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またまた久々。もう少し更新したいです(^^;
それから暫くして、何やら屋敷内が騒がしくなった。ちょっと見てきますねと告げたエリーが部屋を出ていくと、とたんに室内が静かに感じる。
ここでの生活は平穏そのものだ。花園出身ということで受け入れてもらうのは難しいかもしれない、そう諦めていたのに反して、屋敷の人達はシエラに対してすごく優しかった。ハルミオン唯一人を除いて…。
「大変です!シエラ様!!」
一人で数人分の仕事をし、使用人の鏡とも言えるエリーが音を立てて扉を開けるほどのことだ。何が起こったのだろうか。
「エリー!どうしたの?」
「それが、…ですね…っ」
エリーは急いで息を整える。
「旦那様が、旦那様がお帰りになられます!」
「!!」
「ほ、本当に?」
「ええ、本当です」
訝しがるシエラとは対照的にとても嬉しそうなエリー。
「さ!支度をしましょうか!」
久しぶりの主人の帰宅に、屋敷内は忙しないながらも活気に満ちてくる。
ハルミオンが屋敷に帰ると、今日は帰ると先に伝えておいた為か、満面の笑みを浮かべた執事が門の前で待っていた。ハルミオンの父親に近い年齢の彼だが、そうは見えないほど若々しい。
「おかえりなさいませ」
「あ、あぁ」
…気のせいか。今一瞬どす黒いオーラーが見えた。ハルミオンはぎょっとして彼の顔に視線向ける。
「お久しぶりでございます。大変可愛らしい奥様をお持ちになられたのに、毎日お忙しいですねぇ」
…直訳すると『もっと早く帰ってこんかごラぁ。奥様を放っておくんじゃねぇよ。さぞお仕事が大変なんだろうなぁ?あぁ?』
と言ったところか。いつもに増して笑顔が怖い。
彼女はどうやらこの大変有能だが厄介な執事に認められたらしい。
---1時間程前。
「ねー、ハル」
「…」
「ちょ、無視?ひどいなあ」
「…」
「ねぇハ「うるさい」
ハルミオンの仕事中に部屋に来ては、レイモンドか騒ぐのはいつものことだ。いつものことだか、うるさいものはうるさい。
「自分の仕事は済んだのか」
もはや定位置となった椅子に座っているレイモンドを半眼で見るハルミオン。
「もちろん済んでるよー」
…これがまだ済んでいなければ、レイモンドを追い出すことが出来たのだが。有能な王子の名も伊達ではないということか、毎回自分の仕事はきっちり済ませてくるのだから始末が悪い。
それに、レイモンドが押しかけてくるときはだいたい何か企んでいる。
「で、何の用だ」
「最近ハル、仕事ばっかりでお疲れだろうと思ってさ、手伝ってあげようと思って」
笑みを浮かべるレイモンドに騙されるハルミオンではない。
「何が言いたい」
向こうもそれは分かっているのだろう、笑みを崩さず答える。
「そろそろ家に帰んなよってこと」
ハルミオンの動きが一瞬止まる。
「せっかく結婚したのに意味ないじゃん」
「断る」
「えー、どーしてさ」
「どうしてもなにも、仕事がある」
「だから、かわりにやっとくって」
「いい」
「おーい」
拉致のあかない言い合いが続くかと思われたが、第三者の介入により打ち切られた。
「…アラン。ノックくらいしろ」
「おー、アラン!いいところに」
二人の視線を受けたアレンとやらは、目を瞬かせる。
「兄貴?どうしてここに」
「アラン、確か騎士団でハルの噂が流れてるって言ってたよね?」
彼の名は、アラン・リルテール。
レイモンドの弟であり、この国の第二王子だ。ちなみに、国立騎士団第一部隊の隊長もしている。
ぴらりと手にしていた紙をハルミオンに見せ、判を貰っているアランにレイモンドは尋ねる。
「あー、あれか」
「噂?」
「そう、噂」
アランはレイモンドの隣に腰をかける。
「ローウェル公爵様が新婚なのにほとんど屋敷に帰ってないらしいって」
「…」
「いいのー?ハル。不仲説とか流れたら、また色々寄ってくると思うけどねぇ?」
レイモンドの思惑を理解したらしいアランも加わる。
「そうそう、女とか側室の話とか」
「早めに消しといた方がいいよ?広がる前に」
「それにさ、相手の子、ハルミオンが嫌ってるようなタイプには見えなかったけど」
「僕もそう思うー」
「……くっ」
こういった次第で屋敷に帰ることになったハルミオンだが、扉を開ける段階で躊躇する。が、執事の手によって開けられてしまう。
「おい」
「どうぞ?」
扉を閉めるわけにはいかず、足を踏み出す。その時。
「おかえりなさい」
思わず踏み出しかけた足が止まる。反射的に声のした方を見ると、伺う様にこちらを見ているシエラと目が合った。
「…」
「…あの?」
「…ただいま」