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「…王太子妃様、ですか?」

シエラは読みかけの本に栞を挟んで机に置き、ハルミオンの方を向く。


いつもの様に食後に書庫で本を見ていた時だ。王太子妃がシエラに会いたがっていると、ハルミオンが告げたのだ。


「私が、お会いしてもいいのでしょうか」

「あぁ、本人たっての希望らしい」


ハルミオンの眉間にシワが刻まれているのを発見したシエラは内心戸惑いつつも答える。


「…わかりました」

「…すまない」

「どうして、公爵様が謝られるのですか」

「いや…」


ハルミオンが心なしか項垂れているようで、なんだ可愛く見えて、シエラの口元は思わず綻んだ。


「王太子妃様はどのようなお方ですか」


シエラの疑問にハルミオンは少々言葉を選びつつ答える。


「...…。既に母親ではあるが、未だに少女のような方だ」


「少女...」


首を傾げるシエラにハルミオンは苦笑した。


「…会えばわかる」











「王太子妃様に、ですか?」


いつものように自室まで送ってもらったシエラを出迎えたエリーは、シエラが王太子妃に会うことになったことを告げると、先程のシエラと同じような反応を返した。しかし、先程のシエラほどの驚きは感じられない。


「えぇ」


「そうですか。まあ、旦那様とも御友人みたいなものですしね」

「そうなの?」

「王太子妃様にとっては夫の従兄弟ですし、数少ない旦那様の親しい女性です。ええ、確か年齢も…」


ここでエリーは言葉を止める。

どうしたのとシエラが聞くよりも先に逆に尋ねられる。


「シエラ様。どうしました?」

「?」


ご就寝前の紅茶でも入れましょうかと、何故か気遣ってくれながらもエリーは笑っている。…にやにやしているというべきか。


「心配しなくても、そういうご関係ではないですよ」

「え?」

「王太子様とその王妃様は仲睦まじいことで有名ですし」


言われている意味が一瞬わからなかったシエラだが次の言葉で理解した。


「そ、そんなんじゃ、」

「いいですいいですって」


シエラは弁解するがエリーに笑っていなされる。軽く膨れるシエラを可愛く思ってしまうエリーだった。


「それより、王太子妃様にお会いするのでしたら、準備をしなければなりませんね」


「そうね…あ、美味しい…」


話しながらも流石と言うべきか、シエラは、エリーによって既に入れられていた紅茶を飲んだ。


「甘くて美味しいわ。この香りは、フルーツかしら」

「お口にあって良かったです。はい…確か、柑橘系のフルーツがいくつか入っています」

「そう…」


「旦那様に頼んで新しいドレスでも新調してもらいますか?宝石等ももう少しあってもいい気が…」


「それはダメっ!」


花園から嫁いできた為、少しの衣装しかないシエラへのエリーの提案はシエラによって遮られた。今までにないシエラの剣幕に戸惑う。

が、シエラはすぐに我に返る。


「ご、ごめんなさい…」


しゅんと項垂れているシエラは、いつものシエラだ。


「いえ。…どうなさったのですか?」


優しいエリーの言葉に涙がこぼれそうになって、下を向く。


「エリーは、私を、公爵様が買った時の、…条件を覚えてるかしら」


エリーの息を呑む音が聞こえる。

そう、シエラは飽くまで買われてきた身。


「…ですが、旦那様はドレスぐらい…」

「でも! …でも、きっと…軽蔑なさるわ」


『 おとなしく、控えめで賢い 』これが最初に提示された条件。だが、その後に、馬車の中でハルミオンは、愛を期待しなければ大抵のものは与えると、そう言っていた。

だからもしかしたら、ドレスくらいは望んでも良いのかもしれない。


けれど…、馬車の中でシエラに告げた時の、まるで自分が傷ついたような顔や、書庫を見たいという願いを切り出した時の一瞬で冷えた空気が、…忘れられなかった。



「そうですね。今回は、今あるものでも大丈夫でしょう」

シエラは顔を上げる。あげた先にあったエリーの顔があまりにも優しくて…シエラの顔が歪む。


「ほら、泣かないでください。明日の朝腫れてしまいます」

「ごめん…な、さい…」


どちらが年上かわからない…。

けど、花園の中じゃ触れたことのなかったエリーの優しさが嬉しくて、ハルミオンに嫌われるのが怖くて、涙が溢れてくる。


結局、エリーは促されたシエラが寝台に入って眠りにつくまで、側にいてくれた。



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