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ダッダッダッダ……


「?」


段々近づいて来る足音に、何事かとハルミオンは顔を上げる。と、同時に扉が大きく開かれる。


「ハルっ!!」


足早に机の前まで来て、かなりの剣幕で名を呼ぶ相手に、思わず体を反らしかける。

「どうした、レイ」

怪訝な表情のハルミオンに、肩で息をしているレイモンドはまくし立てる。


「どうしたじゃないよ。今、正妻を迎えるって聞いたんだけど!?」

「…ああ、そのことか」

微妙に視線を逸らすハルミオン。

「しかも、花園からって、正気!?」

レイモンドはずいっとハルミオンに詰め寄る。


「…お前も言っていただろう。早くも結婚しろって。それにそろそろ、周りもうるさくて仕方ない」


目線を反らしたまま答える友人を見て、レイモンドは、数週間前のあの会話が無駄だったことを悟った。レイモンドの思いは伝わらなかったようだ。


「まさかとは思うけど、適当に選んだとか流石に言わないよね」

「…」


この場合、沈黙は肯定を意味していた。




『秘密の花園』(シークレット ガーデン)通称『花園』(ガーデン)と呼ばれるそこは、高級な娼婦を、育成する場所とでも言えばよいか。例えば貧しい農家の生まれだったり、例えば親を亡くした孤児だったり、そこにいる少女たちの境遇は何ら普通の娼婦と変わりない。


違うのは、とびきり美しい少女ばかりということ。そして、貴族や裕福な商人達の愛人や側室になることを前提に育てられるため、全員客は取らず、生娘だった。その価格は、普通の町人が10年遊んで暮らせるくらい。もっと高い娘もいる。


花園は国公認というより、後宮や王族の愛人などとして買われることも少なくないため、法的には何の問題もない。問題はないが、正妻となれば話は別である。それが世間一般の常識となっていた。




「それで、どんな子なの」

呆れて物も言えないといった様子でしばらく黙っていたレイモンドは、ようやく口を開いた。

対するハルミオンは、一貫として沈黙を守る。


もしかしてと、レイモンド。

「まだ会ってないの!?」

式まで一週間もないと聞いている。これも、貴族としては非常に珍しい。大抵は婚約期間などを設る。

更に更にで、開いた口が塞がらない。


「今日、合う予定だ」

やっと口を開いたハルミオンの目を、レイモンドは真っ直ぐに見返す。


「いくら愛のない結婚とは言え、大切にしなよ」

「…わかっている」



先に目を逸らしたのは、ハルミオンの方だった。

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