大人の為の子供相談室 バレンタイン
本作はシチュエーションの都合上、いつもの小説形式ではなく脚本に近い形式を採用しております。
ご了承下さい。
タケジー:そんなワケで本日より始まりました『大人の為の子供相談室』なんですが、この番組では子供からの素朴な質問に大人はどう答えるべきなのかについて、真剣に悩んで答えを探そうではないかと考えております。なかなか有意義な企画ですよね、これ。
ミカリン:そお? ネタに詰まった放送作家が戯れに聴いた子供相談室で思いついたって聞いたけど。
タケジー:そういう大人の事情は説明しないっ。とと、とにかくこの番組をご案内いたしますのは私ことタケジーとこちら――
ミカリン:ん?
タケジー:ん、じゃなくて。自己紹介!
ミカリン:ミカリンでーす(棒)
タケジー:わざわざ棒とか言わなくていいからっ。私達二人で進行していきますので、よろしくお願いします。
ミカリン:そんな不安そうな顔しないでよ。
タケジー:いや、そう思うならちゃんとやってくれよー。
ミカリン:大丈夫だって。一人前の大人として、給料分はちゃんと働くからさ。
タケジー:大人としてすでにどうなんだ、その発言は……。
ミカリン:現実的な大人らしくていいじゃない。そんなことよりホラホラ、本日のテーマをさっさと始めなくていいの?
タケジー:そそ、そうですね。記念すべき第一回目のお題はこちら、じゃじゃん『ヴァレンタインデーにはどうしてチョコを送るのか』です。時期もぴったりの話題ですねー
ミカリン:…………。
タケジー:ミカリンはどうです? たくさん配る派でしたか? それとも意外にも本命にだけ渡す派だったりするとか?
ミカリン:食べる派です。
タケジー:えっと……。
ミカリン:食べる派です。
タケジー:あの、ヴァレンタインの話なんですが。
ミカリン:チョコってのはヤルものじゃなくて食べるものだろJK
タケジー:じぇ、じぇいけー?
ミカリン:あんな美味しいものを男にくれてやるなんてもったいないじゃない。自分達で食った方が有意義ってものじゃないの。違う?
タケジー:あ、友チョコってやつですか。せっかくの美味しいチョコなんだから自分達でも食べたいってのはわかりますね。
ミカリン:あー、違う違う。そうじゃなくて。
タケジー:違うって、どう違うんです?
ミカリン:やっぱり食べるなら本命チョコでしょ。ブランド物は質が違うからねー。
タケジー:それはつまり、本命チョコを自分用に買うとか、そういうことですか?
ミカリン:いやいや、周りを見渡せば本命チョコが乱舞している状況で、どうして自分で買ってくる必要があんのよ?
タケジー:えーと、それはどういう……。
ミカリン:わからない? 本命チョコを渡しそうな女を見つけたら後をつけて、差し出した瞬間を見計らってガッと掴み、軽やかに立ち去るという――
タケジー:泥棒じゃないですかっ。
ミカリン:人聞きの悪いこと言わないでよ。私はね、利用されて弄ばれているチョコ達を救出しているの。言うなればチョコの解放者ね。
タケジー:いやいやいや!
ミカリン:あ、でも本命でも手作りのヤツは避けた方が無難ね。当たり外れが激しいから、あれは。
タケジー:手作りってやっぱり難しいんですかねぇ。
ミカリン:そんなでもないよ。溶かして固めるだけだしね。
タケジー:何というか、実際に作ったことがあるみたいな言い方ですね?
ミカリン:あるよ。中学の頃に一度だけ。
タケジー:それです!
ミカリン:それってどれ?
タケジー:その話を伺いましょう。大人の女性の体験談、それこそ子供達と我々の求めているものですっ。
ミカリン:……まぁいいけど。
タケジー:で、相手はどんな男の子だったんです? やっぱり、ちょっと不良っぽい人とかですか?
