44.それぞれの道
「ご苦労様。いやー。面白かったね。攻撃は通じる。相手には認識されない。か、これで攻撃力さえ揃えば向かう所敵無しなのになあ。惜しい、惜しい」
ごつごつとした頬を撫でながら歩み寄ると、『ザ・他人事』な台詞を吐くタスクさん。
「そうよねえ。攻撃力さえ伴えばねえ」
「攻撃くらわねえのはいいけどよ、ちょっと防御力の高い敵が出てきたら向こうもくらわねえな」
ぐっ、真実とはいえ、ずけずけと。
「いや、でもやっぱり最強といえば、最強かなあ。何をしても気付かれないんだし、」
隠密ミッションがあれば、そこいらのお庭番より役に立つ自身があります!
「但し、単独行動に限るけど」
「そうねえ、パーティの一員としては役立たずよねえ」
もういじけてもいいだろうか。
カイの足枷にならなくなった。それで充分じゃないか。うん、一瞬でも下克上とか最強だなんて夢見た自分が悪かったんだ。アイギスいらない。リンデン節約。それでいいじゃないか。………こんちくしょおおおおおお。
どうせならカイやサトウさんみたいに華々しく活躍したかったよ。
「今、攻撃を受けないとしても気はぬかないで。あんたを認識する敵がいないと決まったわけじゃないし、いつまでもその状態が続く保証があるわけじゃない」
カイが淡々とした声音と冷静な判断で追い討ちをかける。
「でももうアイギスはいいからね」
カイはこくりと頷いた。
「わかった」
お、過保護脱却?
「一撃死の危険が無いところではかけない」
でもなかった。それじゃあ、なんも変わってないじゃん!
「さーて、そろそろロップヤーンに向かおうか。大分時間もくってしまったし、佐藤さん? も首を長くして待っているだろうしね」
タスクさんの言葉に頷くと、私達はイナバの生息地を後にしたのだった。
何も変わらない、とは思ったものの、やっぱりちょっとは違う。
カイのアイギスはなくなったし、私はのびのびと動き回れるようになった。
一番弱い伊達の援護をするべく後ろをついて回ったら、ちょろちょろするなと言われたので盛大にうろついてやった。
今の私に怖いものはない。
お荷物が軽くなったせいもあってか、旅は超がつくほど順調に進み、今、私の目の前には憧れの街が広がっていた。
宿屋だけのテンポー村とは違う。
様々な施設が揃った、大きな街だ。
なにより、なにより、倉庫がある! ああ、やっと会えるんだ。マイ初期装備、皮の服に!
期待に胸を膨らます、私の側で、「おおー、やっぱでけえな。武器屋と鍛冶屋は使えんのかなあ」などとこぼしながら伊達が街の門を見上げている。
「まずはベッドで休みたいわあ。それから服の新調ね。飽きちゃったわ」
リカ姉さんがぴらりとスリットの端を摘みあげる。伊達が前かがみになりそうなので勘弁してやってください。
「佐藤さんはどこにいるんだろうね」
「メインボード前だと思います」
タスクさんの問いにカイが答え、とうとう私達はロップヤーンの街へと足を踏み入れた。
「うわあ。これ全部NPC?」
様々な種族の様々な格好をした人々が、一定の範囲を行ったり来たりしている。
「そう」
そっけないカイの返答に、今更ながら肩を落とす。
これが全部プレイヤーだったら、どれほど気が楽だったか。
試しに近くのヒューマンの子供に話しかけると、「北の砂漠にはでっかいミミズがいるんだって! いつかつかまえてやるんだ」と言われた。
いや、絶対にやめといたほうがいいよ。と忠告しても子供は、
「北の砂漠にはでっかいミミズがいるんだって! いつかつかまえてやるんだ」
むりむり
「北の砂漠にはでっかいミミズがいるんだって! いつかつかまえてやるんだ」
虫かごには入んないから
「北の砂漠にはでっかいミミズがいるんだって! いつかつかまえてやるんだ」
あんたが捕まっちゃうよ。このがきんちょめ。
と非常に聞き分けがない。
再度忠告してやろうと口を開きかけると、ぺしっと後頭部を誰かに叩かれた。振り返ると、伊達が呆れた目で私を見下ろしている。
「お前、何やってんだよ」
「見てわかんない? NPCと戯れてんの」
「不毛なやつ」
「我ながらそう思う……って、あれ? 皆は?」
何時の間にか、3人の姿が消えている。
「カイとタスクさんは佐藤さんを呼びに行った。リカさんはちょっと散策してくるだとよ」
「リカ姉さん……どこまでもゴーイングマイウェイだな」
ぽそりとこぼすと「お前もだろ」と伊達はため息をついた。