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85.蛇足という名のエピローグ ④

 思わぬ経緯で一方的な知人だった、私と四ツ谷と佐藤さん。


「やっぱり、皆、佐藤さんと繋がっていたんですね」


 私達を見た時、佐藤さんもやはりと思ったのだろう。


「そうだね。正確には僕と斉藤の共通の知り合いというかね……」


 佐藤さんはカップの中身を見詰めて寂しげに零した。


「んー、けどなあ」


 四ツ谷がぽりぽりと頭をかく。


「ロクは、その、亡くなった斉藤さんで間違いないんですか? ロクもまた二人の共通の知人という線もあるんじゃねえのかと俺は思うんですけど。賭けの件、他に知ってる人いないんですか?」


 佐藤さんは静かに首をふった。


「内容が内容だしね。口外はしていない。それに、泉の前で彼が口にした内容は、斉藤だとしか僕には思えない」

「あの、ずっとひとつ気になってる事があって………」


 佐藤さんの言をうけても、まだ、うーんと首を捻る四ツ谷をおいて、私は手を上げた。


「ロクって……どう表示されていたんですか? ローマ字だったんでしょうか?」

「いや、違うよ」


 佐藤さんは机に指を這わす。


『6』


 と。

 ああ、やっぱり。


「ロク………6人、ですね」


 顔を上げて佐藤さんを見詰めると、彼は眼鏡の眉間部を指で押さえ、頷いた。


「僕も、そうじゃないかと思う。タスクさん、リカさん、カイ、四ツ谷君、仁木さん、僕。ロク―――斉藤自身は初めから数に入っていなかったんだろう」


 ぼんやりと見えていたロク=斉藤の思惑が分かった気がした。

 寂しくて知り合いを連れて行きたかったんじゃないかって考えが消えた後、まず、佐藤さんに会いたくて、メッセージを伝えたくて彷徨い出てきたのかと思った。

 今でも一番の目的はそれだろうと思っている。けど、彼は色々な事が心残りだったんじゃないだろうか。


「斉藤は、佐藤さんと、二人の共通の知人である私達の事が気がかりで、どうにかしたかった……。って事ですかね」


 佐藤さんを見ると、彼は困ったように、首を傾けて微笑んだ。


「僕は斉藤ではないから絶対とは言えないけれど、……そうじゃないかと思っているよ」


 佐藤さんは寂しげな目をしながら、ぽつぽつと語り始めた。

 タスクさんは、入社以来の僕の憧れの人でね、いつも笑顔で仕事が出来て、皆に頼りにされている。そんな人だったんだが。それが7、8ヶ月前から、少し様子がおかしくて、斉藤と何があったんだろうと心配していたんだ。それから、リカさん。彼を始めて見かけたとき、彼は店の裏の路地で吐いていた。最初はただの飲みすぎかと思ったんだが、見かけるたびに、辛そうに吐いている彼に只ならぬものを感じてね、これも斉藤と懸念していた。四ツ谷君と仁木さんはさっきも話したとおり、あ、いや、賭けの勝敗が気になってというより、結果がどうであれ、彼の想いが伝わるといいなと思っていたんだ。

 あ、うん、勘違いって言うのは重々分かっているよ。

 私達の話題が出た途端、しかめっ面を見せる四ツ谷に佐藤さんは慌ててフォローをいれる。


「あの、カイと佐藤さん自身の事は?」


 ちらりとカイに視線を向けると、カイは本棚に並べられた背表紙を目で追って素知らぬ顔をしていた。


「カイは………君達も気付いているかと思うが、少々特殊な子でね。赤ん坊の頃からなににつけ人より出来るのが早かった。とりわけ、物心がついてからの成長は目覚しくて、誰も教えていないのに、小学校に上がる前に延々と計算問題を解いて遊んでいるような子だったんだよ」


 なにそれ。すごい。

 私が幼稚園の頃なんて、おしりーとか、うんちーとかシモネタばっかり言って喜んでたって、正月に顔を合わせる度に親戚のおばちゃんに言われるんだけど!


「そんな子だから、小学校の全てが物足りなかったんだろうね。授業の内容も友達の会話も、彼にとっては意味のないものだった。それで合っているかな?」


 自分に投げかけられた言葉に、カイは漸く視線をこちらに向ける。


「さあ? もう忘れた」


 カイの記憶力の良さは折り紙つきだと誰もが知っている。


「まあ、そんなわけで、カイはすぐに学校に行くのをやめてしまったんだ。それで……」


 言い淀んだ佐藤さんの言葉を私が引き継いだ。


「ネトゲ廃人……」


 小さくため息をつく音が聞こえる。


「あんたなあ」


 ありゃりゃ、聞いちゃいけない言葉があるのと同様に、言っちゃいけない言葉もあったか。

 カイが顔を覆っていた指の隙間から私を見る。


「………いや、いい」


 どの様な苦言でも甘んじて聞こうじゃないか! とカイを見詰め返すも、彼はまた小さくため息をついて、本棚の本を眺める作業に入ってしまった。


「最後に僕だけれど、もう見当がついているだろうけど、情けない話だが、斉藤が亡くなって、必死になってROを完成させた後に、どうにも出社できなくなってしまってね。この数ヶ月はずっとアパートの部屋に引きこもっていたんだよ。兄さん……カイの父親にも随分と迷惑をかけてしまって……面目ない」


 俯く佐藤さんに、カイは本を眺めながら声をかける。


「父は迷惑だなんて思っていませんよ。心配はしてましたが、佐藤さんが立ち直るのを信じて待っていましたから。とはいえ、俺と佐藤さんが毎日ROに入り浸って一緒にゲームをしていたと知れば、どう思うかは分かりませんが」


 そりゃあ、父としても兄としても複雑だよね。

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