拍手用小話 『ある日カイの家にて』
「ここ!?」
「うん」
11月に入り、ぐっと肌寒くなったある日、私はカイの家に来ていた。
「ここって………」
「寺だけど」
それが何か? と言いたげなカイ。
ぱくぱくと古めかしい境内を指差す私の隣で、四ッ谷もまた、同じような反応を示していた。
そんな私達を冷めた目で見てからカイはすたすたと境内を横切って、隣に建ついかにもといった日本家屋の扉を開けた。
「ただいま――――何してるの、早く来たら」
カイに促され、そろそろと玄関をくぐると、置くから足音が聞こえてきた。
「おかえりなさい、海」
品のよい女の人が優しい笑顔でカイを出迎え、
「よくいらっしゃいました。海の母で………」
その笑顔のまま私たちも迎えようとして失敗した。
海の母親の目は、四ッ谷に固定されていた。
小学生のカイが、こんなでっかくて柄の悪い高校生を連れて帰ったら、犯罪の匂いしかしないよね。
「こんにちは。今日は突然すみません。海君のお誘いに甘えてお邪魔させていただいて」
少し大きめに、しかし努めて可愛らしい声を出すと、ようやく、カイ母は私に目を向けた。
そして、あからさまにほっとした顔をみせる。
「ま、まあまあまあ。こんな可愛らしいお嬢さんがいらっしゃるなんて、お母さんちょっと驚いちゃったわ。失礼いたしました。さあ、どうぞお上がりください」
やはり黒髪ストレート+化粧っけのない顔+膝下進学校スカートのトリオは親受け最強だ。
あれ? そうえいば、四ッ谷も同じ制服を着ているのにおかしいね。
ふふん、と隣を見上げると、四ッ谷は口をへの字に曲げて、遠い目をしていた。
斉藤の墓参りから帰ってはや二週間、私と四ッ谷がなぜ、カイの家を訪ねる事になったかというと………
「ストップ! カイ、あのね。そこに至るまでの式はどこにいっちゃったのかな!?」
「ちょっ、ちょっと、待って! だからっ、どうしてこうなるのかが分かんないの! 途中をすっとばさないで、お願いだから。お姉さんにも分かるように説明して」
「いやいやいや、そこがもう飛んでるから。答えに飛んじゃってるから、そうじゃなくて、そうじゃなくて~~~~」
「俺、こいつに教わんのは無理な気がしてきた………。お前、間違っても教職とんなよ」
という上記の会話から察してほしい。