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49.3年B組佐藤先生

「いい加減にしてくれないか。呪いだのなんだのと、荒唐無稽もいいとこだ」


 長い尻尾はぴんと伸びて猫じゃらしのように毛が立っている。佐藤さんが心底怒っている証拠だ。


「荒唐無稽もなんも、今のこの状態が常識じゃ在り得へんねんからなあ。呪いなんてない~なんて、そんなお堅い頭じゃ、解決するもんもせえへんでー」


 両手を頭の後ろで組んでロクはのほほんと言い放つ。

 その間延びした言い方と態度は、最早佐藤さんの怒りを煽っているようにしか見えない。


「サービスの開始を見られなかったからと言って、自分が手がけた作品を無茶苦茶にしたいと願う開発がいるものか!」

「そんなん分からんやろ。会社にこき使われて、恨みがたまっとったかもしれんやないの」


 ロクはあざ笑うように佐藤さんを見た。


「違う」


 佐藤さんは拳を振るわせて、そんなロクを睨みつける。


「違う違う! そんな訳が―――」

「佐藤さん!」


 今にもロクに掴みかからんばかりの佐藤さんの肩にカイが手をかけ、素早く耳元に顔を寄せる。「落ち着いて下さい」と静かに宥める声がした。

 唇を噛み締めた佐藤さんが、ロクから視線を外して俯くと、カイは立ち上がった。


「あんたも、呪いだと決め付けるような発言は謹んでくれ。未だ何も分かっちゃいないんだから」

「俺はなんも決め付けてへんでえ。そういう可能性もあるっちゅうてるだけや」

「そう願いますよ」


 どこまでもおどけた調子を崩さないロクにも、カイは煽られる事無くさらりと流す。

 その傍らで怒りを必死に静めようとしている佐藤さんが、いたいけでいたいけで……。ロクVSカイ&佐藤さんの構図に不覚にも萌えてしまった私は、ひょっとして腐女子だったのだろうか。

 シリアスなシーンで1人にやけてしまった己を恥じていると、それまで傍観に徹していたタスクさんが、「ちょっといいかな?」と手を上げた。


「ロクさん、だったかな。開発スタッフが死んだって話だが――――情報源はどこなんだ?」


 それは私も気になっていた。


「なんや、交流サイトやら掲示板やらでちらっと見た事があってなあ。まあ早い話がネットの噂やな」


 なんだソースは噂話なのか。一気に信憑性が落ちたじゃないか。


「そうか――――」


 そう言うとタスクさんは顎に右手をかけて、また黙り込んでしまった。

 あああああ、司会進行役が………。

 リーダーシップをとってくれそうな佐藤さんとタスクさんが共に沈黙を貫いてしまうと、誰も発言する者がいない。

 私はちょいちょいと伊達を肘でつついた。


「ちょっと、あんた何か言いなよ」

「は? なんで俺」

「空気読まないの得意でしょ」

「どんな特技だよ!」

「このさい懐中電灯でも何でも良いから、何かないの?」

「お前、俺を生贄にする気か……」


 こそこそと二人で言い合っていると、は~あと大仰なため息が聞こえた。


「ちょっとお、話が進まないじゃないの。お子様組にいつまで漫才やらしとくつもりい」


 怖いもの知らずの発言は言わずとしれたリカ姉さんである。

 伊達と一括りで、『お子様組』扱いには異議有りと唱えたいが、我が身が可愛いので黙っておく。


「………すまない。話を続けよう」


 佐藤さんの声はまだ苦々しげだ。それでも己を律して懸命に前を向く幼女の姿は、中身は佐藤さん(推定25~35歳男)だと。どれだけ言い聞かせてみてもいじらしく映ってしまう。


「落雷があり、自キャラの姿になっている。オクト君以外はプレイ時に居たマップスタート。開発スタッフが亡くなったという噂と、ROが呪われているという噂が存在する。他には? なんでもいい、気付いた事はないかな?」

「あ………はい。あります」


 佐藤さんの問いかけに、私はさっと挙手する。


「どうぞ、オクト君」

「えーと、お腹がすかない、排泄がしたくならない、あと、宿屋に泊まると睡眠を必要としますが、マップ上だと夜でも眠くなりません」


 喋り終えると佐藤さんはこくりと頷いた。


「その通りだね。僕らの体はROの法則に則り動いているようだ」

「この体がどうやって動いているのか知らないけど、便利といえば便利よねえ。少なくとも餓えを危惧しなくて済むんですものお」

「確かに。タイムリミットは現時点ではほぼ無い。と考えられるね」


 リカ姉さんが長い髪を指で弄びながら口を開くと、タスクさんがふむと腕を組む。


「いや、タイムリミットはあるかもしれない」


 しかし、その意見に佐藤さんが異を唱えた。


「メンテナンスだよ。毎月第4火曜日の午前9時から午後7時まで、定期メンテナンスが組まれている」


 しんと沈黙がおりた。


「……ちょ、ちょっとお! 今日は何日よ。第4火曜日まであと何日あるわけ!?」

「メンテナンス!? そうか。定期メンテがあったか。いや、もし、緊急メンテがあったらどうなるんだ」

「まじかよ。俺達消えちゃうわけか!?」


 リカ姉さんが口火をきると一気に焦りが広がり、タスクさんと伊達が次々に不安を口にした。


「今月の第4火曜日は25日。こうなる前に、最後に見た時計の時刻は、7日金曜日の午後10時18分だった。RO内で二昼夜と数時間を過ごしているから、長めに見積もって15時間が経過しているとして、今は8日土曜日の午後1時から2時の間。16日と17時間から18時間の猶予がある。緊急メンテについては発売開始から1週間後に1度あったきりでそれ以降はない。懸念から除外していいと思う」


 どんな時でも細かく数字を数えているのは勿論カイだ。私がNPCならカイはさしずめGMじゃなかろうか。

 16日もの猶予があれば、まだまだ余裕があると息をつきかける皆に、私は恐る恐る口を開いた。


「あのー。この体はお腹が空かないからいいとして、本来の体はどうなるんでしょうか………」

すみません、副題は超適当です

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