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空一面を薄暗く雲が覆っている。基本晴れの日が多く、災害も少ないリルテール国だがら今日はあいにくの空模様だ。ポツポツと降り始めた雨足は次第に強まっていく。
「舞踏会ですか?」
「そう、舞踏会。・・・もしかして、聞いてない?」
「はい・・・」
「・・・何やってんのよ、あいつは」
初めて城を訪れた日からシエラはリディアから度々お茶会に誘われるようになっていた。今日もいつものようにお城の一室でお茶を飲んでおり、先程まではリディアの1番下の子供達-双子の可愛らしい男女だ-も居たのだが、疲れたのか今は別室で眠っている。
本人が耳にしたらまた喧嘩になりそうな暴言を吐いていたリディア曰く、2週間ほど先に、王城で舞踏会が開かれるらしい。その、王族主催の舞踏会を皮切りに社交シーズンが始まるのだそうだ。
「よほど大切に隠しておきたいのかしらね」
「え?」
雨足が強まり聞こえなかった為シエラは聞き返す。
「いいえ、こちらの話よ」
「はい・・・」
「ま、ハルミオンがなんと言おうと、出ないわけには行かないでしょうね」
「そう、なんですか?」
「何せ、この27年間、結婚のけの字も出て来なかった公爵様が急に結婚したのだもの。ここ数ヶ月、貴族たちの間ではこの話題が持ちきりよ」
なんと言われているのか、予想をするのは難しくない。社交界など雲の上の世界だと思っていた。花園出身のシエラに、やっていけるのだろうか。ハルミオンの評判を下げることにならないだろうか。
「・・・」
「不安そうね。大丈夫よ、シエラなら。私の若い頃よりも、礼儀作法とか、よっぽど様になってるわ」
「若い頃、ですか?」
自慢じゃないけれど、とリディアは笑った。
「嫁いできたばかりの頃、・・・ちょうどあなたと同じくらいかしら、よくハルミオンに嫌味を言われたもの」
「ハルミオン様に?」
「そう、あなたの足音はとてもよく聞こえるのですぐわかるって。普通にうるさいって言えばいいのに。それから、レイと一緒に街へお忍びで出かけては怒られてたわ」
「それは・・・」
なんというか、リディアが悪いのてはないだろうか。
「ふふふ、とにかくね、ハルミオンが何も言わないってことは自信持っていいんじゃないかしら」
「・・・ありがとうございます」
「失礼いたします」
メイドの一人がやってきて来客を告げた。予定の無い訪問客に2人は顔を見合わせる。
「義姉上、そしてシエラちゃん、こんにちは。あいにくのお天気で、気分も沈みがちかなと思いまして、城下でいま人気のお菓子をお持ちしました」
優雅に腰を折るエミールとは、初対面の日以降何度か会っており、少しずつ慣れてきている。そのことをハルミオンに告げると、何故か苦い顔をされるのだが・・・。
「あら、先触れも出さずにどういうおつもりかしら・・・と言おうと思ったけれど、そのお菓子に免じて許してあげましょう」
「さすが義姉上、話が早い。チョコレートはお好きかな、シエラちゃん」
ずいっと詰め寄られたシエラは思わず一歩後ずさる。
「はい・・・ありがとうございます」
「今日も可愛いね、そのドレスも実にお似合いだ」
「あの、えっと・・・」
「もう、本当に懲りないわねぇ。また怒られるわよ」
困っていたところをリディアに助けてもらう。
「それは勘弁したいな」
「なら、その辺にしといた方がいいわ。・・・にしても、雨が激しくなってきたわね」
「本当だ、先程から雷もなっているようだしね」
「帰りの馬車は、少し待った方がいいかもしれないわ・・・シエラ?」
「あ、・・・はい」
「どうしたの?顔色が悪いわ」
ずっと会話をしていたし、室内だったから気付かなかった。
「雷が・・・、少し苦手で」
「大丈夫だよ、僕がいるからね」
エミールに手を握られる。
いつもならもっと反応しているかも知れないが、そんな余裕はなかった。
「エミール」
「わ、わかってるよ。だから言わないでね」
「全くもう・・・、きゃ!?」
-一際大きな音がして、一瞬空が明るく光る。
「あー、びっくりしたわ。凄い音ね」
「わりとすぐ近くだったね」
「大丈夫だった?シエラ、・・・シエラっ?」
怖い・・・、助けて・・・。
震えが止まらなかった。いつもの事、そう思うのにどうしてだろう。
「大丈夫だよ、心配はいらない」
そう言って、手を差し延べるエミールを見て理解した。そうだ・・・、私は・・・。
「・・・イヤっ」
「・・・シエラ?」
「・・・イヤっ、来ないで・・・」
怖い、・・・・・・たすけて・・・。




