第二十四話 零時間の到来
喫茶店・【箱庭】の一階、喫茶スペースは戦場の様相を呈していた。
絶え間なく訪れる来店客の嵐、通常時の三倍いや四倍の忙しさだろうか。
竜二は汗を拭う事を忘れて、
フロアスタッフとして走り回っている三人からのオーダーに応えていた。
ドリンク系は完全に三人任せ、
気合いを入れて仕込んでいた季節限定メニューのパンプキンドーナツは、
みるみる在庫は減っていき数える程度になっていた。
何より竜二を疲労させているのは、普段とのギャップに他ならない。
昨日までの今頃は来店客は多くて数人、
注文されるものと言ってもコーヒーと
精々ナポリタンやサンドイッチといった軽食中心である。
そしてまったりと雑紙を見ながら、
ラジオを流して今日も平和だねと考えているところである。
「オーダー入ります!
ナポリタン二つ、シーザーサラダ一つ!」
「こっちも追加オーダー!
チョコパフェ一つにラテ一杯!」
「ナポリタンは少し時間がかかるよ、了承を貰ってくれ!
その代わりサラダはすぐに出すよ!
あぁぁぁっ! セシル、ラテはお願いするよ!」
「は、はい!
真野さん、これを3番テーブルにお願いしますっ」
「ええ、分かったわ。」
フロアスタッフ三人娘の働きぶりは、
初めて飲食店の接客と言うことを考えれば上々のものだった。
来店客の反応も良く、ちょっかいを出してくる男性客もチラホラ。
ただ泪の存在のおかげでそれ以上の事は無かった。
夏の”三夏祭”の出店とは違う本格的な対応が必要であり、
ちょっとした事でもクレームになりやすい状況なのにも関わらずである。
彼女達の働きぶりを評価する上で、
外せない評価項目と言えば笑顔の対応だろう。
恵玲奈は見ての通り、人当たりが良く
普段のバイトでも遺憾なくその笑顔効果を発揮している。
セシルは作り笑顔は決して得意ではないが、
にこっと微笑むだけでもかなりの効果を期待出来るタイプ。
泪はこの中ではかなりクールな立ち振る舞いを見せているが、
要所要所で微笑みを忘れていなかった。
ある意味でバランス良く取り揃った人員配置であったと
後に竜二は語っている。
「セシル、僕トイレに行きたいんだけどダメかな?」
オーダーを取りに来たセシルに竜二は泣きそうな声で話しかけた。
事態は急を要する。だが姪の返答はクールなものだった。
「ダメですよおじさま。」
「ど、どうしてもかい?
おじさん、いい歳してなっちゃいけない事態に
なりそうなくらいピンチなんだけど。」
「どのみちトイレは今混んでいますし、
オーダーの品を二・三品こなしてからにしてください。」
「そうだね……でも緊急事態になったらトイレに駆け込むからね僕は!」
「だ、誰も止めませんよ。」
調理が出来る人間は竜二を置いて他にいない。
非情にも突きつけられた現実に竜二は心の中で
さめざめと涙を流すしか無かった。
この戦場にも等しい混雑ぶりは午後3時頃まで続き、
竜二がパンプキンドーナツの在庫切れを示す看板を
店の前に立て掛けた辺りから、ゆっくりと客足は少なくなった。
最後の客が退店したのを確認したセシルは、
”開店中”から”準備中”と書かれたドアの札へ切り替えたのだった。
********
一方その頃、【箱庭】地下の【コレクションルーム】では、
未だ星一朗と悦郎の決着がつかない
最早不毛という言葉がチラつく戦いが続いていた。
【ブシドーブレード弐】では飽き足らず、
勝負がつかないだろうと判断を下した二人は、
合意の元に別のゲームソフトを選ぶ事にした。
ここもまた違う意味での戦場だったのだ。
星一朗と悦郎は次なるゲームソフトを求めて
【コレクションルーム】で選別を進めていたが、
星一朗が1枚のゲームソフトを持って悦郎の前に現われた瞬間、
悦郎の表情は一気に曇り声を震わせて叫びにも似たトーンで反対した。
「お前、その手に持っているゲームソフトが何なのか分かっているのか!
冷静になれ星一朗っ!
一体何がそれを選ばせたのだっ!」
「ふ、俺は至って冷静だよ悦郎。」
「どこが冷静だっ!
