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56.自己犠牲反対!

 私が根に寄りかかって頭の中で響く音をやり過ごしている間も、カイは動きを止めない。太もものベルトから素早く三本のナイフを引き抜くと、それを残る三体へと向かって投げつけた。

 怯んだ赤の横を駆け抜け、地面に落ちていた槍を拾う。体の角をナイフが掠めていった赤は怒ったようにカイの後を追った。

 カイはしゃがんだまま、己の右脇横を通し、振り返りもせずに背後に迫る赤へ刃先を突き入れる。

 目を見張るような神業だが、視認出来なかった為に狙いが定まらなかったのだろう、わずかに核から刃先が逸れた。

 槍を赤の体内に刺したまま、一旦柄から手を放すと、くるりと反転してそれを持ち直す。一気に槍を引き抜き、至近距離から繰り出された突きは今度こそ核の中心を貫いた。

 また、大爆発でも起こるんじゃないかと耳をふさぐが、赤い敵はでろりと溶けて地面に沁み込む。

 これで2体。

 墨色の氷がカイに突進する。しかしカイはそれを無視して走り出した。

 次にカイが狙いを定めたのは、頭上でふよふよと浮かんでいた青い液体を持つモンスターだった。

 真っ直ぐに青のところには向かわずに、右回りに根で仕切られた空間の中を走り、墨色の氷を引き離しつつ、だんっと壁の役割をしている太い根の一つに蹴り登る。

 さらに、だんっ、だんっ、と2度根を蹴り登り、体を捻って浮遊している青の核を燃える槍で捉えた。

 ぼっと音をたてて、水のように見えた青が燃えがる。

 燃えながらも青の核は槍を加えたまま放さず、カイはつかの間、槍の柄を握った格好で、空中に宙釣りになった。

 身動きのとれないカイに墨氷がきらきらと光る氷柱のような物体を放つ。


「カイッ!」


 私は思わず根の裏から身を乗り出して、叫んだ。

 カイは反動をつけ、柄を中心に一回りして光る礫をかわす。

 と、青が燃え尽きて槍が傾いだ。

 体勢を整える暇を与えられず、カイが背から落下する。

 私はその下に駆け込みカイの体目掛けて腕を広げた。

 ずんっ、と負荷が腕にかかる。危うく取り落としそうになりながらも、なんとか受け止めることに成功した。

 一般成人男性より二周りはでかいヤクシャのカイをお姫様だっこである。

 つくづくオクトの体は凄い。


「ちっ」


 え? 

 カイの危機を救って悦に入る私に、しかしカイはあからさまに嫌な顔をすると、素早く腕から抜け出る。

 今、舌打ちした?

 呆然とする私を強引に腕で押して、自らの背後に庇うと、カイは墨氷と対峙する。

 墨氷は光の粒を撒き散らしながらゆっくりと回転を始め、徐々にそのスピードを増していく。


「カイ、庇ってもらわなくても、大丈夫だし……」

「どうして出て来た!」


 そりゃあ、お役に立ちたかったからだけど……。


「アイギス」


 きんっと周囲に薄い膜がはる。


「走って!」


 根の裏に、という意味だととって、私はカイの背中から、一目散に元いた位置目掛けて駆け出した。

 あれ?

 なにかおかしい。

 薄い膜が私の周囲を変わらぬ距離を保ちながら覆っていた。

 私はばっと背後を振り返る。

 やっぱり!

 カイの周囲にアイギスはない。

 カイは自分じゃなくて私にアイギスをかけたのだ。

 ――――どうして

 私は敵に認識されないのに、どうして!?

 思わず叫び声を上げかけて、飲み込んだ。

 ………分かっている。カイは万一を警戒しているんだろう。

 今まで敵に認識されなかったからといって、これからもそうだとは限らない。

 倉庫で始まるはずが久遠の洞窟で目覚め、名前は表示されず、敵に認識されない。そんな変則だらけの私が、この先、またどんな異常に見舞われるかなど、誰にも分からないのだから。

 敵に認識されないと分かった直後からカイは一撃死の可能性がある場所ではアイギスをかけると公言していた。だからって、自分にも危機が迫っている時に、私にアイギスをかけて、自分から離さなくてもいいじゃないか!!

 こんな風にして守ってもらってもちっとも嬉しいとは思えない。

 墨氷の回転はすでに目で終えない程にスピードを増している。周囲に飛ばされる飛沫が増えた。

 頭の奥で警戒音が鳴り響いている。

 あれは駄目だ。あの墨氷は危険だと。

 ざりっと土を踏みしめると、私は方向を変えて、カイの元へと駆けた。

 足音に気付いたカイが振り返り瞠目する。

 私はカイに飛びつくようにして抱きついた。

 パリンと何かが割れる音を聞いた。

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