ミカリン:いや、真面目なヤツだったよ。頭が良くて顔が良い、いかにも将来性有望って感じだったね。
タケジー:中学生にしてはチョイスに邪念を感じるのですが……でで、でもそんな相手だと人気者だったりしたのでは?
ミカリン:そりゃそうよ。だからこそ競技として成立するんだし。
タケジー:競技? 成立?
ミカリン:そんなのホワイトデーのお返しに本命が返ってくるかに決まってんでしょ。あの男と付き合えるなんて、そりゃステータスだからねぇ。
タケジー:はぁ……。
ミカリン:でもホラ、私ってば見た目はそこそこだけど、料理の腕があるワケでもないし、高級チョコが買えるほど金持ちでもなかったからさ。相応の『工夫』が必要だったワケよ。
タケジー:お、やっと乙女らしくなってきました。
ミカリン:んで、生えてきたばかり下の毛とか、涙とか涎とかマン――
タケジー:わーーーーっわーーーーっ!
ミカリン:何よ、いきなり。
タケジー:これ放送中! 危ない言葉、駄目、絶対!
ミカリン:あぁゴメンゴメン。仕事だって忘れてた。
タケジー:おい大人っ、いい加減にしろ!
ミカリン:まぁとにかく、そういった諸々の秘薬を投じてチョコを作ったワケよ。でもさ、考えることって結構みんな変わらなかったりするのよね。あの男、律儀にみんなのチョコ食ったらしくてさ。次の日から一週間入院してやんの(笑)
タケジー:笑うとこじゃないよ、そこっ!
ミカリン:けど悪いことばかりじゃないよ。次の年からウチの中学バレンタイン禁止になったし。
タケジー:やめてっ。もうやめてー!
ミカリン:というか、こんな話聞いてどうするつもりなの?
タケジー:いや、思ってた話と違ったんだよっ。もっと甘酸っぱい感じを期待してたんだよっ。というか子供の夢を壊さないで!
ミカリン:何よ、いたいけな少女時代の無垢な思い出じゃない。
タケジー:めたくそ汚い話だったよっ。薄汚れた黒歴史そのものだったよ!
ミカリン:はいはい、アンタこそバレンタインはどうだったのよ? どーせアレでしょ。爆発しろとか言ってるんでしょ?
タケジー:そんなこと言わないって。まぁ、あんまり貰ったことはないけど……。
ミカリン:ちなみに今年は貰える予定とかあるの? ちなみに母親とか妹とか家族からのはノーカンだからね。
タケジー:まぁ、彼女から一つだけだけど。
ミカリン:ふふふ……。
タケジー:なな、何?
ミカリン:アンタ、騙されてるわね。
タケジー:はぁ?
ミカリン:いい? 騙されちゃ駄目よ、子供達。このオジサンはお菓子業界の手の平の上で転がされている哀れな子羊なの。こんな風になってしまったら最後、財布の中身どころかケツの毛まで抜かれて持ってかれてしまうの。
タケジー:ぅおいっ、変なこと教えるなっ。というか僕はまだオジサンじゃない!
ミカリン:大体バレンタインなんてイベントはねぇ、女がチョコという餌を使って大物を吊り上げようという浅ましい釣りみたいなもんよ。いくら高いったって数千円、それで何万もするブランド物が釣れるんだから安いもの――
タケジー:あのちょっと、ヴァレンタインってのは、もっとこう純粋な恋心というか、甘い気持ちの交錯するイベントであって、そんな打算的な……ミカリン?
ミカリン:……アリだな。
タケジー:アリって、何がですか!?
ミカリン:よしタケジー、今年は私がお高いチョコを送ってやろう。ありがたく受け取るが良い。
タケジー:嫌ですよ!
ミカリン:何にしてもコレで結論が出たね。バレンタインはフィッシングである。
タケジー:上手いこと纏めたつもりか、コラ!
えーと、何かすんませんでした。