魔性の焔 1
この話は暴力表現が含まれます。文才が無いので過激かわかりませんがご注意ください。苦手な方はお勧めしません。ご都合主義です。苦手な方はご注意ください。
この男は何を言っているのだろう。サエは自分の顔から血の気が引いていくのが分った。狼狽える唇からは思考に反した言葉が出る。
「今、何とおっしゃったのですか」
聞かずとも、分っている。聞かずとも、この男が何を言ったか分っている。
「サエ、お前は私のところへ嫁ぐことと決まった」
なんと、愚かな。この村が、この村の娘の誰しもが絶望している中、私だけが生き残れと、この男は言っているのか。
「今年の贄は私だと、決まっているはずではありませんか!!」
「今年はトジの娘が行く」
「何を馬鹿なことを!!彼女は隣村に嫁ぐと決まっているではありませんか!!そうでなくとも、この村の娘は速く外へと出さねばいけないというのに!!なぜ!!」
「もう決まったことだ」
冷ややかに、けれどこの男の言葉に高慢さと優越を滲ませた色が浮かんでいた。
「納得できません」
「決まったことだ」
サエはこの男の利己に絶望を覚え、顔を覆う。そんなサエに男は欲望のまま腕を伸ばす。が、外から声がかかり腕が宙で止まる。
「何だ」
「トジが出て行きました」
「一々報告に来るな、捕らえろ」
男の横を、サエは足早に通り過ぎ、部屋を出ると全力で走り出した。
「さえ!!まて!!」
顔は悪くないが高慢で不遜で、好いてもいない男の言い成りに誰がなるものか。サエは怒りのまま森の社の奥へと駆け込んだ。ここなら誰も来ない、誰も知らない。贄送りの日までここで過ごし、途中でカノエと入れ替わればいいことだ。
唇から血が零れ落ちても気付かずに、怒りのまま噛み締める。自分以外の者が贄になるなんて、許しはしない。今のサエを見た者は恐らく誰もが口をそろえて言うだろう。
鬼女だと。
黄昏刻が来る前に、大きい木々に囲われた道はどこよりも早く薄暗くなっていく。カイは整備の行き届いていない道を馬に乗りながら、この馬をどう処分するかを考えていた。
村を捨てるときに一頭連れてきてしまった馬は、暫く足に使っていたが、どうやら馬があるだけで裕福と見られるのだろう。立ち寄る村々で、馬目当てに襲われたり、勘違いを起こして村に引き止めようとしたりと、おちおち休んでもいられない。
都から東へ、随分長いこと下ったが未だ地の果てまで着きやしない。今日は野宿がいいかと考えていると、複数の悲鳴が近くで上がり、馬の足を止めた。と直ぐに、初老の男と歳若い娘が飛び出してきた。カイは嫌な予感が走り顔をしかめる。
だが、彼らはカイに気付かず、追ってきた男達に押さえ込まれてしまった。カイはさらに顔を歪めるハメになる。男達は抵抗もできない二人を殴り、蹴り、それは執拗な行いだった。
「おい」
近くに人がいたのをようやく気がついたのか、一瞬だけ暴力が止まる。
「村の掟を破ったのか」
カイの質問に驚いて男達が戸惑う。
「それなら俺は口出しできねぇが、人のいない所でやれよ、胸糞悪りぃな」
群がっていた男達は、動かなくなる。正しくは本当に動けなかったのだろう。
「た、……大変失礼した。……この者たちは確かに、掟を破ったが」
くっと、カイは喉を鳴らす。
「随分、口の綺麗なことだ。お前らの村はでかいのか?」
「……ええ、この付近では一番に」
「じゃぁ丁度いい。この馬を買ってくれ。詫びるつもりがあるなら、言い値で買えよ」
二人に対しての暴力が止まり、逃げないようにと頑丈な縄で身体を縛られていく。
カイは馬を降り、男達の後ろから着いていく。罪人の横を通り過ぎるとき、ご愁傷様と呟けば、男も女もむせび泣いた。