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第二十五話 始まりの円舞曲

 喫茶店・【箱庭】店舗スペースでは、

竜二と恵玲奈の二人は唸りながら明日の対策を練っていた。

具体的に決まった事と言えば材料仕入れを本日よりも20%増、

単純に物量を増やし在庫を十分に確保することである。

後は人員を投入し適切な処理を施せば、

捌けないほどではないとの判断である。

来店客を前日比で見れば数百%増しというベラボウな数字がちらつくが、

普段の来店客数平均が一桁である以上、

当然と言えば当然の数字である。

 

一案として竜二から、店の前に置いてある看板に

限定商品の在庫数を明記し、

無くなったら終了宣言を予め記載しておくのは

どうかというものもあった。

だが、ホールスタッフである恵玲奈は却下の一言であった。

あまりにも保守的な案である為、

現時点では店のマイナスイメージを作ってしまうと考えたからである。

せっかく客足が伸びているのである、

出来れば在庫たっぷりどなたも来店をお待ちしております、

という万客歓迎の雰囲気が吉ではないだろうか。

言ってしまえば今日の混雑の原因は不明である。

はっきりと客足が伸びた原因が分かれば

他に手のうちようもあるのだろう。


「今はこの謎の客足増に乗っかって、

 店のプラスイメージをお客さんに

 埋め込ませるしかありませんよ。」

「まあ、そうなんだけどさぁ……。

 ほら、お客さん増えると忙しくなるじゃない?」

「当たり前です、何を言っているんですか。」

「そうしたら皆と一緒にゲームについて語り合えないじゃない?」

「……竜二さん、

 お願いですからお兄ちゃんと

 同じような事を言わないでくださいよ。」


 恵玲奈は額に手をあて、

ぴくぴくと眉をひくつかせながら反論する。


「恵玲奈ちゃんって、

 いつもそんな目をして星一朗君を説き伏せているんだね。」

「竜・二・さ・ん?」

「うん、わかったよもうヘタレた事は言わないよ。

 【箱庭】のオーナーらしくビシッと襟を正して頑張るよ。

 (恵玲奈ちゃんの目が怖いからなんて言えない)」

「ったくもうっ!」


 恵玲奈は竜二から依頼されていた、

明日の分の下準備を終え自身の肩を揉みながら

店の外に出て行こうとしていた。

竜二は思わず彼女を止める。


「恵玲奈ちゃんどこへ?」

「お店の外にある看板を回収に。」

「あ、ああ、忘れていたよ。

 ありがとう助かるよ。」

「そう言えば限定メニューはいつまで出す予定なんですか?」

「ああ、それについては具体的な日数は未定かな。

 正しくはメイン材料の在庫次第とも言えるけどね。」

「カボチャですよね、

 バッグヤードに大量に転がってたのは知ってますけど……。」

「近所の八百屋さんから”何とかしてくれ”って泣きつかれちゃってね。

 どうも多く仕入れすぎたらしくてね、

 お鉢が回ってきたってわけさ。」

「……それであんなに。」

「ドーナツだけじゃ流石に厳しいから、

 明日からメニューにシチューとパイも増やすよ。

 今日の消費具合を見ていたけど、

 全部使いこなすにはもっと使わないとダメだ。」

「すごっ!

 竜二さん地味にすごいっ!

 なんだ、ちゃんと色々オーナーらしい事

 考えているんじゃありませんか。」

「はっはっはっ!

