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第三章・2

―2―


 東田は足早に角を曲がったところで、顔を顰めた。

 しまった……。こっちは遠回りじゃねぇか。

 サヨの家の前を通るようになって五日が過ぎた。足がなんとなくそちらの道へと向かってしまったが、今日は少し家を出るのが遅れた。大通りを行った方が近かったはずなのに。

 小走りにサヨのいる窓の前を通り過ぎようとしたときだ。


「のぼる君、おはよう」

「おう」


 いつものように掛けられた声に、足踏みしながらも立ち止まりそちらを見る。


「今日は遅いね」

「ああ、だから急いでんだろ。話してる暇ねぇんだよ。じゃあな」

「おねぼうしたの?」

「お前、俺の言ってること聞えたか。朝飯も食ってねぇんだぞ俺は。もう行くぞ」

「じゃあ、サヨの朝ごはん分けてあげる」

「は? おい」


 窓から一瞬サヨの顔が引っ込んだかと思うと、またすぐに現れた。


「ちゃんと取ってね!」


 サヨは手にしていた何かを窓から東田に向かって投げ落とした。 




◆◆◆◆◆◆


 課の扉を開けると西山は、すでに席に居た東田にちょっと眉を上げた。


「へぇ。あんたがこの時間に席に着いてるなんて珍しい」

「あ? そうかよ」

「そうでしょ。いつも朝から喫煙所に入り浸ってるじゃない。……何よ。まだ朝食も食べてないわけ?」


 西山は東田が手にしているものを見て言った。

 東田が手にしていたのはコンビニエンスストアのおにぎりだった。サヨが投げて寄こしたビニールの袋の中に入っていたものだ。袋の中にはおにぎりと牛乳が入っていた。

 受け取ってみて驚いてサヨを見上げると、サヨは自分の片手には菓子パンを持ち、にこにこともう片方の手を振っていた。


「……ああ、『朝食』な。確かにこれでも朝飯には違いねぇな」

「何言ってるの?」

「なあ、西山。お前、虐待とかって詳しいんだっけっか」


 いつもの調子で言った東田だったが、西山の目つきが鋭く変わった。


「そういう子がいるの?」

「……さあな」

「親の怒鳴る声がするとか、子供の泣き声がするとか? 体に痣があるとか――」

「いや」

「じゃあ何なのよ」

「それが分かれば苦労しねぇんだよ」


 ただただ漠然と、あの家はおかしいとしか思えないだけの状態で何ができるのか。


「児童相談所に連絡して様子を見に行ってもらうこととかもできるけど」

「様子を見るだけか」

「子供に何かあれば保護するわ」

「そうか。分かった」

「ちょっと、ちゃんと分かってるの。もしそういうことなら、あんただけじゃ何もできはしないんだからね」

「分かってるよ」


 あんただけじゃなにもできない……か。とんだ正義の味方だ。

 東田はサヨから貰ったおにぎりの包みを剥いてかじりついた。おにぎりと牛乳の相性は最悪だった。


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