42.過保護な野獣対男前な野獣
名前が表示されないのはどうでもいい。けど相手の名前が見えないのはちょっと不便。
洞窟スタートは鬼だと思う。そのおかげでこんな格好なわけだし。
でも、でも、タゲられないってのが本当なら、すっごい嬉しい! 敵を攻撃しても向こうから私は認識されないなんて―――――。
あれ? ひょっとして私最強なんじゃ?
これは、これは、下克上キターーーーーーー!?
「それにしてもどうしてタゲられないんだろう? 名前なし……タゲなし……うーん、まるでNPCみたいだなあ」
「あらあ、私もそれを考えてたの。オクト、あんた本当にプレイヤー?」
え、まさかの人間否定?
「プレイヤーです。住所も氏名もこれまでの人生もちゃんと覚えてます! 正常です!」
これが噂のチートかと浮かれる私に、タスクさんとリカさんが水をかける。
人間だったという記憶まで捏造で実は―――――なんて落ちだったらどうしよう。
思い浮かべればはっきりくっきり脳裏に浮かぶ父母や愚弟の姿、家の様子が虚構だったら怖いんですけど。
「んな、NPCが居たら嫌すぎだな」
伊達が半眼でじろじろと私を眺め回した。悪かったな!
「そうだねえ」
うんうんと頷くタスクさん。ちょっとそれ、どういう事ですか!?
「NPCかどうかは置いておくとして、ちょっと次にエンカウントしたら試してみない?」
リカ姉さんが赤い唇を蠱惑的に吊り上げた。怖すぎる。
「試すって?」
恐る恐る問えばリカ姉さんはにっこりと笑みを深めた。
「あなたを敵の目の前に置きざりにして攻撃を受けるかためしてみるのよお」
あっさりと非道な提案をしてくれる。
「そうだねえ、白兎が単体で出てきた時を狙うか。万が一攻撃を受けても一撃くらいなら耐えられるだろうしね」
「死なねえ程度に頑張れよ」
伊達がぽんと私の肩を叩いた。
「ちょっと、待っ―――――」「待って下さい」
どんどんと進んでいく話に待ったをかけようと上げた私の声にカイのそれが被さった。
「攻撃を受けないならそれはそれでいいじゃないですか。誰かの枷になるわけじゃないし、わざわざ危険を冒して試さなくてもいいんじゃないですか?」
友よ!
両手を組んで熱くカイを見つめるマッチョは傍から見れば不気味だろう。
「あらあ、なってるじゃない。坊やの」
切れ長の瞳がカイを見据えた。
「魔道士でもない坊やにアイギス連発は負担でしょう?」
「―――――リンデンがあります」
カイは静かに反論したが、唇を噛み締めたその間が、リカ姉さんの言葉を肯定していた。
私は俯いて拳を握り締めた。洞窟で出会ってから千古平原で別れるまで、ずっとカイやサトウさんには負担をかけていた。その次は伊達に。
リンデンがなくなったら? もしもまた、カイや皆と(主にロクのせいで)はぐれてしまったら? ノスフェラトゥ級の敵が出てきたら?
単なる裸族レベル1じゃなく、ターゲットにされないレベル1の方がいいに決まってる。
私は顔を上げてリカ姉さんを見た。
「やってみます」
「オクト!」
カイが腕を掴む。ぐっと引き寄せられて、肩がカイの胸に当たった。
「そんな必要はない」
暗赤色の瞳が険しく細められ、リカ姉さんを射抜いた。
何もしていなくても思わず土下座してしまいたくなるカイの眼力にも、リカ姉さんは一歩も引かなかった。
「ねえ、森の中で私が言った事。もう忘れちゃったのお?」
ぎりりとカイが歯を鳴らした。腕を掴んだ指がきつく食い込む。痛いっす。
「盛り上がってるとこ、申し訳ないんだけど、ちょっといい?」
緊迫した空気を破るどこか楽しげな声に振り返れば、タスクさんがひらひらと上げた手を振っていた。
「アイギスをかけて試せばいいんじゃないのかな?」
「…………あ」