暴走したようにしか見えん!」
「今まで避け続けていたジャンルだから、
お前のその反応分からなくも無いがな。
だが敢えて俺はこれを選ぼう!」
「く、確かにオレ達のルールに
そのジャンルを選ぶ事を阻止する規定は無い。
だが暗黙の了解として今まで触れずに来たのでは無かったのか!」
「【零~zero~】またの名は【FATAL FRAME】、
ホラーゲームの一作であり、俺達が最も苦手とする
ジャンルのゲームソフトだ!」
そうこの二人、ホラーというジャンルが殊の外苦手である。
例えばであるが、ホラーゲームとは言え、
迫り来る不安要素を対処できる方法があるものは問題は無い。
【バイオハザード】や【サイレントヒル】のような、
ゾンビをハンドガンで倒せたり、
クリーチャーを鉄パイプで殴り倒せるのであればどうという事は無いのだ。
物体を物理攻撃で何とか出来ればいいのだが、【零~zero~】は異なる。
【零~zero~】で行える対処と言えば、
特殊な写真機を使ってその存在を撮影するのみで、
基本的には逃げの姿勢のままストーリーを進めることになる。
この状況が恐怖を助長させ、また画面自体も全体的に暗めである為、
視界も良くは無く余計な不安を煽る要素となっていた。
つまり二人とも、ゲームとは言え怖いものがダメなのである。
「せめて普通に対応できるゲームソフトにしないか?
流石に【零】は……怖い。」
「ああ、俺だって怖いさ!
だがな、時として苦手なものでも食さねばならん時がある!」
握り拳を悦郎の前に突き出し、自身の決意を宣言した。
星一朗の思考回路は、ホラーゲームも誰かと昼間にプレイすれば
きっと大丈夫、という短絡且つ情けないものだった。
一人のゲーマーとして苦手なジャンルとは言え、
ゲームの中身が気にはなっていたのだろう。
「今がそうだとは思えないんだが。
まあ、それを言ったところで
ゲームソフトを代えるつもりはないんだろう?」
「ああ、俺に二言はねぇ。」
「で、勝負方式はどうする?
まさかクリアまでのタイムアタックとは言わないだろう?」
「チュートリアルステージで、
ビビった回数が多い方が負けと言うのはどうだ?」
「ふむ、オレ達にピッタリだと思うが……
どうやってそのビビリを定義するつもりだ。
まさか叫んだ回数とかアナログな測定で判断するのか?」
星一朗はふふふと不敵な笑みを浮かべ、
不思議がる悦郎を手招きし【コレクションルーム】の片隅に案内した。
そこはジャンクパーツとジャンクソフトの山があった。
竜二が間違って集めてしまったものだったり、
何に使うのか今もって不明なオプション機器の墓場でもある。
その中から星一朗はとある機器を取り出した。
それは医療機関などで見かける、
心臓の鼓動数を測定する心拍測定器の民間品だった。
バラエティ番組などで誰が一番ビビリか確認する時に使う
アレとでも言おうか。
「ここは何でもあるな……まさか心拍計まであるとは。」
「竜二さん、何だってこんなものを……。
俺がさっき偶然見つけて無ければ、
ずっとあの中で眠っていたことだろうな。」
「なるほど、だから【零】にソフトを決めたということか。
ふん、いいだろう星一朗!
そこまで揃っているのであれば、
どちらがビビリかついでに決めようではないか!」
「はっはっはっ!
機械は嘘をつけん、その表情の下に隠れた本性暴いてやるぜ!」
二人は意気揚々として機材設置を始め、
ややテンションを下げながら
ゲームソフトをケースから取り出し起動させたのだった。
どう強がっても怖いものは怖いらしい。
コントローラパッドを持つ手が心なしか震動する。
震動設定にしていないのにも関わらずぷるぷると震えている。
二人が着けている心拍計は腕時計型のもので、
基本的な使い道はスポーツで身体の状況を把握する時に使うものだ。
ゲームプレイ時に使う人間もそういないだろう、
まさか心拍計自身もこうなるとは思っていなかっただろう。
「準備万端……だがしかし!」
「なんだ、トイレか。」
「違う!
大画面でホラーゲームとか、なにその罰ゲーム。」
「自分で選んでおいて、ここまで準備もしておいてそれを言うか。
電気を消さずにいることだけは評価しよう。」
「茨の道を歩む我が姿に、頬を濡らさざる得ない。」
しばしの沈黙。
画面上に表示されているタイトル画面で既に青筋を立てる二人。
すると突然、上階でバタンとドアの閉まる音が鳴る。
二人の心拍計が測定した最初のビビリであった。
「な、なんだ、ドアが閉まる音じゃないか。」
「ふ、ふん、なかなか驚かせる。」
コツコツ、耳を澄ませば今度は誰かが階段降りる音がしていた。
それも一つでは無い。
星一朗と悦郎の顔が更に強ばる。
このコツコツ音、冷静に考えれば数人が階段を降りる音だ。
音の高低からスニーカーやサンダルのような靴ではない。
靴底が固く接地面が少ない種類のものだ。
だが、その考えに二人は至らず何か得体の知れない物体が
【コレクションルーム】へ近づいてくる音に思えていた。
そして【コレクションルーム】のドアが勢い良く開け放たれたのだった。
「ぎゃああああああああああ!!!
