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第二十一話 僕はホラーゲームがプレイ出来ない

 シューティングゲーム、古くからゲーマー達に

否ゲームを普段あまりしない人達にも、存在を認知されていた古参の一つ。

縦シューティングの【ゼビウス】【ツインビー】、

横シューティングの【グラディウス】【R-TYPE】、

そして画面固定のシューティングで、

伝説的な大ヒットを飛ばしたシューティング【スペースインベーダー】。

主戦場をゲームセンターとし、

アーケードゲームの重要な一角を担っている。

また、シューティングゲーマーの事を一部では

様々な思いやネタを込めて”シューター”と称していた。


「さぁ、星君も【光太郎】の真似して!」

「へいへい……コホン……すぅ。」


 画面上にはステージ3開始前イベントが映し出されている。

【玖珂光太郎】と【ニーギ・ゴージャスブルー】のイラストが表示され、

声優さんによる音声が流れていた。

なのに何故か音読を強要される星一朗。


「へへっいいね、調子に乗って来た!」

「ミョーに嬉しそうねぇ。」


 黒瀬宅一階、リビングルームの大型テレビ上では

そのシューターの女性が、

パートナープレイヤーの視線をよそに

まるで我が庭の如く軽快に暴れていた。

彼女は星一朗のイトコであり、ある意味で幼馴染みとも言える。

泪はぱっと見はキレイなお姉さんである。

だが、その実体は星一朗が呆れる程の

ゲームプレイスキルの高さを持つ存在である。

泪はプレイ中、余裕の笑みを浮かべふんふーんと鼻歌交じりで、

迫り来る有象無象の雑魚を蹴散らし、

目まぐるしい速度でスコアを伸ばしていく。

隣で頬が引きつったまま戻らない星一朗は、

渇いた笑いで相槌を打つので精一杯だった。


「やっぱフレームとか当り判定コリジョンとか、

 絶対見極め出来る人だろ。」

「なんのことかしら。」

「流石にプレイしたの初めてとか言わないよな。」

「んー、アーケードで何回かプレイしたことはあるわよ。」

「……全然説得力ないんだよ、お前のその言い種は。」

「そんなこと言われても。

 まあ、最近は人様より幾分ゲームが

 上手いかなーとは思っていたりはするけれども。」

「は。ははは……そうっすよね(もうやだこの女)」


 舞台となるゲームは【式神の城2】。

オーソドックスな縦スクロールのシューティングで、

様々な形状をした”式神”を使い、

並み居る敵を屠りながら進む爽快シューティングゲームである。

特徴的なシステムとしては、

敵の攻撃をギリギリの間で回避し撃破するとスコアが8倍まで上がる、

テンション・ボーナス・システムというものがある。

そのシューターは、当然の如く無数の弾幕を紙一重で華麗に回避し、

当り判定を完璧に見極めたかのような動きを見せている。

彼女の操る【ニーギ・ゴージャスブルー】の特徴は、

敵キャラクターの攻撃弾を吸収しチャージ・反撃する能力がある。

攻防一体が可能なキャラクターの一人で、トリッキーな攻撃方法の為、

初心者向けとは言い難いキャラクターでもある。

ちなみに星一朗が操るのは本作の主人公である【玖珂光太郎】、

クセがあまりなく初心者でもプレイし易いキャラクターではないだろうか。


「ステージ4に到着……俺一人だったら既に諦めていたな。」

「やっぱり協力プレイだと早いね。

 それにしても星君、やられすぎ!」

「だから格ゲーとシューティングについては、

 下手の横好きなんだってば。

 あの弾幕、どうやって躱せば良いんだよ、

 つかなんでお前は飄々と簡単に回避出来るんだよ……。」

「弾幕ってほどでもないじゃない、

 このゲームはまだ優しい方だと思うけど。」

「……やっぱ変態じゃないか!

 あれが弾幕じゃないなんてさ!」

「星君ヒドいっ!

 主に私とついでで世界中のシューターに謝って!」

「ついでかよシューターの皆様は!

