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79.10月8日、今日は曇り

 窓から差し込む日は随分と傾いていた。長く伸びた影を見て、私は腰を上げる。


「そろそろ帰るね」

「おー、送ってくわ」


 鞄を手にとり立ち上がると、伊達が財布を片手についてくる。


「は? いや、いいから」

「うるせーよ。お前、今は女なんだぞ。わかってんのか」


 いや、今も何も、16年間女でしたが。


 「まじでいいから」「だめだ」「ほんと、まだ明るいし、子供じゃないんだし」「お前の家の方面に用事があんだよ」「あんな住宅街に何の用があるのさ」「しつけえな。いいだろうが」

 しつこいのはどっちだ。何度断ってもついてくる伊達に、私はとうとう降参した。


「分かった。じゃあ玄関先で待ってるから着替えてきたら?」

「いや、このままでいい」

「は? なんでよ」

「このガタイだからな、私服の俺と一緒のとこ見られたら、お前のお袋さん、びびらせちまうぞ。まだ制服のほうが身元が分かって安心すんだろ」


 私はつい、まじまじと頭のてっぺんから、つま先まで伊達を眺め回した。


「それもそうだね」


 と素直に感想を口にすると、頭を片手でつかまれた。ボールを持つように。


「おーまーえーなあ。こういう時はフォローの言葉を口にするもんだろうが」


 いや、だって伊達が自分で言ったんじゃん。

 ぐりぐりと頭を左右に振られるが、その力の入れようはオクトの時とは比べ物にならないほどソフトなものだった。

 家までの道のりは、とりとめのない会話をして過ごした。

 どこで誰が聞いているとも限らない場所でカイやROについて口にするのが憚られたのだ。

 長い髪を見た時や小豆色の服を見た時、ふとした瞬間にカイのことを思い出して、暗くなる私を、伊達は必死に気遣ってくれた。

 駅で別れようとするのを拒否し、きっちり門の前まで着いてくると、礼を述べる私を見据えて伊達は厳しい口調で告げた。


「1人で何かやろうとすんなよ。俺に声かけてからにしろ。俺だってカイの事は気になるしな。じゃあ、また学校でな」


 分かった。

 そう答えて私は家に入った。

 学校から連絡が来ていないかとひやひやしたが、母の態度はいたって普通で、胸を撫で下ろす。

 食事と入浴を手早く済ませると、私はモニターの前に座り、コントローラーを握り締めた。

 たった一人で今も囚われているかもしれないカイに会いに行くために。

 画面の中でくるくる回っているオクトは、茶色い髪と目をしていた。私が作ったオクトそのままだが、皮の服を装備し、いつのまにかレベルが7に上がっている。

 希望を込めてログインボタンを押すと、倉庫の中に佇むオクトが画面に映し出される。

 私は落胆の息を吐いた。やっぱり、戻れない。

 戻れないと分かると、私はすぐさまログアウトした。レベル7のオクトでは無窮の王に挑めない。

 迷う事無くシュウコちゃんで再ログインを果たすと、修也の趣味であろう装備を売っぱらい、防御力の高い装備に変更する。

 夜ともなれば、人はぐっと増えるだろうし、比較的レベルの高いパーティに入りやすいのではないかと予想していたのだが、ずぱり的中していた。

 説明書を読み、攻略ページを見ながらの操作は、大いに顰蹙を買い、放逐されもしたが、面倒見のよい人達に拾ってもらい、とうとう私は王の間にたどり着いた。


『やった、到着』

『来たねー。それじゃあボチボチ頑張りますか』

『suiさん、ノートの泡、お願いします』

『ラジャー』


 皆始めての討伐に、心を躍らせているようだった。

 土壁を擦り抜けて、ノートの泡を使い、王と対面する。

 今代の王は、シュージュだった。王の証である、金の髪と目をもつ、小さなシュージュを見て、ため息が零れた。

 分かってはいたけれど、がっかりせずにはおれない。

 けれど、もし、この場にカイがいるのなら、私の発言は聞こえるはずだ。

 パーティの面々に防御魔法をかけつつ、私はキーボードを叩いた。


『10月8日、今日は曇り』

『カイ、元気にしてる? 王様生活は快適?』

『あ、そうだ。こんな姿だけど、オクトです。どう? マシになったでしょ』

『今日は伊達に会ったよ! 勿論水色の髪じゃないけどね』

『ここも賑やかになったね。もうすぐひっきりなしにお客さん来るようになるんじゃない?』

『金髪のカイって想像つかないわ。ねえ、爪の色も変わった?』

『やっぱりカイの髪は小豆色じゃないと』

『あ、リアルで金髪だったらごめん』


 見えないカイに向かって発言を始めた私に、他のメンバーは驚き、『シューコさん????』『どうした?』『チャット機能間違えてませんか?』『おーい、かえってこーい』等と次々とログが流れる。


『すみません、ちょっと友達と約束してて』


 それだけ言うと、私はまた、カイに向けて発言を続けた。

 いぶかしんでいたメンバー達も、訳のわからない独り言を言う意外は、ぎこちないがらも自分の役割を果たす私を、それ以上構う事は無かった。


『絶対に助けるから、待ってて、カイ』

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