バケモノおぉぉぉぉぉぉ!!」
「出た! ナンマンダブ、アーメンっ!」
星一朗と悦郎の絶叫が室内にこだまする。
思わず耳を塞ぐ恵玲奈・セシル・泪。
勿論、ドアを開け放ったのは一階で
フロアスタッフとして従事していた三人である。
エプロンドレスを着たままのところを見ると竜二から一段落したから、
下の様子でも見てきたらと促されたのだろう。
気になって見てきてみれば、開口一番は二人の絶叫である。
疲労がそれなりにあった恵玲奈は反論せずにはいられなかった。
「失礼な! 誰がバケモノよ!
疲労困憊の妹つかまえて!」
「な、なんだ恵玲奈じゃないか! 驚かせるな!」
「ただドアを開けただけじゃないの!
もう、いつまで怖いモノを見る目で見てるの!」
兄妹のやり取りをよそに悦郎は冷静さを取り戻すと、
セシルと泪に視線を移し労いの言葉をかけていた。
余談ではあるが、
本日【コレクションルーム】の在中人数が過去最大を記録した。
「泪さん、本条さん、お手伝いお疲れさん。
竜二さんは……それどころじゃないか。」
「本当にね。
静かな喫茶店が聞いて呆れるわ。」
「あはは、今日は忙しかったです。
真野さん、本当に有り難う御座いました。」
「いいえ、あの約束の件、よろしくお願いするわね本条さん。」
「ええ、大丈夫です。
おじさまも了承済みですから。」
泪は大型ディスプレイに表示されている
ゲームのタイトル画面を見て言葉を発する。
「あら?
ねぇ星君【ブシドーブレード弐】で
勝負していたんじゃなかったかしら?」
「【零】ですか……あはは……。」
セシルの顔が一瞬曇る。
「【ブシドーブレード弐】でも相当数試合したんだけど、
勝負がつかなかったからなー。」
「ああ、つかなかったな。」
「ホラーゲームだよね【零】って。
ってかお兄ちゃんも悦郎君も苦手ジャンルじゃなかったっけ?
うちでプレイしてるとこ見た事ないんだけど。」
「ああ、だからこその【零】だ。
ほら、俺等の腕に心拍計があるだろ。
これでどっちがビビリかで勝負すんだ。」
「そのバラエティ番組的なノリはどっから来たんだか。
まあお兄ちゃんが言い出しっぺなのはすぐに分かったけど。」
呆れる恵玲奈を尻目に、
星一朗は腕に着けていた心拍計を三人に見せ、
勝負方法を説明していた。
余談ではあるが、三人増えたことで
星一朗と悦郎の恐怖度が減ったのは言うまでも無い。
「どうせだから皆も手伝ってくれよ、
第三者の判定があれば後腐れなく挑めるってもんだ。
なあ、悦郎。」
「ああ、オレからも頼む。
手伝って欲しいところは心拍計の数値だ、
大きく揺れ動いた回数を数えていて欲しい。
自分達で見るのもいいが、見逃しそうな感じだからな。」
「いいんじゃないかしら。
ただ二人の絶叫実況プレイを見ているのもなんだし。」
「あ、でもあたしは見ているだけでもそれなりに……
な、何でも無いです。」
―ピルルルルッ!
聞き慣れない電子音が【コレクションルーム】に鳴り響く。
またもや星一朗と悦郎の心拍計は仕事をしていた。
音は狂ったように鳴り続けている。
5人は音を辿って部屋を探した。
するとバーカウンターの近くで恵玲奈が電話機を見つけた、
音の正体は大方の予想通りただの電話機だったようである。
おもむろに恵玲奈は電話機を取る。
「はい、もしもし?」
『ああ、良かった出てくれた。』
「その声は竜二さん、これって内線だったんですね。」
電話の主は竜二だった。
ほっと胸をなで下ろす星一朗と悦郎。
店内にある電話機と【コレクションルーム】の電話機は
繋がっていたようである。
確かにドアを閉め切っていたら音も聞こえなくなるし、
何かあって下の人間が上にいる人間に連絡する場合は便利だろう。
ただ普通は携帯電話もしくはスマートフォンを持っている為、
使うことは稀である。
竜二は移動端末を持っていない為、必要な設備とも言えよう。
『うんまあね。
ちょっと悪いんだけど、
一人で良いから上に戻ってきてくれないかなぁ……
明日の仕込みが間に合わなそうな感じでさ、人手が欲しいんだよ。』
「あ、いいですよ、私が行きます。」
『恵玲奈ちゃん本当かい!