 ごめんなさい。」


 やや面倒なやり取りを終え、星一朗は壁掛け時計に見やる。

午後5時を廻ったところで、

そろそろ夕食の材料買い出しに出発しなくてはならない時間になっていた。

外もすっかり暗くなり始めている。

遠くのスーパーマーケットへ行くのは

余計な気苦労をしそうだと星一朗は思っていた。

ふと星一朗は今朝見たお天気ニュースを思い出し、

急ぎリビングの窓を開け薄暗くなっている空を見上げた。

雨は降っていないようだが、

今にも泣き出そうな雲行きと空気の湿り具合だった。

下手をすればもう数分で降り出してきても可笑しくない状況だと言える。


「気圧が下がっているな。」

「ほんとに?」

「泪、そろそろ買い出し行こうか。

 ちっとお空の具合が気になる、傘を持っていこう。」

「そういや午後から雨かも、なんてニュースで言っていたわね。

 だから少し早めにこっち来たんだけど、まだ降っていないのね。」


 泪もいつの間にか星一朗の隣に立って、

窓から手を伸ばし雨が降っていないか確かめていた。

思わず泪から漂ってくる女性らしい甘い香りに、

妙な緊張感を走らせる星一朗。

香りに釣られて視線を泪側に移せば、その距離僅かに数センチだった。

半分触れているような距離感に戸惑いを隠せず、

思考回路はやや停止気味になっていた。


 星一朗が彼女を苦手としている理由はこれである。

星一朗が身構えるあるいは心の準備が整うより遙か前に、

捻り込むようにぐいぐいパーソナルスペースへ

侵入してくる泪のコミュニケーション能力が苦手だった。

積極的と考えれば、奥手で女性免疫の弱い星一朗にとっては

相性が良いのかもしれないが。


「……あ、ああ、まだぱらりとも来ていない。」

「気象ニュースをアテにはしないけど、信じてはいるのよね私って。」

「午後って言ってもまだ午後の範囲だから、あながち間違ってはいないさ。

 それはそうと気象ニュースはアテにしてやれよ。」

「で、どこまで行くのかしら。」

「歩いて10分のところに大手外資系スーパーがある。

 特に野菜類の品揃えは抜群だし輸入品も多い、

 この辺りじゃ一番安いと評判の店だよ。」

「じゃあ早速参りましょう。

 ゲームは私が片付けておくから、

 星君はその格好を何とかしてきてね。」


 星一朗は起き抜けの格好のままだった。

つまりパーカーとジャージを着ているだけで、

だらけきった完全部屋着状態である。

自宅にいるのだからある意味では、全く間違ってはいないのだが、

仮にも客人を招き入れ歓迎する立場のホストの格好ではないのは間違いない。


「あー……ジャージとパーカーじゃダメっすか。

 どうせ近所だし、面倒だし。」

「人様の格好に文句言う趣味はないけれど、

 隣を歩く人の格好の場合は意見くらいはしたいかな。」

「へいへい、恵玲奈みたいなこと言ってくれるぜ全く。

 ちょっと部屋で着替えてくるから、後は頼むわ。」

「片付けたら玄関で待ってるね。」

「玄関は寒いだろうが、ここにいろって。

 イトコなんだ、変に気を遣うんじゃねぇよ。」

「ん、ありがと。」


********


 秋口の午後5時は思った以上に冷え込む。

星一朗と泪はトコトコと、

スーパーマーケットまでの道程を歩いていた。

昼下がりの秋風は心地よいものだが、

陽が落ち気温が下がった今となっては

長時間あたるのは体調を崩す原因となってしまうだろう。

流石にオーバージャケットやコートといった

防寒具の登場とはまではいかないが、

長袖のシャツだけでは心許ない状況だった。

星一朗は両肘を摩りながら、隣を歩く泪に話しかけた。


「寒くねぇの? 上はともかく下は……さ。」


 星一朗は彼女の身に付けているフリルのミニスカートが、

どうにも寒そうに見えて仕方なかった。

男性視点で考えれば見た目的に素晴らしいチョイスだと言えようが、

体温を保護する衣類という視点で考えれば疑問符を飛ばさざるを得ない。

トップスは厚手の生地のデニムなので、

恐らく風を通さないはずだから良いとしてもと星一朗は思った。

かくいう彼自身の格好も、

泪の格好にあれこれ言えた義理はないものであった。

薄手の長袖のチェック柄のシャツに、

キャラクターコラボのTシャツ1枚。

季節的には間違っていないのだろうが、

気温的にはもう1枚羽織ってくるのがベターだったと思われる。


「寒いわよ~?

 昼間はもっと暖かかったんだから、

 この格好でも変じゃなかったのよ。」

「おまけに雨も降りそうだしっと、スーパーが見えてきたぜ。」


 そう言うと星一朗は右手の人差し指を伸ばし道路の先を指す。

そこには外資系特有のシンプルなデザインの看板と、

数百台は停める事が出来そうな駐車場があった。

泪の記憶ではここは以前マンションだったか、

アパートだったかがいくつか建っており、

ブランコと砂場が一つあるだけの小さな公園もあったはずである。


「最近出来たのかしら?

