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08.せめてぱら見をしとけば良かった

「装備?………あ、ああ、そうだな。何かあると思うが」


 怪訝そうに眉を潜めた佐藤さんは、私の格好をまじまじと見詰めて、納得したように頷いた。

 佐藤さんの虎徹はゆるいカーブを曲がった先にある窪みに、ちょこんと座って待っていた。

 見た目はカイの虎徹と全く同じで私にはさっぱり区別がつかない。………おそらく佐藤さんにもカイにもつかないだろう。


「えーと、装備だったな。ああ、あった。あっ!」


 ごそごそと虎徹2号に括りつけられた袋を探っていた佐藤さんは、あからさまにしまったという顔をして、私を見、また袋の中を見る。


「どうかしたんですか?」


 袋の中から手を出そうとしたい佐藤さんに、私は首をかしげた。


「予備の装備。あるにはあるんだが………」

「シュージュ用。ですか?」


 カイの指摘に佐藤さんは苦笑いをして、袋の中身を引っ張り出した。


「ちっさい」


 現れた装備―――胸当てやら、腰巻やら、兜―――は、どれも佐藤さんサイズの小さなもので、オクトである私には着れそうにないものばかりだった。


「すまないね。オクト君」

「いえ、ありがとうございました」


 しゅんと猫耳をたらして、申し訳なさ下に謝られると、こっちが申し訳ないことをした気分になってしまう。


「あ、あのっ! ところでシュージュって何ですか?」


 ぷらんぷらんと寂しげに揺れるしっぽを見ていられなくて、発した言葉に、カイと佐藤さんは、信じられないものを見るような目で私を見た。


「あんた、説明書は………」

「面倒だったから読んでない」


 きっぱりと断言すると、カイは何も言わずに顔に手を当てた。


「いくら説明書を読んでいないからといって、シュージュも知らないとは……内容も知らずに、ROを買ったのかい?」

「もともとは弟のものだったんです。彼女ができやがりまして、やる時間がなくなったけど、3か月分料金を支払っちゃったからって私が」

「なるほど。そういう事か。それでこんな事態になるとは、不運だったね」


 私以上に動転して挙動不審だった佐藤さんは、会話を重ねるうちに段々と落ち着きを取り戻していた。

 柔らかな物言いといい、優しい笑みといい、大人の男を感じさせる様子に、私は頬を赤らめ……そうになったが、見た目がなにこれ以下略なので、そういう意味では全くときめかない。

 見た目って大事。


「あんた、ヤクシャも何か分かってなかったんだな」


 独り言のように呟きながら顔を覆ったまま、ため息をつくカイ。


「うん、てかヤクシャなんて」

「言ったんだ」


 ―――――言葉知らない。と続ける前に、カイにすぱっと切られてしまった。


「はは。随分と息が合ってるな。二人はいつから一緒に?」


 佐藤さんのこの一言をきっかけに、私達はそれぞれ、ここに来た時の状況を話し合うことになった。


 その結果知りえた情報は、

 カイと佐藤さんは直前まで一緒にプレイしていた事。

 カイは私に出会う数時間前にはこの洞窟を彷徨っていたという事(ただ、体感時間なので正確な時間は分からないと言っていた)。

 佐藤さんも、私たちと同じく落雷の音と光と共に、ここに飛ばされて、数時間、中層のごくごく狭い 範囲を行ったり来たりしていたという事。

 その間に出会ったのは敵ばかりで、他のプレイヤーには出会わなかったという事。(いやいや、でも私達が中層にやって来た時、いきなり攻撃してきましたよね。ひょっとして他のプレイヤーも敵と間違えて………なんて恐ろしい考えが頭をよぎったが、その可能性については気付かなかった事にした)

 

 前門の虎に後門の虎。二匹の虎徹に挟まれて行われた報告会は、正直、あまり有益なものとはならなかった。


「とりあえず洞窟を出ようと思うんです」


 カイの意見に、佐藤さんは頷きかけて、ふと動きをとめた。


「しかし、下層に同じように飛ばされたプレイヤーがいるかもしれない」


 確かに、二度ある事は三度ある。というが、三度あることは当然、四度も五度もありそうだもんな。

 佐藤さんのように一人でパニックになっているプレイヤーが居るとすれば、早く助けに向かわなければ精神が持たないだろう。


「それは大丈夫です」


 カイの言葉に私と佐藤さんは同時に、彼の顔を見た。


「一番奥まで降りましたから。そこでオクトをみつけたんです」


 うわお。カイがいなければ一人でパニックになって精神崩壊していたかもしれないプレイヤーは私だったのか。


「最奥まで一人で潜ったのか!?」


 佐藤さんは、信じられないと首をふった。


「ええ、それで、アイギスを連発したもので。佐藤さん、リンデンの余分はありませんか?」

「アイギスを? それは奮発したものだな」


 奮発したのは私がいたからなのかな。ところで、


「リンデンって?」

「MPの回復薬だ」


 回復薬でちゃんと回復するんだ……と、ゲームであれば当たり前のことに私は感心した。

 じゃあ、さっきの毒消しも兎みたいにもしゃもしゃ食べたら毒状態から回復するんだろうか?


「リンデンなら沢山あるよ」


 袋の中から青色の液体が入った小瓶を取り出すと、佐藤さんは「カイは相変わらずアイテムを余分に持たないんだね」と笑って渡す。

 絵の具を溶かしたような鮮やかな液体を躊躇なく飲み干すと、カイは眉を寄せて唇を手の甲で擦った。

 うえ~、苦そう。

 口を歪めて、ごしごしと唇を擦るカイを見ていると、それに気付いたカイにふいと顔を背けられる。


「それ、いい味じゃないよな」


 くっくっと佐藤さんが笑うと、カイはますます顔を反らせて、しまいにはくるりと後ろを向いてしまった。

 薬が苦手なことを恥ずかしく思っているらしい。

 長身強面のヤクシャの姿で、そんな反応をされると萌えてしまうじゃないか。


「アイギスは僕が担当するよ。自動MP回復がついてるしね」

「はい、お願いします。前衛は俺が勤めますので」

「じゃあ、私は………」

「虎徹にへばりついてて」


 なんか、段々と容赦がなくなってきてないか?

 そもそも佐藤さんには敬語なのに、私にはため口ってどうなのよ。

 けっと不満を顔にあらわにしていると、佐藤さんはくっくっと笑って自分の虎徹を指差した。


「じゃあ、オクト君は僕の虎徹に乗るかい。その方がカイも動きやすいだろう」

「はい! よろしくお願いします!」


 こうして私の騎獣は虎徹一号から、なにこれ以下略の佐藤さんが操る虎徹二号へと変わった。

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