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6

「……」

「……」


シエラの目の前にいる黙々と料理を食べる男を盗み見る。


正直、少々気まずい。

シエラ自身、あまり良く話す方でもないが彼はその上を行くだろう。


何しろ、先程交わした帰宅の挨拶の他は、食事の前の頂きますしか発していない。一緒に食べることになったのも、ハルミオンが食堂の方へ向かうので慌ててついて行くと、食べろと言うように視線を向けてきたので、共に食事をしている次第である。




沈黙のなか食事を終え、食後の飲み物を飲んでいたとき。シエラは思い切ってここ数日考えていることを頼んでみる事にした。




「あ、…あの!」

「…」


なんだ、とでも言うように彼の視線がシエラに注がれる。


「お願いが、あるのですが」

「…」


そう告げた途端彼の視線が鋭くなったように感じるのは気のせいではないようだ。周囲の気温が数度下がった気がする。


「…お願い?」

「…っ、は、はい」


先程までは優しくはないが、それでも穏やかだったはずだった。なのに…。



けれど、ここで挫けるわけには行かない。


「言ってみろ」


…どうせまた明日からこの屋敷で一人なのだ。


「その……」


それに、恐怖よりも好奇心が勝ってしまった。軽く息を吸い込む。


「このお屋敷の書庫を使わせていただけませんか??」



ハルミオンは数回瞬きをした。すっと、鋭かった目元が元に戻る。

「…書庫?」


小さなつぶやきはシエラに届いたようで。


「は、はい。とても大きな書庫があるとエリーから聞いたのです」

「…本が、好きなのか?」

「はい。」

「…うちの書庫にはご婦人が読むような小説はなかったはずだが。」


母親は本など読む様な人ではなかったから、書庫にある本は、父親のものとハルミオンの物くらいだ。女性が好む恋愛物は置いていない。


「そんなことありません。リルテール国軍記物語が全集揃っていると聞きました。他にも建国記や、伯爵探偵シリーズなどもあるんですよね。それに…、」


……どれもよほどの本好きでないと読まない様な、分厚い本だ。内容も18の少女には難しめだろう。条件の一つ、『賢い』は、間違っていない様だ。


だが、『大人しく控えめ』は、多少当てはまらないようだ。年頃の少女にしては落ち着いていると思っていたのだが違ったようだ。口調こそ普段とあまり変わらないものの、本について語っている彼女の瞳は輝いている。シエラには失礼かもしれないがまるで小動物の様に。


条件に当てはまらないのに、それを不快に思っていない自分に、ハルミオンは内心驚いていた。


彼女に『お願い』をされた時、彼女も他の女と変わらないのかと失望を覚えた。金か、宝石か、と。

今は、そうでは無かった事にひどく安堵している。


自分でも気づかないうちに笑みを浮かべたハルミオンは、彼女を書庫へ案内しようと口を開いた。

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