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拍手用小話 『クリスマス』

「ドキッ、シングルだらけのジングルベル。第一回独り身限定クリスマスパーティにようこそ!」

「しょーもねえ名前をつけんな!」


 高らかに宣言した、開会の挨拶に、素早く四ッ谷がけちをつける。

 時は12月24日。場所は、父と母がらぶらぶ旅行に出かけ、修也がらぶらぶデートに出かけ、家人が出払ってしまった我が家。

 私達は食べ物を持ち合って、ささやかなクリスマスパーティを催していた。


「私が独りなのは、四ッ谷の責任も大きいんだからね」


 一体、どこの誰が、つい最近彼(信じられないことに四ッ谷)と一泊旅行をしたと噂になっている、女を拾ってくれるというのか。


「お前、まじでそれ俺の台詞だから」


 佐藤さんが持ってきてくれたケンタッキーを齧りながら、溜息をつくと、さらに深い溜息で返される。このままだと3年間独りだよね。だな。と、二人で沈んでいると、背後のソファに身を沈めている人物が退屈気に組んだ足をぷらぷらと動かしているのが視界に入った。


「あ、リカさん、このシチュー美味しいですよ。母作ですから」


 憮然として、ソファに座り込む美貌の持ち主、リカさんにシチューの入った皿とスプーンを手渡す。


「なんで、俺はここにいるんだ……」

「だって、偶然会っちゃったんですから。いいじゃないですか、たまには。それにしてもリカさんがこんなにご近所さんだったとは知らなかったな」


 そう、リカさんの家と私の家は、同じ町内にあった。

 今思えば、夜にコンビニで鉢合わせした時点で気付くべきだったのだ。


「こっちのケーキはカイのお母さん作だそうですよ。あ、切り分けましょうか?」

「いい、俺がやった方が絶対に上手い」


 もうやけくそといった感じのリカさんは、立ち上がってナイフを手に取った。


「イチゴが多いところは、カイ。お前が食え」「四ッ谷だっけ? お前、甘いもんは? 苦手? じゃあ、この小さいのな」「佐藤は? ああ、見るからに好きそうだよな。ほら」「杏、余った分全部食っていいぞ。あんたはもうちょっと太りな。その体じゃ、抱きがいがない」てきぱきと皿にもりつけて、各自の前に差し出すリカさん。その手際の良さに思わず拍手を送りかけたが、最後の台詞はリカさんの中身を知っていても誤解しそうになるからやめてほしい。

 現に、隣でソーダを噴出した四ッ谷が慌ててテーブルを拭いている。

 しかし、とうのリカさんは全く気付かず、ソファの上でシチューをすすっていた。


 そんなちょっとしたトラブルを除けば、パーティはとても楽しいものになった。TVゲームをしたり、トランプでカイにボロ負けしたり、年齢も職業もばらばらだけれど、私達は案外気が合うのかもしれない。


「カイー。飲んでる?」

「オレンジジュースを勧める言葉じゃない」


 将棋を始めた佐藤さんと四ッ谷と、それを観戦しているリカさんから離れ、テーブルの隅で、料理をつついていたカイに話しかけると、いつもに増して、そっけない声が返ってきた。


「あれ? 具合でも悪い?」

「別に」

「そう? いつもより無表情に磨きがかかってるよ。ほらほら、もっと飲んだ飲んだ」


 飲んだくれの駄目駄目上司の気分でカイのカップにオレンジジュースを並々とそそぐ。


「あんたはジュースで酔える特異体質なの?」

「そんなわけないじゃん。しらふだよ」

「とてもそうは見えない」


 最後のイチゴを食べ終わると、カイは手を出した。


「あんたの携帯出して」

「え? 携帯? ちょっとまってね」


 家に連絡を入れるのだろか? とダイニングテーブルに置きっぱなしだった携帯を差し出すと、カイは傍らの鞄から真新しい携帯を取り出した。


「あ、持つことになったんだ」


 今までカイは携帯を持っていなかった。連絡は家か佐藤さん経由で行っていたが、これで連絡もとりやすくなる。課題に困っても、メールで聞ける!


「うん、アドレス入れときたいんだけど」

「うんうん、交換しよう」


 私は嬉々としてアドレスを交換した。


「それからこれ」


 アドレス帳の友人欄を確認していると、カイが鞄から、また何か取り出した。それはリボンがかかった小さな箱だった。


「え!? あ、そっか、クリスマスだもんね。ごめん、私プレゼント交換にまで頭が回らなかった。用意してないんだけど、どうしよう。ひょっとして皆も何か用意してきてるのかな?」


 小学生のクリスマス会といえば、目玉はプレゼント交換だ。

 すっかり失念していた自分が残念すぎる。


「うーん、代わりになるものあったかなあ」と部屋にあるものを思い浮かべる私の手をとり、カイは箱を握らせる。


「いい。これはあんたにだから。とっといて」

「え、いいの? 本当にごめん。今度四ッ谷とカイの家にお邪魔する時にお菓子でも用意するよ」

「………いらない」


 代わりが御菓子では気に入らなかったのか、カイはそう呟くと、佐藤さん達の将棋を見に行った。


 皆が帰り片付けも済んで、一息ついていた私は、ふとプレゼントの事を思い出して、いそいそと包みを開けた。

 白い台座に鎮座する、銀色の可愛らしい指輪を見て、息を呑む。

 これって………。いや、まさかね。

 その晩、私は複雑な気持ちで指輪を眺めながら眠りについたのだった。

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