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『おとなしく、控えめで賢い』
これは、ハルミオンが花園に向けて出した花嫁の条件だ。これを満たしていれば、容姿や年齢は問わない。金額も花園側の言い値で良い。そう告げられた花園の経営者側は嬉々として条件に合う娘を探し始めた。
数週間後、少々時間はかかったものの、ようやく条件に合う娘が見つかった。
「主がお呼びです」
部屋へ入ってきた女性に、そう声をかけられた少女は、手元の本から目線を上げて返事をする。
ここ、花園の中で主と称される経営者に呼ばれることは、大抵の場合自分が買われたことを意味していた。
「…とうとう来たのね」
彼女の小さな呟きを聞くものは、この部屋にはもう誰もいない。二段ベット等が整然と並んだ大きな部屋で、小さいはずの囁きは随分大きく聞こえる。
元々6人部屋だったこの部屋は、最近になって1人減り、2人減り、とうとう自分だけになってしまった。
もっとも、暫くすればまた、新しい少女がこの部屋に捕らわれに来るのだろうが。…その頃には、少女もここにはいない。
一通り部屋を見渡した少女は、静かに部屋を後にした。
花園にいる娘は大きく分けて2つに分けることが出来る。
一方は、ほんの少しの希望にかけて、外に出ようとする者。もう一方は、外に出ること、即ち買われることを拒む者。
都の隅にある大きな屋敷。それが花園だ。広大な敷地には多くの少女が住んでいる。高い壁に囲まれた内部は、外からは決して覗くことは出来ない。
前者は其処からの脱出を望み、少しでも良い人物に買われることを期待する者。当然自分を売り出すことに余念がなく、今回の条件『おとなしくて控えめ』にそぐわない娘達だ。
後者は少数ではあるが、買われることを拒む少女達。
花園で少女を買うような男の元へ行くよりは、一生籠の中の鳥でも構わない。選ばれないためにも、極力目立たずに過ごそう。 もっとも、今回はその考えが裏目に出たようだ。
若い。妻となる少女に対するハルミオンの第一印象だ。
「こちらはシエラと申すものでございます。年は18になります」
花園を経営する男が、少女を紹介する。9歳差か。
「条件もすべて満たしております」
見目は悪くても良いと言っていたが、さすが花園と言うべきか。儚げな美人だ。
「そうか…ならよい。連れて帰るが良いな」
「はいっ」
約束通りの金を払い男に頭を下げられつつ、待たせてあった馬車に少女を連れて乗り込む。
馬車に乗ったシエラは、向かいに座る男を見る。男は窓の外を向いていて、シエラの視線には気づかない。自分は正妻に迎えられるのだと聞いた。それも、この国の王子の側近である男の。別室の少女達には、随分羨ましがられた。けれど、そんなにいい話で有るはずはない。
「シエラと言ったか」
ふと、外を見ていた男ーハルミオンは、シエラの方を向く。
「はい」
「先に言っておくが、私に愛情を期待するな」
ほら、やっぱり。
「欲しい者があれば言え、大抵の物は与えよう」
「ありがとうごさいます」
黙って頭を下げた。
条件も、全て聞いている。彼が望んでいるのは、従順な妻。それさえ守れば、自由にさせてもらえる。買われたとはいえ、良い扱いだと思う。
それでも、シエラの心は暗く沈んだ。