 前は無かったと記憶しているのだけれど。」

「今年の春辺りにな。」

「じゃあ、ずっと行ってた商店街へは行かなくなったとか?」

「前よりは頻度は減っただろうな。」


 歩きながら泪を見ずに星一朗は答えた。

泪の言いたいことは分っているからだ。


「そっか。

 しょうが無いとは思うけれど、ちょっと複雑。」

「ここら辺も新造のマンションが増えて人口も明らかに増えてるしな。

 外資系の大型スーパーが出来たのは自然の流れさ。

 小中学校は近いし、大型量販店はあるし、

 役所や病院なんかも近場に集まってるしな。

 人が増える要素はバッチリあったわけだ。」

「そうだよね……」


********


 スーパーは大勢の買い物客で賑わっていた。

時間帯からいっても想定内だったはいえ、

星一朗の予想を遥かに超えた人の波に、

彼が何かキャンペーンや特売のチラシでも

入っていたのかと疑ったのは言うまでもないだろう。

店内を見てもそういった催しはなく、

単にいつも以上に人が多かっただけのようである。

二人はげんなりとしたまま店内へ入り、

カゴを手に持つと一直線に野菜コーナーへ向かった。

途中、レジの隣を通過した際、

支払を待つ客の列に思わず星一朗は不満を漏したのだった。


「何かのイベント会場かここはっ!」

「うわぁ……これレジ通るのも一苦労するんじゃないかしら。」

「おおおおお、圧倒的主婦率っと思いきや、

 会社帰りのリーマンさんや学生さんらしき姿もちらほらとっ!」

「か、感動するところなの?」

「いんや、

 人混みのウザさを端的に表現したまでで、俺の感情はそこにはない。」

「なんて捻くれたコメントなのかしら。」


 そう言いながら泪は材料となる野菜を次々カゴへ放り込んでいく。

ニンジン、シイタケ、ほうれん草に大根などを人数分より少し多めに。

野菜の次は麺だが、いつの間にか星一朗がうどん玉を手に持っていた。

麺の人によって好みが分かれる代物だが、

妹・恵玲奈からそういった指示は一切出ていない、

つまりお任せと言うことは星一朗の好きにして言いと言うことなのである。

さて問題は……。


「出汁はどうするよ、出来合いの温めればオッケーのにすっか?」

「んー、どうせなら出汁から作らない?」

「マジか……ベースはかつお節、白だしとか、その辺りか?

 ごめん、サッパリなので任せるわ。」


 そう言うと星一朗はカゴを泪に手渡すとどこかへ行こうとした。

ぐいっと泪は星一朗の上着を掴み引っ張る。


「ちょっと、私を置いてどこへ行くのかしら。」

「どこって言われても、

 ちょいと向こうの豆腐売り場に。

 鍋焼きうどんだけじゃ寂しいかなと思ってさ、

 湯豆腐も追加しないかね?」

「あ、それいいかも。

 うどんの中には入れず豆腐は別口にするのね。」

「そゆこと。

 湯豆腐に合う薬味とか纏めて見繕ってくるわ、

 出汁は麺汁でいいだろう。」

「はーい、じゃあいってらっしゃーい。

 私は出汁の材料見つけてくるから。」


 星一朗は後ろを向き右手をひょいと挙げたのだった。

タイミング良くシャツの胸ポケットに入れていたスマートフォンが震動する。

メール着信だと理解した星一朗は、

人通りの邪魔にならないよう動線から外れてからスマートフォンを確認する。

メール送信者は恵玲奈だった。

もしかして材料を買いに行く時間を読まれたのか、と

星一朗は妹のメールの中身を怪しんでいた。

今更何を言われようと献立の変更はしないつもりである。


「何の連絡だ、追加注文は受付けねぇよ。」


――献立は決まった? 午後8時過ぎには帰れそう!

  お母さんも同じくらいだってさっき連絡があったよ ――


「鍋焼きうどんと湯豆腐のコンボだっと

 ……午後8時過ぎって随分遅くまで何やってんだ。

 ってもう返信来たぞ、はえぇ……。」


――ホンとっ!?

