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「・・・っっ、・・・・・・ん・・・」
いきなりの出来事に驚いて固まるシエラの隣から苛立ちを含んだハルミオンの声がした。
「リディア様っ」
鋭い声に思わずびくりと体を震わせたシエラに対して、シエラの腰に回した手を緩めた女性-リディアは何食わぬ表情でハルミオンを見上げる。
「いやーねぇ。大きな声を出して」
「彼女を・・・シエラを離していただけますか・・・。戸惑っています」
ハルミオンの指摘にリディアはシエラを仰ぎ見る。と、そこには困惑した顔のシエラがいた。幼い頃から花園にいたせいか、他人とこれ程までに近づいたことがシエラにはなかった。故に、どう反応するのが正しいのかわからない。
「あら」
シエラの様子を認めたリディアに解放されたシエラはほっと息をつく。それをハルミオンは目敏く見つける。
「・・・リディア様」
「そんなに怖い顔しないで頂戴」
「・・・」
もぅ、と膨れるリディアと押し黙ったハルミオンに挟まれてどうしようかと思案していたシエラだが、そんな自分をリディアが見ているのに気づき、慌てて姿勢を正す。
「あ、楽にしてていいのよ。ごめんなさいね、あんまりにも可愛らしかったものだから、つい」
「!そんなこと・・・」
てへ、と笑うリディアにシエラは慌てる。
「・・・つい、じゃありません」
「まあまあ、2人とも。シエラ嬢が困ってるよ」
延々と続きそうな掛け合いを見かねたレイモンドは友人と妻を止めに入ったのだった。
もしかして自分は物語の中にでも迷い込んでしまったのだろうか。一瞬、シエラの頭の中にそんな考えがよぎる。
使用人に案内されてハルミオンと一緒に入った扉の向こうには、豪勢ながらも品の良い調度品を背景に並び立つ、一組の男女がいた。眩いくらいの金髪に青い瞳の彼らは、まるで童話に出てくるお姫様と王子様のようだった。
そんな考えに囚われかけたシエラは、隣でハルミオンが挨拶をするのに合わせて慌てて頭を下げる。互いに挨拶を交わして、お茶でもという雰囲気になった時だ。お姫様もとい、王太子妃との距離が縮まり、直後に軽い衝撃を感じた。
そう、シエラはリディアにいきなりの抱擁を受けたのだった。
・・・可愛いのは貴女の方です。解放されたシエラは、正面に座って紅茶を飲むリディアを見ながら思う。
あまり高い方ではないシエラよりも低いだろう身長に加え、隣に座るハルミオンと同い年にはとても思えない、瞳の大きな整った顔立ち。どちらかといえばシエラの顔は大人びていて、リディアのような可愛らしさに憧れる。
こう言っては失礼にあたるかもしれないが、兎や栗鼠と言った小動物的な愛らしさを感じるのだ。
「にしてもさー、ハルもよくこんな可愛い子見つけてきたよねー」
父上のところに挨拶に来たときは、遠くてわかんなかったけどさと、朗らかに笑うのは王太子と紹介されたレイモンドだ。
「そうね、ハルミオンには勿体無いくらい」
「こんな堅物で面白くないハルのところにねぇ」
「こんなにいい子がお嫁に来てくれるだなんて」
いきなり自分が話題に上がるのと同時に随分なハルミオンの扱いに、シエラは思わず隣のハルミオンを仰ぎ見る。
さぞかし不機嫌な顔をしているのかと思い見上げた顔は、そうではなくて・・・。
「・・・そうだな」
「は、ハルミオンさま!?」
不意にそれまで黙っていたハルミオンが肯定したのに驚いて、思わず声が漏れるシエラ。
そんな二人を目にしたレイモンドとリディアは驚きを隠せずぽかんと口を開けて固まって、それから顔を見合わせて笑い出す。
「・・・何だ」
ハルミオンの鋭い睨みも二人には生憎と効かない。
「・・・くっ・・・、いや、珍しいものを見たなと思って」
「・・・ぷっ。そうね・・・」
「・・・そろそろ行くぞ」
笑いすぎて溜まった目尻の涙を拭っているレイモンドに一つため息をついたハルミオンは、扉へ向かった。
「はーい。じゃあ、ゆっくりしてってね」
「はいっ。ありがとうございます」
先を行くハルミオンの背を追いながらレイモンドは思う。
良かった・・・-と。
長らく孤独を抱えて生きてきたであろう友人の笑顔を久々に見た気がして。
「さてと、愛しい妻のために僕たちもお仕事頑張ろうか」
「・・・いいから早くしろ」
「はーい」
初夏に差し掛かった今日この頃。ようやくハルミオンにも遅い春が訪れたのだろうか。




