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51.最弱争い

「まあ、足手まといになんないように頑張りなよ、伊達君」

「……くそっ。お前に言われる日が来るなんて」


 にんまりと笑めば伊達は地団駄を踏み出しそうな勢いで悔しがった。


「ぐあーっ、腹立つ!! 言っとくが久遠の洞窟に出てくる敵は、ショートソードじゃ傷一つ負わせらんねえからな!」


 うっ、ダメージ1ずつでも負わせられればいつかは倒せるけど、やっぱ久遠の洞窟に出る敵には1も無理なんだろうか。


「ちょっとお、またお子様組が漫才を始めちゃったじゃないのよ。で、どうすんの? 無窮の王に挑むならさっさと行きましょうよお」


 リカ姉さんが呆れを隠さない眼差しを私たちに向けた。


「はは、若い子は元気があっていいねえ……ほんと、羨ましいよ。さて、他に意見がないようなら、無窮の王に行ってみるか」


 タスクさんが皆を見回す。

 パーティのお役にも立てない若輩者に過ぎない私に、発言権はないと思っている。何と言ってもRO初心者だし。

 タスクさんとて、恐らく私や伊達やカイの意見よりも、佐藤さんやリカ姉さん、ロク辺りの同意を得たいのだろう。

 ところが、その年少組のカイが重い口を開いた。


「無窮の王は………やめておくべきです」


 思いがけない反対意見に、タスクさんは驚いたようだ。

 理由を促すように、タスクさんはカイに視線を向けた。


「無窮の王は……まだ、誰もクリアしたことがありません。クリア後、どんなイベントがあるのか分からない。危険だと思います。―――そう思いませんか? 佐藤さん」


 タスクさんがはっと息をのみ、そこにない眼鏡と格闘していた佐藤さんは、名前を呼ばれてきょとんとして顔を上げた。


「俺は無窮の王に挑むのは反対です。佐藤さんは?」

「あ、ああ、すまない。えーと、無窮の王だね。―――無窮の王!?」


 佐藤さんのしっぽがぴんと伸びる。


「駄目だ。あそこは駄目だよ。他から当たっていくべきだと……僕も思う」

「そうか……クリア後のイベントか。確かに、あそこはやめておくべきかもしれない」


 えーと、会話についていけないのだが、事前知識がないので、やめておこうってカイの意見に、佐藤さんとタスクさんがすごい勢いで同調したと、そいう事なのだろうか。


「皆して怖気づいちゃったわけえ?」


 リカ姉さんが眉をしかめる、その気持ちは分かる。私も内心、首を捻っていた。佐藤さんはともかく、タスクさんも意外と慎重派なんだ? と。


「ほんなら安全第一で、近場から回っていこかあ? ついでに、ソルトの言っとった自分らが今までプレイしとったROと、今俺らがいるROの違いも、並行してチェックしてったらええんちゃう」


 協調性は無いに等しいと思っていたロクがきれいに纏めると、皆はそれぞれの反応を確かめ合いながら頷いた。勿論私も、話し合いに知恵を絞る気などさらさらなかったが、いかにも真面目に参加していましたという顔をして、首を縦にふっておく。

 右を向けと言われれば向くし、白だと言われれば黒いものも白だと言うのが、新米の務めだろう。単に責任を負いたくないからとか、考えるのが面倒だからではない……とは言えないけど。


「では、ここ、コラン大地から行こう。コランのボスはホデリ山と、ホオリの塔、ホスセリの社の三つだね。手分けして……と行きたいところだが、万一いずれかのボスクリアが鍵になっていると拙いかなあ」

「ええんちゃうかあ。刻限決めといて、戻ってこん組がおったら、他の二班が合流して向かったらどうや」

「うーん、出来るだけばらけるのは避けたいところだが……」

「そんなんしとったら、あんたらの体ひからびるんちゃう。帰れたとしてもミイラになっとんで」


 リカ姉さんがぶるりと身震いして体を抱きしめる。


「しわしわになるのは嫌だわあ」

「それからなあ、ほれ、見てみい。もうイーシェが登る。ホデリ山のボスは、夜間はアンデッド系になるし、ホオリの塔は内部が相当くらなるし、ホスセリの社はトファルドがおる間しか出現しいへん。さっさと組決めて、今晩は宿屋で英気を養っとこや」


 ロクが背後に広がるロップヤーンの町並みを肩越しに親指で示す。


「それこそ悠長な。二組に分かれてだね、ホデリには聖者のリカさんにあたってもらい、ホオリはルーチェでしのいで、翌朝に皆でホスセリに―――」

「嫌よ」


 タスクさんの言葉をリカ姉さんが強い口調で遮った。


「え?」


 タスクさんが眉を上げてリカ姉さんを振り返る。


「アンデッド系の敵はぜーったい嫌。どっちにしろ明日の日中までかかるんだし、ロクの言うように、今日はここで休みましょ。装備の整備とか、アイテムの生成とか色々とやる事もあるでしょお」


 相変わらずリカ姉さんは我が道街道を驀進中だ。


「体が干からびてもいいのかい?」


 タスクさんがやれやれと肩をすくめる。


「確かに女性のリカさんに、アンデッドは酷かもしれないね。日中ならホデリ山は一番近場なだけでなく、一番簡単なダンジョンでもあるし、そうだね、オクト君と伊達君、タスクさんの3人で、それからホオリには……」

「ホオリはカイとリカで行ったらどうや」


 佐藤さんの提案をロクが横から浚う様にして引き継いだ。


「ソルト、あんたの虎徹、貸したり。ほんで一番遠いホスセリは俺のコアトールカで、俺とソルトで行こか」


 ちょっと強引な気がしないでもないけれど、取り立てて反対する理由も無い。

 明日の朝一に広場に集合と取り決めて、座談会はお開きとあいなったのだった。

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