 地味は余計だよ、それに伊達に調理場も仕切ってはいませんよ。

 ただ下準備をしっかりする必要があるから、恵玲奈ちゃん頑張ろう!」

「は、はは……ですよねぇ……はーい頑張りまーす。」


 竜二はそう言いながらシチュー用の寸胴鍋を用意した。

業務用の大きな寸胴鍋で、恵玲奈はその姿を目の当たりにするのは

小学校の給食センター以来だった。

だがすぐにこれから自分が触る調理器具だと理解すると

溜息が出るのを我慢出来なかったのである。

ちなみに寸胴鍋は店のメニューで考えれば

使用する機会がほとんどない料理器具の一つ。

開店する際にまとめて買って揃えておいたのだろうか、

使用感があまりない未使用に近い状態だった。


********


「やべぇ……こいつはやべぇぜ……

 怖すぎてコントローラパッドの操作がおぼつかねぇ……。

 って本条さん、大丈夫か?」

「ひぃっ!

 だ、大丈夫ですっ!

 カウントだけはしっかりとやってます!」

「走れ! 走ってくれ!

 懐中電灯点けんな!

 いや、やっぱ点けてください!」

「いやーっ!

 チェスター君、絶対にあの暗いところ照らさないでくださいね!」


 少し進む度にセシルが悲鳴に近い声を挙げ、

それに釣られて星一朗も反応し動きを止める。

その度に彼の心拍計はしっかりと数字を刻んでいく。

恐る恐る進むよりも敢えて一気に進めた方が、

この場合は気分的に楽なのではないか、と

悦郎や泪は思っていたが口に出すことは無かった。

なぜなら二人の慌てふためく姿が意外と面白かったからである。

普段、ぶっきらぼうであまり怖がることをしない星一朗。

普段取り乱したりすることが無く何事も上品に振る舞っているセシル。


「面白いわねぇ、端から見てると……ぷぷっ。」

「うむ。

 普段の本条さんを知らんから何とも言えんが、

 星一朗は……ぷふっ」


 思わず失笑に近い何かが悦郎と泪から漏れる。


「てめぇらっ!

 ニヤニヤしてこっち見てんじゃねぇよ!

 悦郎だって似たようなもんだろうが!」

「ほら星君、興奮すると余計に計測されるわよ!

 それよりも画面見て進めなさい!」


 横からチャチャを入れる悦郎と泪が、

横目で気になってしようがない星一朗だった。

泪に指摘され慌ててコントローラパッドを握りしめ直し視線を画面へ戻す。

だが画面に映し出される光景は薄暗い家屋と、

妙に白く見える【真冬】の姿のみ。


「ちっ余裕ぶりやがって……

 泪のやつ、何で全く怖がんねぇんだよ。」

「あ、あはは……あたしも泪さんの余裕が欲しいです。」


 星一朗とセシルは涙目のまま続ける。

しばらく似たようなやり取りを数回繰り返した後、

何とか【射影機】をゲーム上で初めて使用するシーンまできた。

ちなみに【射影機】とは、

”ありえないもの”を映し出す特殊なカメラである。

使用する事で過去の映像を見たり、怨霊を除霊したりすることが出来る。

ゲームでは怨霊や悪霊に唯一対抗できる武器であり、

星一朗が待ちに待った要素でもあった。

だが、【射影機】は剣や銃と言った物理攻撃をする代物ではない。

ファインダー越しに相手を見て撮影するものである。


「な、なんだ、照準が定まらねぇ……俺の指が勝手に震えているのか?」

「お、お、落ち着いてください!

 チェスター君なら大丈夫ですよ!

 あたしも隣でちゃんと控えていますから!」

「お、お、お、お、おっけー。

 相手をセンターに入れて……よーく引きつけて、バシャリだっ!」

「あっ!

 何か大ダメージを受けたような反応ですよ!

 めっちゃ仰け反ってますっ!」

「オラオラっ! 連写だっ!」


 【射影機】による連続撮影により迫ってきていた怨霊は消滅した。

画面上にゲーム的数値が表示され

ほっと胸をなで下ろす星一朗とセシル。


「やりました!

 やりましたよチェスター君っ!」

「っしゃああああああっ!