助かるよ残業代ってことでバイト代に上乗せしておくからさ。』
「じゃあ、すぐに行きますね。」
恵玲奈は竜二からの頼まれ事と自身が手伝う事を皆に伝え、
そのまま急ぎ上に戻っていった。
「人数的に丁度良くなったか。
じゃあ本条さん、こっちに座って俺の測定してよ。」
「は、はい!
お任せください!」
「ふむ、では泪さんはオレの分を頼めるか。」
「はいはい、まあ、妥当な組み合わせかしらね。」
【コレクションルーム】の高級ソファーに4人は並んで座った。
端から見れば一体何の集まりだろうと
訝しんでも可笑しくない状況である。
流石に4人同時に座るとなるとソファーも手狭にはなったが、
座れないわけでは無かった。
左からセシル・星一朗・悦郎・泪の順である。
星一朗は左手に心拍計を着け、悦郎は右手に心拍計を着けた。
偶然相手の数値を見ない為の措置である。
テーブルの上には、ゲームハード以外にも
目隠し用のアイマスクと
音漏れ防止効果の高いヘッドホンが置かれてあった。
ヘッドホンは星一朗のスマートフォンと接続されてあり、
何か音楽を流すつもりのようだ。
「オレからでいいか?」
「ああ、いいぜ。
じゃあ俺は見ないように目隠しとヘッドホンを装備して
情報を遮断するとしよう。」
「準備が良いわね、これって
……アイマスクはともかくヘッドホンは高級モデルじゃないの。」
「アイマスクとヘッドホンそれに心拍計
……この部屋って何でもありますよね。」
セシルはそう言いながらアイマスクとヘッドホンを星一朗に手渡す。
「君のおじさんはすげーよ、
俺のゲーマー人生において素直に尊敬できる人だぜ。」
「あはは、本人に言ってあげてください、きっと喜びますよ。」
先手、悦郎。
コントローラパッドを握りしめゲームを始める。
暗く光の無い空間がディスプレイに映し出され、
少女のモノローグと静かながらもおどろおどろしいBGMが
共に雰囲気を盛り上げていた。
悦郎が操作するのは大学生くらいの若い男性で、
名を【雛咲真冬】、
朽ちかけている屋敷へ真冬が入っていくシーンだ。
ディスプレイ上の真冬はゆっくりと進んでいくた。
悦郎の手は既にがくがくと小刻みに揺れ、
表情こそ普段とあまり変化は無いが、内心は相当怖がっている様子だ。
現に泪が見ている心拍数の数値は面白いように変化していた。
ほとんど聞こえていないとは言え、
自身の叫び声を聞かれるのはしゃくなのか、
声だけは漏れないよう必死に押さえ込んでいた。
「うっわー……雰囲気凄いわねこのゲーム。
こうジトジトした空気感というのかしら、
パニック系映画とかよりもよっぽど……。」
「う、うむ。
【真冬】氏は怖くはないのだろうか。」
「さぁてね、画面上の彼は何か別の意志があってじゃないかしら。
私はそれよりも好奇心で動いちゃうかもだけれど。」
「だろうな、泪さんらしい。」
泪はゲーム画面を見ながら冷静に感想を述べていた。
見ての通り泪はこういったホラー系を苦手としていない。
完全に作り物として割り切っているようで、
映画だった場合は特殊メイクの技術や演出の妙について
独特の視点で見ていた。
「ははは……写真機の照準が合わないんだが、どうしたものか。」
「落ち着きなさい悦郎君。
敵の動きはそんなに早くないんだから、
冷静になって動きを見定めさえすれば楽勝よ。」
「う、うむ、心得た。」
泪の一言のおかげか、悦郎は少しだけ落ち着きを取り戻した。
「ところで本条さん、星君の様子は大丈夫よね?
ズルして映像見てたり、音を聞いていたりしてないわよね?」
「……だ、大丈夫だと思いますよ!
ヘッドホンからはちゃんと音楽流れてますし!」
「って本条さん貴女、何をやっているの?」
若干睨むような視線を泪はセシルに向けていた。
どうやらセシルもホラーゲームというジャンルは苦手だったようで、
ガシッと星一朗の左腕を自分の胸に押し当てるような状態で
抱き込んだまま、吸盤で引っ付いているかのように
簡単には離れそうになかった。
また映像が入らないよう青い双眸もしっかりとつぶっていた。
「耳栓ってどこかにありません?
