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86.蛇足という名のエピローグ ⑤

 あの時、ROに集まったメンバーはそれぞれが何かしらの問題を抱えていた。

 斉藤はそれをいっぺんに解決しようと試みたのだろうか?

 なんて――――なんて――――

 乱暴な。

 改めて沸々と怒りがわいてくる。

 佐藤さんとカイの引きこもりと、タスクさんの家庭の事情と、リカさんの身体的問題と、私と伊達の間を一度に何とかしようだなんて、荒っぽいにも程がある。

 そうまくし立てると佐藤さんは、小さく笑った。


「彼は少しせっかちなところがあったからね」


 少しどころじゃないっ!


「でも、彼の荒療治のおかげで、僕は復帰出来たよ。君達は何か得るものはあったのかな?」


 たくさんあった。

 と素直に答えてしまうのが何だかくやしい。

 斉藤の掌の上で転がされて、まんまと四ツ谷と仲良くなって……。

 四ツ谷と友人になることで、私の学校生活は早くも変化の兆しを見せている。いい変化も迷惑な変化もごったごたで目が回りそうだけれど、でも、四ツ谷という友人を得たことは、とても大きなことなのだと分かっている。

 誰も口を開かなかったけれど、それぞれに思うところはあったと、そうその表情が物語っていた。


「さて、今日はひとまず、お開きとするか。親御さんに心配をかけてはいけないしね」


 そう言った佐藤さんの台詞は主にカイに向けられていたと思う。そりゃあ、いくら叔父さんと一緒でも小学生だしね。


「送って行くよ」


 その言葉に甘えて、私と伊達は駅まで乗せていってもらった。

 自宅まで送ると言われたけれど、それではカイの帰宅時間が延びてしまう。「仁木は俺が送り届けますから」という四ッ谷の言葉に佐藤さんは、それじゃあ頼むよと頷いた。

 佐藤さんと携帯のアドレスを交換して、その日は真っ直ぐ帰途についた。

 初めのうちは、斉藤への愚痴で盛り上がったけれど、沈んでいく夕日とあいまって、玄関先で別れる時にはしんみりとした気分になっていた。


 佐藤さんからメールが届いたのは、翌々日の水曜日のことだった。


『土曜日に斉藤の墓参りに行きます。一緒にどうかな』


 私はすぐさま返信した。行くとも! 行きますとも! 斉藤には言ってやりたいことが山ほどあるんだから。

 待ちに待った土曜日、私達はまた、くじら時計で待ち合わせた。

 カイが来て、ロータリーの外れに止められた白い車に案内してくれる。

 迎えてくれた佐藤さんの目は少し赤かった。

 フライングだよ、佐藤さん。

 斉藤の墓は車を2時間と少し走らせた山中にあった。

 車を降りてすぐに水汲み場があり、そこから、重たい水桶をかかえて長い階段を登っていかなくてはいけない。

 佐藤さんと、桶を手にもった体力自慢の四ッ谷の後に続いて、階段を登ろうとすると、後ろから手を引かれる。


「どうしたの?」


 振り返ると、カイの黒い瞳と視線がぶつかった。


「少し時間をあけてから行きたい。俺がいると、佐藤さんは泣けないかもしれないから」

「………うん」


 色づき始めた木々を眺めながら、私達は階段に座って時間を潰した。

 風が通り抜けるたびに、カイの黒髪がさらさらと揺れる。


「髪、黒いんだね」


 思わず、口にしてから、はっとした。何を言ってるんだ、私は。


「あたりまえだろ」


 呆れたように目を細めたカイは、ふと思い出したように呟いた。


「小豆色を期待してたの? それとも本当に金髪だと思ってた?」


 私は目を見開いた。


「聞いてたの?」

「聞いてなきゃ、あの広場で会えないでしょ」


 そっ、それはそうだけど………。

 カイはその視線を遠くの緑に移す。

 呆れられたかな……。4つも年上なのに……。少年らしい線の細い横顔を眺めていると、カイは遠くの山を見詰めたまま口を開いた。


「ずっと、聞いてた」


 私は唇を噛み締めた。


「佐藤さんが無窮の王のシステムを書き換えて、病院のベッドで目が覚めるまでだけど……。毎日、あんたが来るのを待ってたよ」


 不意打ちは困る。

 また、涙を我慢できなくなってしまうから。


「俺は、本当に戻れなくてもいいと思ってたんだ。ここはつまらなかったから。でも、今は戻れて良かったと思ってる。………ありがとう」


  もう限界だった、はたはたとスカートにシミを作り出した私を見て、カイが唇を引き結ぶ。

 また困らせてしまった。何度も泣かないでくれと言われているのに。

 頭に柔らかいものがのせられる。それがカイの掌だと気付いたのは、随分と泣いた後だった………。


 カイが濡らしてきてくれたハンカチで目を冷やしながら階段を登る。

 私と、変わらない大きさの手にひかれて、たどり着いたそこでは、佐藤さんが立ったまま、静かに頬をぬらしていた。


「ちょっと、早かったかな?」


 こっそりとカイに耳打ちすると、「別にもういいんじゃない」とそっけない答えが返ってくる。

 佐藤さんの横で、ただ突っ立って見守っていた四ッ谷は、私達の姿を見るなり、「おせえ………」と口を開きかけて、すぐに閉ざした。

 私の目が腫れているのに気付いたからだろう。

 私達はかなり長い間、斉藤の墓前で過ごしたと思う。

 心中でだが、散々文句を言ってやったし、愚痴も駄目だしもしてやった。

 最後の最後に感謝の気持ちを伝えて、斉藤の墓を後にした時には胸の中がすっとしていた。

 

 階段を下り初めて直ぐに、カイが着いて来ていないのに、気付いた。

 不思議に思って、今、お線香をあげてきたばかりの墓を見れば、1人で佇むカイの姿が見えた。

 カイは墓石に向かって何かを語りかけていた。かと思うと、唇の端を上げて小さく笑う。

 どこか不敵な、子供らしくないその表情が―――いや、カイは往々にして子供らしくないんだけど―――気になって仕方がなかった私は、駆け足で追いついてきたカイの肩をつついて尋ねた。


「ねえ、さっきお墓の前でなんて言ってたの?」


 ヤクシャのカイと同じ、感情の薄い目が、一瞬私に向けられる。


「悪いけど、賭けはあんたの負けだよ」


 そう、報告したんだと言うと、カイは階段を駆け下りて行った。

ありがとうございました!

これにて『〇月×日、今日は快晴』完結です。

予定していたよりも大幅に長くなりました。

後半ぐだぐだになってしまったのが心残りですが、ひとまず完結とさせていただきます。

お付き合い頂き、本当にありがとうございまいた。

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