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魔性の焔  作者: あけぷぅ
8/14

魔性の焔 8

 カイは男達数人と腕慣らしに身体を動かした。

「まぁ、松明やら石やら集めて置いたほうが無難だろうなぁ」

「槍や剣は駄目ですかい」

「バレちまうだろ」

 一人がそうか、と少し焦った顔をした。

「動きたい時に動けるように、身体は壊さない程度に動かした方がいい。一日に数回に分けて短い間で型の見直し程度でもいい。長い時間かけるより疲れない」


 日が頭上に昇ったころ、娘の一人が出来上がった衣を持ってきた。

「おお。悪いな。じゃぁ俺はここから離れる」

行ってしまうんですかと数人が慌てた顔をする。

「直ぐ近くの社で身を潜めてるよ。そうだな、事の二日前にでも知らせに来てくれればいい」

「何をおっしゃるんです。食べるもんも無いでしょうに!」

「あるよ。ある。鳥でも兎でも食ってるよ」

「そ、そうは言いますが」

「俺の事はその日まで忘れろ。俺は元々お前らの村の人間じゃない。いいか、分かるな?」

 睨みを利かせて男達を見た。すると男達も気を引き締めたのか、目付きが初めて会った頃よりは頼もしく映る。

「じゃぁな。無理して身体壊すなよ」

 カイは村を離れる。ふと、視線を感じたが確認せずに、社とは反対の方角へ歩いていく。途中、林の中に足を踏み入れ、しばらくは道沿いに沿って歩いた。背後から人の気配は無い。一本丈夫そうな木に登り、太い枝に腰掛ける。ただ静寂だけが広がって、久しぶりに気の緩んだ息を吐き出した。


 夕刻になり、カイは社の近くに身を移した。サエの隠れ家の様子も確認し、隠していた剣の重さをもう一度確認する。この隠れ家は中々いい位置にある。社とも程よく距離があり、少し身体を動かしても社に人が居ても、気づかれにくいだろう。

 隠れ家から社の距離や死角、日が暮れてから周囲の暗さや、月明かりの入り具合をを何度も確認しては、人が主に足を踏み入れそうな位置に、何度も立ったりと、目に入る全てを忘れないように意識を集中させる。

 夜なら息を潜めていれば、山狩りでもない限り身を隠すことが出来る。後は早朝、明るい時間帯にもう一度同じ確認をした後、五日ほどかけて獣道を探せばいい。


 木の上に登り腰掛けてから、大剣をもう一度持ってみる。暗い中ではその剣の良さは確認できないが、重さを慣らすには十分だった。自分にはしがらみがない所為か、命への執着が薄いようにも思う。そうでなければ、暴れたいという理由だけで化物退治など買って出ない。どんな化物だろうかと思うだけで、腹の奥が小さく疼くような感覚が湧き上がる。

 知らず知らず、カイの口元が歪んでいく。自分の村から離れてから、それほど強い得物には出会わなかった。化物と言われるほどだ、自分よりも強いだろうと思うと、今からでも大剣を振り回して暴れたくなった。

(俺は、負けるか?死ぬか?)

死んでも、負けても、どちらでもいい。腹に溜まり、頭にかかった鬱が晴れるなら。思う存分暴れてやろう。


 下のほうで物音がする。獣かと思って目を凝らせば、どうやら人影のようだ。

「おー……さすがキノギ様」

 カイと同じくらいの歳の男だろうか、声が微かに聞こえる。

「しかし、どうします?村に戻るのも」

「準備が要る。邪魔をするな」

 もう一人の声は鋭いが物静かな声だが、女が声を故意に低くして話しているようにも聞き取れた。

「今からですか?無理なさってはいけませんよ」 

 一瞬だけ静かになるが、また男が話し出す。

「それにこれだけ暗いのです、手違いを起こせば失敗しますよ」

 また静かになる。

「俺は仕事よりキノギ様のが大切ですからね、邪魔をするなと言われたら邪魔をしますよ」

 変な二人組みだ。とカイは静かに呆れる。

「聞いていますか?キノギ様。もう夜です、夜。暗いです。明日にしましょう。明日の朝なら明るいですし。仕事も滞りなく進めます。キノギさまー」

「喧しい」

静かになった。

「ヤト。あの村の方角、空気が変わった。たった半日でああも浄化されたのだ。仕事の方はまず、問題ない」

「では何に問題が」

「亡者共が喧しい。今宵、静かに眠るためには準備を要する。かと言って村に戻れば、我々は否応無く、事の騒動に引きずり込まれるぞ」

「……まぁ。キノギ様、処女ですからね」

 直ぐに男のくぐもった呻き声が聞こえる。腹を殴られたのだろうか。

「まれびともここに居る事だ。亡者共はそちらにまとわり着くから問題ないが、喧しいのは問題なのだ」

「か、かしこまりました……。なんとも哀れなまれびとですが。我々の安息のために犠牲になって貰いましょう」

「……あと九日ほどだったか?」

「風の噂では」

二人の会話を聞いていると、所々不穏な色を見せている。あの村、風の噂とは、少なからずカイと同じ、他所者なのだろう。二人は社のほうに歩いていった。しばらくすると、小さな明かりが社近くで揺らめき出す。

 カイは木の幹に寄り掛かり、剣に衣を巻いて抱える。なぜだろうか、急に眠気が襲い目を閉じればすぐ眠りの淵に落ちていった。

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