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第ニ章・1

第ニ章


―1―


 目の前で轟々と燃え盛る炎。それが包んでいるのは二階建ての家屋と思われる。どうやら古い木造らしく、火の勢いはどんどん加速して行く。

 次の瞬間、バチンと何かが爆ぜる音がして窓ガラスが割れ、真っ黒な煙とともに炎が渦を巻いて吹き出した。

 元は玄関であっただろう場所は焼け落ちて、真っ赤な口を開けている。しかし恐れはしない。大きく一度息を吸い込むと、その中へ迷うことなく突き進む。

 顔をすっぽりと覆うマスクのせいで元々悪い視界が、立ちこめる煙と熱気でさらに悪くなる。天井を見上げれば黒い煤が這い回り、火の粉がバラバラと降り注ぐ。炎を通さないスーツの中は、それでも蒸すように熱い。


 熱い。

 そして息苦しい。


 手にした重く太いホースを強く握り込むと、行く手に立ち塞がる炎の壁に向け鋭く水を放出する。ホースから噴出される水の勢いに浮き上がりそうになる体を、足を踏ん張り押し進む。

 追いつめられた炎はジュウジュウと断末魔のような叫びを上げ――


「つまり消防士ですね」

「…………まあ…………そういうことですね」


 情緒もへったくれもない口調で鈴に言われ、常磐は臨場感たっぷりに熱く語っていた口を閉じ、ホースを握る身振りもやめた。

 そう、今回の常磐の同調者は消防士らしかった。


「正義の味方なんて言うから、空でも飛ぶかと思っていましたよ」


 退屈そうに鈴は大きな欠伸をした。


「すみません……でも、ほら、海外では消防士って子供にとても人気のある職業だったりして、英雄ヒーロー視されてたりするじゃないですか」

「……その夢、本当に消防士ですか?」

「え、なんでですか?」


 常磐は首を傾げた。

 かなり現実味リアリティのある夢だったのだが。まるで本物の消防士になったようで、炎が怖くもあったが、少しだけ気分が良かったのに。


「燃え盛る炎の中に単独で突っ込んで行くなんて、現場で許されることじゃないでしょう。確実に二次災害になるんじゃないですか。それにそんな古い木造家屋、内部にまでわざわざ入らなくても、離れた外からの放水で充分でしょう。すでにそんなに燃えてしまっているのに。むしろ周辺に被害が広がらないように外から攻めるべきだ」


 夢の中を自在に動ける鈴の考えは、まるで夢のない現実主義。

 

「はあ。でも、まあ……そこは……夢なんで」

「はいはい。そうですね」


 もはや、夢を軽視した発言を注意もしてくれなくなった。言っても無駄だと思ったのだろうか。なんだか逆に応える。


「だいたい常磐さんも刑事なら、単独での行動はまずいんじゃないんですか」

「あ、はい。原則、捜査は二人以上と決められていますけど。朝日奈さんに会って話すのは、別に捜査ではないので……いいかな、と……」

「俺と話して事件を解決しているくせによく言う」


 おっしゃる通り……。

 そして今回の夢も、もしかしたらまた、自分が関わる事件の予知のようなものなのかもしれなかった。今、常磐はここ最近連続して発生している、放火事件を担当している。

 そのことを鈴に話そうとしたときだ。静かな蜃気楼に場違いにも思える携帯電話の鳴る音が響いて、常磐は慌てて胸ポケットを探った。

 鈴に謝って座敷部屋を出てから、電話に出る。


「はい、常磐です」

「常磐ぁ! デスクに一時間以内には戻ってろって言ったでしょ!」


 常磐の先輩でもあり、男顔負けの仕事ぶりを見せる女刑事、西山(にしやま) 夕希ゆうきの不機嫌な声が鼓膜を震わせた。

 西山は常磐の夢の同調に対して、理解を示してくれている稀な存在でもある。なので、鈴にこうして会いに行くことも了承してくれてはいるのだが――


「私が色々訊かれるんだからね。常磐をどこで捨てて来たんだとか、いびりすぎて逃げられたか、とか!」

「す、すみません。すぐ戻ります」


 少し長居しすぎたようだ。東田のように頭に拳骨が落とされることはないだろうが。


「ああ、そうだ。ちゃんと蜃気楼のお菓子、買って来なさいね」

「…………了解です」


 頭は痛くなかったが、給料日前の懐がキリキリ痛み出した。



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