71.意外な人々
「妥当やないの。1人と6人、犠牲になるのはどっちが良いかなんて、簡単な算数やんなあ」
満面の笑みでうんうんと頷くと、笑顔のままロクは皆の顔を見回した。
「問題は、誰が人柱になるかっちゅうことやな」
そう言われた時、思わず佐藤さんに視線を向けてしまったのは、言いだしっぺだから、という理由とは別に、やっぱり心のどこかでROの関係者だからと考えていたからだと思う。恐らく同じような理由で、皆の視線を集めた佐藤さんは、唇を噛み締めてから震える声で告げた。
「僕は出来ない」
と。
さっきの台詞が意外なら、今度の台詞も意外だった。
「僕には最後を見届ける義務がある。申し訳ないが、その役は他の方に代わって頂きたい」
土下座しそうな勢いで頭を下げる佐藤さん。
そうか、そんな考え方もあるよなあ。と納得して、けど、だったら誰が………と視線を彷徨わせかけたとき、佐藤さんが苦しげな、けれどしっかりとした声音で言い切った。
「しかし、カイと伊達君、それからオクト君は未成年だろう。危険な役を担わせるわけにはいかない。女性のリカさんもしかりだ」
本当に、ずばり言い切った。言外にだけど。
「ぶっ」
ロクが噴出す。
「俺にやれってか」
つまり、そういう事だよなあ。
怒るかと思いきや、ロクは腹を抱えて笑い出す。
「けっこう言うやん、ソルト」
宇宙人ロクの事だから、楽しみ半分、意外とすんなりOKするのではないかと思いきや、彼は口元に笑みを浮かべ、鋭い視線を佐藤さんに向ける。
「けどお断りやなあ。あんたがやったらええんちゃう。見届けるんは他の奴に譲ったりや」
「出来ない」
負けじとロクを睨み返す佐藤さん。
ああああああああ、決裂したよ。
一寸も視線を逸らす事無く眼光を飛ばしあう二人に、もういっそ「私がやります!」と手を上げようかと思った時だった。
「私が行くわ」
これまた意外なところから声が上がる。
振り返れば、細い指を髪に絡ませたリカ姉さんが「その役、私がするわあ」と妖艶に微笑んだ。
「しかし………」佐藤さんが眉を顰め、「俺が行きます」と伊達が鼻息も荒く挙手するのを見て、リカ姉さんはフフと微笑んでから、がらりとその表情を変えた。
「ぐだぐだうるせえなあ。男ならいいってんなら俺で問題ねえよ」
え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?
「ぎりぎり未成年でもねえし、文句ねえよな、おっさん」
時間が止まったかと思った。
いや、広場を行き来するその他プレイヤーの皆さんを除き、この場にいる私達の時間は確実に止まっていたと思う。
「お……とこ?」
伊達がわなわなとリカ姉……兄さんを指差した。
「ああ? 何か文句あんのか。ネカマなんか珍しくもねえだろうが」
ごもっとも。
リカさんのその魅惑的なボンキュッボンな体はゲームのキャラであるのだから、中の人の性別が違っても全く不思議はない。私だって違うし、シューコちゃんだってそうだ。
でもだからって、こんな異常事態になってまでネカマを貫くか!?
「え? え? まじ?」
いくら荒っぽい言葉ですごまれようと、リカさんの声は女性のもので、信じられないのも無理はない。
「しつこいな。ほんとだよ。本名逸平、職業ホスト」
わお、夜の蝶ならぬ、夜の……なんて言うんだろ?
食い入るようにリカさんの体を上から下へ、下から上へと眺めまわしていた伊達に、リカさんはにやっと笑って、両胸を下から持ち上げて強調してみせた。
「ああん? そんなにこの体が好きなのか? 触らせてやろうか?」
大きく開いた胸元から、今にも零れ落ちそうな乳房が、リカさんの指の動きに合わせてたぷんと揺れる。
「なっ!? いっ、ばっ! やっ………いいっす」
「なに言ってんだ。馬鹿、止めろ」と言いたかったんだろうか。真っ赤になって私の背後に隠れるように後ずさる伊達。カイまで色づいた顔を手で覆い視線を逸らしている。この純情ボーイズめが。
「おら、決まったんだからさっさと行こうぜ。虎徹とコアトールカに分乗してきゃ、すぐ着くだろうよ」
男前なリカさんの発言に一同は揃って黙したまま首を縦にふった。