 どーだ見たか! この俺の実力をっ!」


 画面上の【真冬】は、

家屋の奥で偶然見つけた【射影機】を使用し襲い来る怨霊を撃退した。

今回の勝負において、最大の山場を乗り越えた星一朗とセシルは、

ほぼ無意識に近い状態でその瞬間の喜びを

お互い抱き合うことで表現したのだった。

余程この状況から脱したかったのだろう、

普段であれば二人とも絶対にやらないような行動である。

その様子に業を煮やした悦郎と泪はコホンと咳を一つ入れたのだった。


「あ、ご、ごめん本条さん……

 で、でも良かったよ、何とか目標達成できたぜ!」

「よ、良かったです!

 じゃあ集計しますね。」


 その時である。

悦郎の携帯電話に着信があったのは。

マナーモードにはしていたようだが、

たまたまテーブルの上に置いていた為、

ガタガタと大きな音を立てて主を呼びつけていた。

悦郎は携帯電話を拾い上げ電話に出る。

余談ではあるが、この部屋は地下にある為、

普通に考えれば電波状況は良くないはずである。

だが、通常利用に困ることは無かった。

理由は営業している喫茶店であることから、

通信業者が室内でも電波を正しく使えるように

取りはからってくれた為である。


「どうした。」


 いつもの口調で電話に出る悦郎。

だがその表情はかなり焦ったものへ変化していた。

思わず星一朗と泪はお互い顔を見て眉をひそめる。

悦郎の性格をよく知る二人にして見れば、わりと珍しい状況らしい。


「ふむ、ふむ……それは本当か?」


 さらに悦郎の表情が険しくなる。

電話口の相手から何か言われたのだろうか。

さらに会話は続き悦郎はふむふむと相槌を打ち首を縦に振っていた。

電話口の相手には見えないのにも関わらず。


「分かった、その件についてはオレで何とかしてみよう。

 うむ、アテがあっての話だ。

 三登みと、済まないがすぐにでも

 こっちへ転送できるよう準備をしておいてくれ。」

「悦郎のヤツ、随分真面目な顔してんな。

 一体何の話をしているのやら。」

「詮索してもしょうがないわよ、

 それにそういうのって趣味悪いと思うけれど?

 ところで本条さん、数字出たのかしら?」

「はい、こっちは大丈夫です。」


 ひとまず、セシルと泪は対象者二人よりも先んじて

心拍計の結果を見ることにした。

泪はその数字を見て呆れた表情を浮かべながら、

星一朗と悦郎を交互に見やる。

セシルもまた渇いた笑いと一緒に小さい声で

”もはや奇跡ですよ”と漏らしたのだった。


「じゃあ泪、結果を発表してくれ!

 どっちがビビりなのかってーのをな!」

「いいわ、もう何というか……

 どっちも紛れもなくビビリすぎなんだけれども。」

「ちょっと待った泪さん、結果発表は後にしてくれ。」

「あん?

