグが取り切れたら
マスターデータも大丈夫さ”と虚ろな目をして言っていた。」
大丈夫なの?と悦郎の話を聞きながら
不安でいっぱいの恵玲奈とセシルであった。
星一朗は腕組したまま険しい表情を浮かべている。
このまま進めていっても、ゲームそのものは
ある一定水準の出来にはなるだろうと星一朗は思っていた。
だが、バグについては正直予想できないでいた。
今日まで触ってきた所感では、
”通常操作ではないイレギュラー操作に弱い”である。
プログラム的な問題なのか、
その部分で致命的なバグが出ていたのだ。
システム的な部分である以上、
原因が分かれば修正も早いだろうが、
根幹に関わる部分であればそうはいかない。
依頼者がこのバージョンで作業してくれと言っている以上、
プログラムに詳しくない星一朗が
プログラムの出来云々で断るわけにはいかなかった。
「分かった。
なら、そのデータでとことんチェックしてやる。」
「頼む。
役に立つと良いんだが、プログラマー連中から
最低でもチェックしてもらいたい項目があると言うことで、
チェックリストを預かってきた。」
「おお、それは助かる。」
「既にクラウドにアップしてあるはずだ、
ダウンロードして使ってくれ。」
恵玲奈はノートパソコンを操作し
クラウドサービスにアップされてあった表計算ファイルを発見した。
日付が今日になっており、ファイルサイズがメガバイトを超えていた。
星一朗のはそのファイルを一旦デスクトップ上に
ダウンロードしてファイルを開く。
ファイルサイズを見たときから嫌な予感はしていたが、
案の定、彼の嫌な予感は的中するのであった。
「……なるほど、こいつは確かにすげぇ……。」
「チェックしてもらいたい箇所を細分化してチェックリスト化した。
総当たりに近くなっているが、
逆に言えばこれさえ抑えておけば
自動的に全チェックも同然だろう。」
「うげげ……なにこの項目数、スクロールバーが小さくなってるし。
多すぎて気持ち悪い、私なんか目眩してきた。」
「表計算ファイルで、画像とか使ってないのに
ファイルサイズがメガバイト超……。
あたし今頃になって、
ようやくデバッグ作業のなんたるかを理解してきた気がします。」
ファイルの中身は、
ゲームシステムを項目毎に細分化し一目で
チェック済みかそうでないかを視認できるように
作られたチェックリストだった。
オプション画面のチェック項目、戦闘画面でのチェック項目、
ノベルモードのイベントシーンでのチェック項目など、
ページ毎に細分化されている。
ただ漠然と作業していくより効率的であり、
時間に余裕があればかなり理想的なチェック方法と言える。
そう時間に余裕があればの話だ。
この物量からいって、チェックしきれるか判断が非常に難しい。
項目によっては数秒で終わるものもあるし、
通しプレイが必要なチェックであれば
数時間あるいは数十時間かかる場合もある。
「正直に言って、
この物量だと期間内で見切れるか自信ないぜ……?」
「プライオリティが高い項目はこっちであらかじめ色を塗ってある。
そこは星一朗のサジ加減で臨機応変に対処してくれ。」
「取り敢えず人員がやっぱり足らん、一名追加希望だ。」
「分かった。
パトロンには伝えておく、
一名増員程度ならノーとは言われないだろう。」
「一名追加って……栗野君召還するの?」
恵玲奈が同級生の名前を告げる。
星一朗の知り合いでゲームをよく知っていて、
デバッグ作業を説明せずにこなせる人物。
そうなれば限られてくるというもの。
セシルも栗野の顔を思い出して納得の表情を浮かべていた。
彼ならば確かに対応できるだろうと。
「良く判ったな。
まあ、まだヤツには言ってないけどなー。」
「断られたらどうするつもりだ?」
「無用な心配だ、ヤツはこの依頼を断ることなんざ出来るわけがねぇ。
理由は聞くなよ、俺とアイツの盟約によって他言できねぇーんだ。」
「何それ……裏取引?
