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魔性の焔  作者: あけぷぅ
10/14

魔性の焔 10

 手ごろな木の太い枝を見繕い、カイはキノギと呼ばれた容姿端麗な少女が言うように、ヤトと呼ばれた青年と腕試しをはじめた。始めは持っていた剣を使おうと思ったが、ヤトが持っていた剣は随分細く、長い形をしていた。それはそれで珍しい形だが、カイが持っていた剣とは相性の悪さが一目瞭然だった。

 ヤトに頼み細身の剣を手にとって見たが、斬りと突きに適した反りは、カイが見てきたどの剣よりも綿密に作られている物だろうとわかる。カイが頂戴した大剣よりも精巧な剣だ。だが、カイには扱いづらい。だからこそ珍しいものを見た喜びが大きかった。

「眼福眼福」

「それはなによりです」

「特注か?」

「ええ。少し効率のいい形に作っています」

「確かに」

 ヤトもカイの大剣を手に持って見ていたが、やはりさほど興味は惹かなかったかったのだろう、直ぐにカイに返した。

「カイさんの剣は大きいだけですね。金がかかった趣向品にしか見えません」

それには苦笑いする。

「この前、拝借したばかりだ。金がかかってんなら、金になる」

「そうとは限らないでしょう……」

「いや、融かせばいい。混ざり物でなければ路銀くらいにはなるだろう」

「その程度でいいんですか」

 それならまぁ、とヤトは呟く。


 その後にカイとヤトは腕試しにしばらく木の枝で打ち合っていたが、キノギの周りに白い何かがバラバラと落ちてきた様子に気付き、互いに動きを止める。

「なんだ?」

「キノギ様に直接となると」

キノギは何も言わず、落ちてきた物を手で払い、のっぺらな御面を被る。カイは少しだけ身を引く。綺麗な顔が隠れるよりも、なんの飾り気もない御面の不気味さに眉をしかめる。

「目をくり貫いただけか……不気味な」

「変に装飾するとそれはそれで目立つので嫌だそうです」

「これはこれで……」

 視線を微かに逸らす。

「目を背けたくなるだろう?私は気に入ってる」

 心なしかキノギは嬉しそうな色を声に滲ませる。

「それで、キノギ様どうなされました」

「港へ行く。裏が取れたそうだ」

「やっとですか」

 カイは分からず、頭をかく。

「カイさんも行きますか?歩いて1日ほどですが。貴方に合った剣もあるかも知れませんよ」

 それは魅力的な誘いだが、周囲を囲む木々をぐるりとみて、首を横に振った。

「この辺を見て回りたいんだ」

「遭難しますよ」

「山には慣れてる」

「自滅だな」

 キノギが辛辣に言うと、懐から鳥の形に切った紙を数枚出した。

「ここに戻って来たいときに、一枚使え。息を吹きかけるだけで案内してくれる」

 カイが怪訝にその紙を摘み上げる。

「こういうのは使ったことがないんだが」

「疎い者にでも使えるようになっている」

 一枚使ってみろと促され、軽く息を吹きかけると、ひとりでに舞い上がり、鳴きはしないがカイの周りを飛び始めた。

「へぇ。どういう仕組みだ?」

「息に含まれている微かな生気を吸い、短い間だけだが動くようになっている」

「……今一信じがたいな」

 キノギがふっと鼻を鳴らす。

「それでいい。ではな。ヤト行くぞ」

 片づけをしていたヤトを尻目に、キノギはさっさと小道へ入っていく。

「傍若無人だな……」

「キノギ様じゃなかったら従いませんよ」

 爽やかに笑って、ヤトは後を追った。




 二人と別れ、カイは獣道を探し山の奥へ入る。獣道は直ぐに見つかったが、やはり途中で消えてしまっている。消えた辺りの様子を見て回ったが、生えている草木に変哲もない。少し枝きりをして、視界を広くするが特に変わったものを見つけることはなかった。


 鬼が通る道があるはずだと思ったが、鬼の棲家は森の奥ではないのだろうか。年に一度とはいえ、娘を取りに来るのだ。そこまで考え、カイはふと考える順序を間違えたことに気がついた。

 そもそも、娘はどこで鬼を待つ。家の中か、村の広間か。カイが見た夢は真昼の中、煤けた小屋の中だったり、一人分の広さしかない小さな部屋だったり、そんな断片の景色だった。だが、見えた景色はどれも昼間だった。けれど女たちの記憶の最後は、鬼共が乱痴気騒ぎで酒を撒き散らし、他に居た幾人かの女共を好きなだけ乱暴に扱い、己が気を失ったところまで。叫び声や騒音はまったくないが、女たちの見た鬼共の顔からは、嫌でも笑い声が聞こえてきそうな記憶だった。


 気が滅入ってきたので、カイは一度考えることを止める。視界に広がる鬱蒼と茂る草木は鬼の棲家ではないとは言え、多くのものを隠す。遠くで黒い影がゆっくり動くのを見て取り、カイは音を立てないように身を屈めた。

 少しずつ近づいてくるのか物音が、ゆっくりゆっくり耳に聞こえてくる。影の形が確認できると、カイは思考を止める。そのまま息を殺し近くの木の陰に隠れた。大きくはないが、先手を取られると厄介な生き物だった。

 音が止まっては動き、止まっては動き、近づいてくる。恐らくはカイの匂いに気付いて近づいてきているのだろう。呼吸をゆっくり整える。意を決して、木の陰から物音を立てないように離れ、影の位置を確認した。足元を確認しながら影に近づき、カイは大剣を構えた。

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