 どうした悦郎、異議ありか?」


 悦郎は泪の言葉を遮るような形で話に割って入った。

どうやら電話は終わったようで、丁度ポケットにしまうところだった。

星一朗は悦郎の様子を見て、いつもと少しだけ違う事に気づいた。

幼馴染みの直感と言おうか、

少なくとも悦郎がさっきまでの心理状態と

異なっていることだけは間違いないと星一朗は踏んでいた。


「ああ、重大な問題が発生した。

 本当はお前達に話すつもりは無かったんだが、

 背に腹かえられん。

 と言うよりこの事態を打開できそうなのは

 お前達以外にいないだろう。」

「悦郎君、それって”本当の用事”の方についてかしら?」


 悦郎は泪を見ながら

相変わらず妙に察しがいいな、と呟いて肩を竦めた。


「ご明察だ、

 オレがこっちに戻ってきた理由は何も里帰りではない。

 まして星一朗との決着をつけにきたわけでも無い。」

「そうだったっけ?」

「星君は少し黙っててね、話が進まないから。

 ……で、さっきの電話はそっち絡みだろうとは思うけれど、

 私達以外では打開出来ない事って何かしら?」


 悦郎はソファーから立ち上がると皆の顔が見える位置へ移動し、

真剣な表情のまま改めてソファーに腰降ろし口を開いた。


「オレがこっちに来た目的、

 そしてこれからお前達に頼む内容について説明させて貰おう。」

「それはお願いするけれど、

 私達が悦郎君の話を聞いて断るかもしれないわよ?」

「ふふふ、それは無い。

 特に星一朗はな。」

「???」


 やたら自信たっぷりに悦郎は泪へ言葉を返す。

まさか即答で返されるとは思っていなかったのか

泪は黙り込んだのだった。

そしてどうぞ話を続けて、と促すので精一杯だった。


「実は今、学内サークル活動の一環で

 ”コンピューターゲーム”を製作している。」

「ほぅ!

 ツクールシリーズか!?

 ジャンルはなんだ?」

「本当ですか!

 鷲谷さん、凄い!

