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魔性の焔  作者: あけぷぅ
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魔性の焔 5

 肩に落ちてきた紙鳥に気付き、ヤトはうんざりとした顔を落とした。横に並んでいたキノギは視線を寄越しただけで、直ぐに前を向いてしまう。

 紙鳥を摘まんで知らせを受け取ると、紙鳥はヤトの手の中で燃え尽きた。燃え滓一つ残らない。

「何用で」

 憂鬱を知ってか知らずか。静かで、涼しげなキノギの声が聞いてくる。

「相も変わらず、ご催促で御座いますよ。巫女様」

 ヤトの言い方が悪かったのか、キノギの空気が冷たくなる。しかし、キノギの機嫌が悪くなるのも無理はない。ヤト達が歩くこの近辺の村々では、人攫いも然る事ながら、鬼が棲む異郷が在るとか無いとか。その噂は噂でしかないが、キノギは森に足を踏み入れた途端、持っていた錫杖で数度地面を叩いた。彼女は何も言わなかったが、ヤトはなんとなく理解した。


 この山は穢れている。


ヤトとキノギは表向き、秩序平定の見回りに似たようなもの。国公認の祓い師に近いだろう。鬼が本当に棲んでいるのなら武兵を呼ぶし、天狗が飛んだら高僧を呼ぶ。だが、土地が穢れているなら、清めるのは神官や巫女の役目だった。

 都から遠く離れたこの付近で、わざわざ上位の巫女を呼びつけ行脚のように歩いて周り清めるよう催促が来るのだから、何か理由があるのだろう。しかも煩くひっきりなしに、催促が来る。


「あ、随分大きな村がありますね。今日はあそこで休ませてもらいましょう。……機嫌直してください。キノギ様」

 返事は無言である。


しかし弱ったことに、村へ入って直ぐキノギは足を止めた。

「……キノギ様?」

「なんでもない」

 錫杖は動かさなかった。キノギが足を止めたことで、ヤトが彼女の前に来ることになった。振り向けば、涼しい顔を拝めることが出来る。良くも悪くも、端麗な顔立ちは護衛の身分であっても見惚れてしまう。

「あ、顔隠しますか?」

 持っていた御面を差し出そうとすると

「……少し見て回る」

 そもそもキノギはヤトに目を向けず、なにやら周囲を気にいていた。

「それは、弱りました……。一応、村の人に許可を貰わねば」

 そんな静止も聞かず、キノギはふらふらと歩いていってしまう。

「あああああ」

 慌てて追いかける羽目になる。世間を知らない訳ではないが、頓着しないのが彼女だった。好きで彼女の護衛をしているが、報われていないのが仄かに切ない。


 木陰に覆われる小さい機織場の前にいた男が二人を見咎めると、キノギも足を止めた。キノギは無表情なところが勿体無いと思うが、男は美丈夫だが目付きが鋭いところが勿体無いとヤトは正直思う。

「あああ、申し訳御座いません。我々、見ての通り修行で旅をして回る者で御座います。勝手に立ち寄り心苦しく思うのですが……」

「見終わった。次へ行く」

 キノギが男を見ていたのは確かだが、興味で男を見ていた訳ではないようで、ヤトが言い終わる前に背を向けて一人でに歩き出してしまう。

「ちょっ……キノギさまー」

 男に頭を下げると、ヤトは直ぐに後追う。背中で呼び止められた気がするが、キノギの読めない行動のが気がかりだ。ヤトが追いつくと、キノギは彼を見て手を出した。ヤトは何も言わず、目の所だけを掘った御面を渡した。綺麗な顔がすぐ隠れ、少々不気味な御面に換わるのを見て、ヤトは何度も飽きずに肩を落とす。

「どうか、なさったんですか」

「あそこは混沌としている。他の村は穢れのみが蔓延していたが、ここだけ」

 キノギが言葉を止めた。村から出るとそのまま、何も言わず小さい獣道を歩いていく。林が開けると、小さめの社がぽつんと立っている。だが、社の周りが変に広く整われている。

「哀れでしかないな」

「意味わかりませぬ」

無言。

「あの村は、酷いという事ですか?」

「神域の加護を受けていたが、己で穢している」

「あー。いつか崩壊しますね」

しかし、キノギはふっと笑う。これはこれで珍しい。

「まれびとがいたよ」

「おや」

まれびととは、大抵は旅人や旅芸人、琵琶法師、修行僧などを指すが。彼女がいうのは、その中でも、星の巡りやら輪廻の縁で定められた運命により、その場に引き寄せられた者を指す。旅をしていれば運命に呼ばれて、出会いやら別れやらがつき物だが。

「あの村に呼ばれて、と?」

「そうだろう。あるいは、引っ張り易かったのかもしれないな」

 キノギは社の中を確認したいのか、扉を開けようとする。ヤトは慌ててキノギに代わり、社の戸を開けた。御神体が壁際に小さく佇んでいる。

「私たちも引っ張られた口だろう」

 最後に不吉なことを無表情で告げる。

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