ひぃっ何の音です!?」
「……ゲームなんだからそう怖がらなくても、
それより貴女は目を開けてなさい。」
「む、無理です!
頭ではちゃんと分かっているんですよ、ゲームって!
でも身体が……ひっ! 言うことを効かないんです!」
「お?
何か肘に柔らかいモノが……しかも暖かい。
肉まんか?」
「……む(おのれ星一朗、羨ましい)」
呑気な星一朗である。
恵玲奈が居れば突っ込みの一発でもお見舞いされていたことだろうが、
現在は上の階で竜二のお手伝い真っ直中。
泪は星一朗と悦郎の情けない姿を交互に見て、
深い溜息と一緒に”私何やっているのかしら”と呟いたのだった。
時間にして約15分、
なんのかんのと操作に混乱しながら悦郎は
チュートリアルステージを終えた。
悦郎はポケットに入れていたハンカチを取り出し、
額に浮かんでいた冷や汗を拭う。
そして泪に礼を言った後、自身の記録を確認した。
「うむ、予想通りだ。」
「納得顔で頷きながら何を言っているのかしら……。
一体何回反応したと思っているの?」
「とは言うが、まさかここまでのモノだったとは思わなかったのだ。
星一朗も似たような……
いや、オレよりもヒドい結果になるのではないだろうか。
ヤツはああ見えて相当なビビリだからな。」
「……はいはいそうね。
さて、次は星君ね。
本条さん、彼のアイマスクとヘッドホンを取ってあげて。」
「りょ、了解です!」
暗闇と永遠ループ設定の地獄から解放された星一朗は背伸びをし、
軽い柔軟運動を始めた。
「どうだった悦郎。
ふむ、その様子だと俺の結果次第というところか。」
「覚悟しておけ、こいつは相当だ。」
「へ、言うねぇ……。
そうだ、皆に一つ聞きたい事があったんだが、
誰か肉まんを俺の肘に当てたりしたか?」
一瞬顔を赤らめるセシル。
冷静に考えて、誰が肉まんを肘に押し当てるというのか。
「さ、さぁチェスター君、次はあなたの番ですよ!
ほらほらコントローラパッドを持って、
記録はあたしがバッチリ録りますから。
さくっと始めましょうよ!」
「お、おう……何か本条さんやる気だなぁ。
もしかしてこっち系のジャンル好きなの?」
「知りませんっ!」
********
【箱庭】のキッチンでは竜二と恵玲奈が
明日の仕込みについて話し合っていた。
と言うのも、今日の来店数を見る限り、
明日も似たような展開になりそうな状態だったからである。
少なくとも今日と同じでは来店客に申し訳が立たないと竜二は思っていた。
珍しくやる気を出し、
今日よりも多めの材料を用意するつもりである。
「やはり20%増しかな
……最近材料費も高くなってきているから二の足踏んでたんだけど、
今日の状態を考えるにそうも言っていられないか。」
竜二は残り材料を見つめながら業者へ注文する量を思案していた。
恵玲奈はキッチンで竜二に教わった
ドーナツのレシピを見ながら明日提供分を作っていた。
竜二の声に恵玲奈は作業を続けながら返答していた。
「ですねー、取り敢えず明日は私も引き続き手伝いますよ。
あとついでに兄にも手伝わせます。
泪はさすがに無理だと思うので、今日限りでしょうが。」
「え、それは嬉しいけど、星一朗君もかい?
彼が納得するかな……。」
「納得させます。
最近、サボり気味で色々弛んでるので、
たまにはちゃんと社会の風に当たってもらわないと。」
竜二は苦笑いを浮かべる。
まるで恵玲奈ちゃんは星一朗君の母親のそれだなと。
「ははは、まあ、そこは任せるよ。」
「接客については私がみっちりと教え込むので、
とにかく竜二さんはオーダーの対応に注力してくれれば
明日も何とか回せるかと。
……私が言うのもなんですけど、バイトを雇ったらどうですか?」
「バイトねぇ……今は確かに人手がいるけど、普段が普段だからねぇ。
この状態がずっと続くようなら改めて求人募集を考えるよ。」
竜二は必要な材料一覧を調べ終えると、
電話機を手に持ちいつも注文している業者へ架電しようとしていた。
「そう言えば、星一朗君達は何のゲームで勝負をしているんだい?」
「【零】ってホラーゲームで遊んでましたよ?」
「……珍しいこともあるもんだ、二人とも苦手なはずなのに。
まあ勝負なんだからその辺りも範疇なのかな。」
続く!
ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。
一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。