 うわ~あたし見てみたいですっ」

「ちょっと二人とも反応が良いのは結構だけれど、

 今は少し自重して。」

「「すみません……」」


 泪に叱られてシュンとなる星一朗とセシル。

悦郎はスマンという意味で泪に軽く会釈する。


「動作環境はパソコンだ。

 ツクールシリーズではない、ちゃんとイチからプログラムを組んで

 画像や音楽の素材も作っているぞ。」

「インディーズゲームね、

 そう言えばウチのガッコのクリエイター科の人達も

 似たような事をやっていたわね。」

「一応、とあるゲームコンテストに応募するつもりでな。

 何とかα(アルファ)版までこぎ着けたわけなんだが、

 ここで重大な問題が発生した

 ……いや予想されていた事ではあったか。」

「話の腰折ってごめんなさいね、アルファ版って?」


 泪が悦郎の言った単語に疑問を飛ばす。

α(アルファ)版、もしくは試験製作版とも。

コンピュータのソフトウェア製作において、

製品版に至るまでに何度も仕様追加のバージョンアップや

バグフィックス対応を段階的に行う。

その中で、アルファ版は基本的な仕様を一通り実装した状態

と考えて貰えば分かりやすいだろう。

ただあくまでもアルファ版はテスターや

開発者向けのバージョンである為、

一般的に世に出回ることはない。

動作は不安定、実装した仕様はバグばかり、

想定外の処理が発生などなど、

プログラマーと仕様書とテスターの死の円舞曲デス・ワルツが始まる状態である。

似た単語にβ(ベータ)版というものもあるが、

ベータ版はアルファ版よりも動作が安定し、

実装仕様も製品版へさらに近くなったバージョンを指す。

テストバージョンの域は出ないが、

特にオンラインゲームに置いては多環境における動作確認や

バグフィックス確認、回線負荷テストをする為、

一般公開をすることがある。

これが【オープンベータテスト】だったり

【クローズドベータテスト】だったりという形で世に出るわけである。


「アルファ版は、動作不安定のテスト版と思ってくれればいい。」

「……ふーんなるほどね、何となく読めたわ。

 悦郎君、だから私達ならって言ったのね?」

「うむ。

 先程の電話はその件でな、とあるデバッグ会社に打診して

 見積もりを取っていたんだが、

 かなり予算が掛るようで白紙になった。

 少人数で製作していた事もあるが、

 デバッグはどうしても時間と人員が必要な作業だ。

 外部の人間に頼むしかないわけだが、

 かと言ってゲームのゲの字も知らん人間に頼めるものじゃない。」

「あちらはプロだろうし、単価で見ても決して安くは無いでしょうね。

 ……で、私達は保険だったけど、本命になったってところかしらね。」

「ああ。

 ストレートに言うが、

 お前達にオレが製作しているゲームのデバッグを手伝って欲しい。

 もちろんタダでとは言わん、親しき仲にも礼儀ありだ。

 もし、デバッグ会社への打診が白紙になった時の為の保険、

 それがこっちに戻ってきた理由だ。」

「……ふむ。」

「頼む、星一朗。」


 頭を垂れ、礼を持って悦郎は戦友たる星一朗達に頼み込んだ。

星一朗は悦郎の話を腕を組んだまま目を瞑り黙って聞いていた。

デバッグ作業、ゲーマーならば聞いたこと、

あるいは実際に従事したことがあるだろう。

ゲームをプレイするだけのお仕事、

ではない過酷且つ精神を削りつつ時間と戦う

デリケートな作業なのである。

良く例に出されるデバッグ作業と言えば、

レースゲームで壁に当たりながらゴールを目指す、

ロールプレイングゲームなら

同じ敵キャラクターとの戦闘を何千回も繰り返すなどでは無かろうか。

確かにこれらの作業例は間違ってはいないが、

その通りというワケでも無い。

処理負荷の大きい箇所での外部入力、

実装されているゲーム独特の仕様を利用したイレギュラー入力、

耐久プレイにおけるメモリ処理等々、

システム面でのデバッグは多岐に渡るのだ。

例に挙げたゲームの操作を行うデバッグは、

最も楽しい要素であるが、デバッグ期間においては

中盤から終盤における仕上げの確認作業にすぎない。


「無論、プログラム的な指摘までは要求しない。

 それはこちらの仕事だからな、

 あくまでもプレイヤー視点で作業を行って欲しい。

 発生した事象、それに至までの手順、発生頻度、

 この辺りを逐次報告してくれると助かる。」

「なぁ悦郎、デバッグ期間はどのくらい見積もっているんだ?」


 星一朗は双眸を見開き悦郎へ視線を向け、真面目な表情で問うた。

セシルはこれほど真剣な表情の星一朗を見た事は初めてだった。

今までの星一朗とは違う、社会の風を知っている雰囲気だ。


「データの関係上、即日というわけにはいかんが、

 最短来週から始めるとして約40日間だ。

 バグフィックスとデータ提出を考慮すると

 この辺りでギリギリだろう。」

「無茶言いやがって……

 ボリュームが分からんから、

 俺はスケジューリングについては何とも言えんけど……

 デバッグにはどのくらい人数を投入できる予定だ?」

「お前達の返答次第ではあるが、他に3人は確定している。

 と言っても大学の友人・知人だがな。」

「なるへそ……。

 ちなみにジャンルはなんだ?

 まさかRTSリアル・タイム・ステラテジーとか、

 FPSファースト・パーソン・シューターとか言わんよな。」

「ハクスラとノベルを足したゲームだ、安心したか?」

「何故ハクスラとノベルを合わせた……

 あんま聞いたことないっちゃないが、

 ハクスラ部分のデバッグは苦労するな……。」

「はくすら??

 聞き覚えないんだけれど、本条さんはご存知かしら。」


 泪はハクスラの意味を知っていそうなセシルに話を振る。

もちろんセシルは知っていたようで、

胸を張って少し自慢げに説明を始めた。

ちなみにセシルが最も得意とするゲームジャンルでもある。


「ええ、もちろんです。

 ハクスラは略称で、正しくはHackハックandアンドSlashスラッシュと言って、

 敵を倒しながら強力なアイテムを手に入れ、

 先へ進んでいくスタイルを指します。

 元来ロールプレイングゲームの基本的な要素を指す言葉でもあります。

 例を挙げれば【ウィザードリィ】がこっちでも有名ですね。」

「へぇ、詳しいわね、ありがとう助かったわ。

 ついでに、星君と貴女が一緒に居る事が多い理由が理解できたわ。」

「へ?