セシルさん、怪しくないですかぁ?」
「だねぇ、何の取引をしたんだろうね。」
悦郎はふっと鼻で笑い任せるとだけ言った。
それから悦郎は約3時間程度、
3人の作業状況を見てチェック作業を手伝った後、
後ろ髪を多少引かれつつ【コレクションルーム】を後にした。
帰りの電車が無くなってしまうという事もあるが、
何より開発スタッフより至急戻られたしの連絡があった為である。
星一朗は悦郎を通りまで送っていくと言って部屋を後にした。
上階の喫茶店スペースでは竜二が店じまいの準備を進めている最中だった。
悦郎は来たとき同様に軽く会釈をして、お邪魔しましたとだけ言った。
星一朗は竜二にそこまで見送りですっとジェスチャーで伝える。
店を出て通りを歩きながら、悦郎はは星一朗にこぼしていた。
「ゲーム製作というのは大変だな……
ガキの頃は想像できなかった作業ばかりだ。」
「絵を描いて、音楽作って、話を考えてってだけじゃねぇもんな。」
「製作の進捗管理、バグフィックス作業、
インタフェースのデザインや何やら……やることは多い。」
「すげぇ話だ。」
悦郎はそうだなと笑う。
悦郎はすぅっと雲一つない晴れ渡った夜空を見上げる。
空気が澄み、いつの間にか冬の空に変わっていた。
悦郎は夜空を見上げたまま星一朗に言葉を返す。
「ああ……まあ、自分で選び望んでやっている事だ、後悔はしていない。
大変なだけで楽しいのは事実だからな。
楽しさが唯一の原動力であり希望みたいなものだ。」
「羨ましいねぇ、俺もそういった才能がちっとでもあったらなぁ。」
突然悦郎は足を止める。
星一朗は数歩進んだ後、悦郎に気づき振り返る。
「何を言っている、
お前だって既にゲーム製作に携わっている人間の一人なんだぞ。」
「……そうだったな。」
「俺達が出来る事を、今は精一杯やるだけだ。」
そう言ってメインストリートへ出た。
メインストリートは帰り道を急ぐサラリーマンや
学生諸君等の姿が大半を占めていた。
この辺りはベッドタウン地域でもある。
終電が近づいてる証拠でもあった。
悦郎は駅の方へ身体を向け歩きはじめた。
そして振り返らないまま星一朗に言い放つ。
「残り期間も頼む、期待しているぞ。」
「気をつけてな!
夜くらいはしっかり寝ろよな!」
星一朗は悦郎の後ろ姿を見ながら決意を新たにするのであった。
友人の為、仕事として依頼されたから、
作業開始の日はその程度の認識だった。
だが今は違う。
自分達も悦郎率いるゲーム開発プロジェクトの一員なのだ。
与えられた仕事を全うし作品を作り上げようと強く思っていた。
恵玲奈やセシルがどう思っているかは分からないが、
少なくとも星一朗はその意識で
今後作業に挑んでいこうと心に決めたのだった。
********
閉店後の【箱庭】、
店のバッグヤードでオーナーである竜二は珍しく悩んでいた。
理由は一つ、客足が数ヶ月前と比較しても大幅に増えていたのだ。
切っ掛けは例の季節限定メニュー期間での客足だった。
そこで味を知った客が継続して訪れるようになっていたのだ。
それ自体は有り難い話なのだが、人手不足は未解決のままだった。
現状ぎりぎりのところで踏ん張っているが、
もしあと一割客足が増えるようならお手上げになってしまう。
業者に注文する材料を確認しながら
竜二はふぅっと深い溜息を入れるのであった。
「ハラを括ってバイトを募集しようかな……
でも見知らぬ人間を雇うのって抵抗あるんだよねぇ。」
この期に及んで煮え切らないオーナーである。
だが今までないくらいに悩んでいるのは確か。
誰かがぽんっと背中を押せばあっさりと決断できそうな状態とも言えよう。
【コレクションルーム】で四苦八苦している彼女に、
白羽の矢が立つのは時間の問題だろう。
続く!
ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。
一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。
デバッグ作業・バグの内容については架空の症状です。




