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70.火星人の目にも涙

「黙っていて申し訳ない」


 深く頭を下げると佐藤さんはそのまましばらく動かなかった。

 誰も、何も言わなかった。

 カイは相変わらず噴水を眺めているし、ロクはにやにやと笑いながら佐藤さんを見ているし、リカ姉さんは小さくため息を吐いてから、髪先をいじって枝毛を探す素振りをしている。

 私と伊達ははらはらとその様子を見守っていた。

 いつまでたっても頭を上げようとしない佐藤さんに根負けしたのか、リカ姉さんが髪を掻き揚げ、今度は大きく息を吐いた。


「で?」


 リカ姉さんは佐藤さんの頭を指先でぴんとこづく。


「どうして黙ってたの? とでも聞いてほしいの? それとも、あんたのせいじゃないの。責任取りなさいよ。とでも詰め寄られたいの?」


 ようやく佐藤さんが顔を上げた。困惑したようにリカ姉さんを見上げる。


「開発だからって何なのよ。あんたがこの事態を仕組んだわけでもないんでしょ?」


 くだらないとばかりに吐き捨てるリカ姉さん。

 佐藤さんは耳を伏せて、また「申し訳ない」とこぼした。

 あー、丸く収まりそう? ひょっとしたら皆も、佐藤さんがROに何らかの関わりがあると気づいていたのかな? 伊達と目を合わせて頷きあう。ところがやはりというか、ロクが口を開いた。


「でもまあ、一応聞いとこか? 何で黙ってたんや? あと、心当たりな、頼むで」


 流そうよ、そこは。


「黙っていたのは、僕にも事態がさっぱり把握出来なかったからだ。どうしてこうなったのかも、帰る方法も分からなかった。僕の立場を告白する事で、皆に期待をさせるのも、期待を背負うのも辛かった。………勿論、糾弾されるのも怖かった。僕達が作ったゲームでこんな事になってしまったのだから、責任がないとは思っていない。でも、それ以上に過剰に信頼されはしないかと不安だったんだよ」


 話しながら、一度上げられた佐藤さんの顔が、またどんどんと俯きになっていく。


「何や、結局逃げたっちゅうことか」


 うな垂れる佐藤さんに、ロクが辛辣な言葉で追い討ちをかけた。

 カイが噴水からロクへと視線を移し、伊達が佐藤さんを庇おうと一歩前へ足を踏み出しかけた時、ロクの怒声が響いた。


「この、馬鹿野郎!」


 いつも飄々としているロクからは想像もつかない声だった。


「なーにが、期待されるのが辛いだ。信頼されるのが怖いだ。肩書きだけで皆が皆お前を信じて頼って動くと思うんか。お前が頼られ、信じられることがあるとしたら、それはお前がそれに値する奴やと感じたからや。肩書きのせいでも、立場のせいでもない。周りの奴はお前が思ってる以上に、お前をよく見とるわ。見くびんのも大概にしとけや」


 佐藤さんを睨みつけて、肩で息をするロクを皆、目を丸くして見ていた。

 こいつ、誰? 宇宙人がまともな事………それもどちらかと言えばちょっとくさめな台詞を吐いちゃってるよ。いきなりのキャラチェンジに驚く私達を前に、2、3度大きく息を吸って呼吸を整えると、ロクはにやりと笑う。


「反対言うと、信用も信頼もされんかったら、お前がそれに値せん人間やっちゅうことやけどなあ」


 ロクは頭の後ろで腕を組むと、ぶらぶらと歩き出した。


「あー、阿呆らしい事言うてもうたわ――――おい、何をぼさっとしてんねん。さっさと女神の泉とやらに行くで」


 振り返りながら声をかけたロクは、すっかり元の飄々とした態度に戻っていた。

 えーと? ロクって実は良い奴? と単純には思えない。テンポーに村に置いて行かれた恨みはそうそう簡単に晴れるものではない。

 私は1人で歩き出したロクの背中を眺めて戸惑っていた。

 後をついて行くべきなのだろうけど、追えない。というか追いづらい。


「ちょっと、待って下さい」


 誰もついてきていないというのに、どんどんと門へと歩くロクをカイが呼び止めた。


「なんやあ?」

「泉に行ってどうするつもりですか。可能性があるというだけで、帰れると決まったわけじゃない。一か八か皆で飛び込んでみるとでも?」


 面倒そうに振り返ったロクはカイに呆れたような視線を投げかけた。


「細かい奴やなあ」


 いや、確かにカイは細かいが、そこはロクが大雑把過ぎるだけだと思う。


「そうよねえ。泉に入っても何も起こらないってだけならまだいいけどお、取り返しのつかないことになったら大変よねえ」

「取り返しのつかねえことって?」


 伊達が首を捻る。


「そうねえ、例えば別の場所に飛ばされちゃうとか、レベルを1にされちゃうとか、帰れずに本当に死んじゃうとか。何が起こるか分かんないわよねえ」


 リカ姉さんの推測に鳥肌が立った。

 全員レベル1でばらばらの場所に飛ばされた挙句戦闘、自分で自分に合掌………なんて嫌だな。


「………試験台を誰かに引き受けてもらわねばならないと思う」


 え? 私は己が耳を疑いながら、声の主を見た。

 小さな彼を見るために視線を落とせば、青い顔をした(見た目)幼女が肩を震わせて拳を握り締めている。


「あんた虫も殺さないような顔して言うわねえ」


 確かに、この中で一番言いそうにない人だと思ってた。

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