 は、はぁ、とんでもないです。」


 星一朗は悦郎から聞いた情報を加味し、

自身のスケジュールと作業環境を考慮していた。

パソコンベースの検証作業となると、

正直動作可能なパソコンがあればどこだっていい。

ただ制作者側からなるべくオフライン環境で頼むという注文があれば、

ネットワーク環境が限られる空間での作業になるだろう。

他にオペレーティングシステムの問題、

バグレポートの報告方法、作業に関する細かい調整は必要だろうが

星一朗の中ではこの依頼を受ける方向で定まっていた。


「だいたいの作業感は見えた。

 戦友の悦郎の頼みだし、

 ゲームのデバッグ作業なら手伝ってやるよ。」

「本当か!」

「何言ってやがる、俺が了承すると睨んでたんだろうが。」


 星一朗の返答に悦郎は口元を緩める。

セシルも泪も星一朗が断ることはないだろうと

どこかで勝手に思っていたようで、

特に驚く事もなくやっぱりね、という雰囲気だった。

コンピューターゲームという要素が絡めば

星一朗は拒めない性質なのである。


「まあな。」

「コノヤロウ。」

「細かい打ち合わせについては後日改めよう、

 仕様書と作業に必要な資料を

 オレのノートに転送するよう後輩が手配している最中だ。

 本当はここで打ち合わせもやっておきたいが

 現物は間に合わんだろう。」

「オッケーだ。

 と言うわけで、本条さんに泪、そっちはどうする?」


 星一朗は一緒に話を聞いていた女性陣二人に声を掛ける。

正直なところ、デバッグ作業のなんたるかを知る悦郎は、

二人の了承には期待していなかった。

趣味の仕事に近い上に地味且つ大変な作業なのだ。

余程ゲームが好きか、経験者でなければ難しい判断だろうと。


「どうするって……悦郎君には悪いけど私はパス。

 と言うか、手伝ってあげたいとは思うけれど私も私で来週は忙しいの。

 デザイン公募の締め切りあったり、課題作成もあるしね。」

「いや、分かっている。

 気持ちだけありがとう。」

「あたしはお手伝いしますよ!

 デバッグってやったことないけど興味はありますし。」

「本条さん、ありがとう。

 これで二人参加か。」


 悦郎はそう言って自身の指で立て、参加人数に見立てた。

それを見ていた星一朗は、

折りたたんでいた悦郎の指を一本立ててこう言い放った。


「いいや、三人だ。

 恵玲奈も参加させる。」

「おい、勝手に決めて良いのか?

 いくら妹とはいえ、それはマズイだろう。」

「アイツの出来る範囲で手伝わせるさ。

 それにアイツも俺の予定を勝手に組みやがる時があるんだ、

 お互い様だっての。」

「恵玲奈ちゃん、どんまい……。」


 ビビリ対決の結果発表は何故か持ち越しされた。

どちらが勝っていたのか、それはセシルと泪が知るのみである。

当の本人達はそんなことは後回しのようで、

来週から始まる予定のデバッグ作業について詳しく話し込んでいた。

この時、悦郎は星一朗の動きに注目していた。

ゲーマーとしての知識や経験は分かっていたが、

デバッグ作業でこれほどまでに視点を展開できるとは

思っていなかったからだ。

果たして一体何が待ち受けているのか、

それは捌ききれないバグの大量発生、

修正必至のスクリプト入力ミス、

そして謎のフリーズ現象頻発、

コンピューターゲームというコンテンツに潜む

深淵の入口に彼等は足を踏み入れるのだった。


********


「へっくしゅっ!」

「寒いかい? ここの窓閉めようか?」

「あ、大丈夫です、小麦粉が少し鼻に……。」

「ならいいけど。

 体調管理には気をつけてよ、恵玲奈ちゃんがダウンしたら

 ……明日は間違いなく詰みだからさ……。」

「ほんと、大丈夫ですってば!」


 竜二への返答とは裏腹に、

言い知れぬ悪寒を感じる恵玲奈であった。



続く!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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