  丁度暖かいもの食べたかったんだよね、さっすがお兄ちゃん! ――


「ふ、俺の読み通りか。

 まあ、今日の天気と気温じゃ暖かいものを食べたくなるさ。」

「そうだよね。

 今日はあたしも暖かいものにしようかな~。」

「いいんじゃないかな、鍋とかも悪くないねぇ。」


 星一朗の独り言に誰かが反応する。

聞き慣れた声、思わず声の主を確認する。


「うぉっ!?」

「うわっ!」


 驚きの声を挙げ、声の主は反動で一歩後ろに下がった。

肩よりも少し長めの黒髪が印象的で端正な顔立ちと青い瞳が映える。

ほんの少しだがフローラルの香水の香りが星一朗の鼻を刺激した。

声の主の正体を星一朗は知っている。

昨日の夕方から今朝にかけてずっと一緒にいた人物のものだった。

決して低いわけではないが、落ち着いた声質は聞く者を安心させ、

彼女の性格の一端を表していた。

だが、年相応に驚いたときの声は、

少しだけトーンが上がり若い女性らしい顔を見せる。

星一朗の視線に気づいたのか、声の主は満面の笑顔を星一朗に向ける。


「ほ、本条さん!

 なにゆえこんな場末のスーパーにっ!?」

「場末って……ここ、この辺りじゃ一番有名で大きいところですよ。」


 セシルの手にもカゴがあり、いくつかの日用雑貨品が入っていた。

見ての通り日用品を買いに来たのであろうセシルは、

普段よりもさらに落ち着いた装いだった。

髪は首の後ろで一つ纏めて結っていた。

衣服は偶然にも星一朗と似たような空色と白のチェック柄の長袖シャツに、

七分丈のジーンズとローヒールのパンプスを身に付けていた。


「あ、ああ、そうだよね。

 はっはっはっ! 夕飯の買いだし?」

「ええ、うちからも近いんで良く利用しているんですよ。

 今日は少し肌寒いから暖かいものにしようかなって。

 チェスター君の家は?」


 動揺を隠せない星一朗。何だろうこの圧迫感。

決してセシルのせいではない、

後ろめたい状況になっている星一朗自身が感じているものである。

そう、全ては星一朗の脳裏でチラつく泪の存在のせいである。

だが泪と違って、セシルと話している時のこの癒やされ感。


「へ?

 うちは鍋焼きうどん、今日は足りない材料を買いにね。」

「ふふふ、お母様のお使いですか?」

「いや、今日はお袋も恵玲奈もまだ帰ってなくてさ。

 俺が頑張って作る羽目に。」

「え!?

 チェスター君、お料理出来るんですか!?

 初耳です!」

「何か前にも似たようなやり取りしなかったっけ?」


 既視感。その時、星一朗は背後に強烈な圧迫感を感じとった。

擬音で表現すれば、ズゴゴゴゴゴというところだろうか。

暑くもないのに額に汗が少々浮かぶ。

突然、星一朗は力強く肩を掴まれたのだった。


「はーい、星君!」

「……(げぇ、怖い、振り向きたくない!)」


 肩を掴む手に力が漲る。

星一朗は観念してゆっくりと振り向く決意を固めた。


「こーんなところで女の子と楽しくお喋りなんて、

 随分楽しそうじゃないかしら♪」

「る、泪じゃないか。」

「??? どなたです?

 チェスター君の知り合いですか?」

「ちぇすたーくん?

 この人の名前は”星一朗”ですよ、誰かと勘違いしていません?」

「あ、えぇと、その……。」


 泪は少し高圧的な言い方でセシルの言葉に反論する。

星一朗はこの場から逃げだしたくなった。

だから泪を連れてスーパーとかに来たくなかったのである。

彼女の性格から、泪の知らない誰かと遭遇した際の対応について、

星一朗にはある程度予想が出来ていた。

この辺りも苦手になった要因の一つである。

寄りにもよって出会ったのがセシルとは。

思わず頭を抱えて座り込んでしまった星一朗であった。


「あ、いや、コイツは俺のイトコなんだ。」

「い、イトコさんですか。

 あ、あたしは大学の友人で”本条セシル”と言います。

 あの、よろしくお願いしますね、えーとお名前は……。」

「……自己紹介ありがとう。

 ”真野泪”、星君のイトコよ、よろしくお願いするわね。」


 空気が重い。星一朗は心の中で叫んでいた。

おかしい、俺は夕飯の材料を買いにスーパーにイトコと来て、

偶然友人と出会って話していただけなのにこの空気はなんだ、と。


続く!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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