40.究極の回避方法
7人。
コアトールカから見た地上の景色にプレイヤーの姿はなかった。
伊達と過ごした時間もしかり。
だからプレイヤーの数はきっとかなり少ないのだろうと検討はついていた。
でも、タスクさんやリカさんに会って、ひょっとしたら今まで会えなかっただけで、思ったより仲間がいるのかもという気持ちが芽生え始めていた。
ロップヤーンにつけばたくさんのプレイヤーがいて、そうしたらきっと、私とは頭の出来の違う人や、カリスマ性に溢れる人や、何でも仕切ってしまうような人が、原因だか何だかを究明して、でも解決するにはたくさんの困難があって、皆で力をあわせてみたり、時にはぶつかってみたり、お約束の裏切りがあったり―――。でもってすったもんだの末に皆の結束が強まって、幾多の苦難を見事乗り越え涙涙の別れの時。気がつけば私は部屋のベッドの上で、夢だったのか夢じゃなかったのか、なんて悶々としているところでカメラが引いて、ベッドの下には蝶ネクタイとシルクハットが―――――ってとこまで妄想してたのにいいいいいいいい。
なに、この展開。がっかりだよ。がっかり過ぎるよ! 何とか漂流記だって私達の倍はいたっつーの! ロップヤーン到着後は、メインプレイヤー達の葛藤や愛憎を指咥えて眺める空気キャラで、エンディングロールでは下から数番目って位置を確保するんだって決めてたのに。7人だったら一番下でも、一桁じゃん。つーか、物語中盤で殺られちゃうキャラ位置じゃない!? もう生き残る道はコックに転職して美味しいオムレツの作り方を遺言として残すぐらいしか思いつかないよ。
「7人か。はは、覚悟はしていたつもりだが、いざ聞いてみるときついもんだね」
タスクさんが力なく首を振り、
「ねえ、その佐藤って人とロクって人の種族はなに? ギガスとリョースとシュージュはごめんよお」
リカさんが物凄く逞しい発言をかまし、
「7人か。思ってたより少ねえな。おい、何ぶつぶつ言ってんだよ。まじで大丈夫かお前」
伊達が私の頭をつついた。
うるさいな。今私はコアトールカの卵でどうやって美味なオムレツを作ろうか思案中なんだよ! と考えてはっとした。
「そ、そういえばロクは!?」
カイの冷たい瞳が私に向けられる。
「さあ? 一応上空から探すって言ってたみたいだけど。あと、佐藤さんはロップヤーンで待機してもらってる」
さあって、さあって………。
ロップヤーンで合流したであろう3人の間で、どんな会話がなされたか、考えるだけで心臓がきゅっと縮みそうな気がした。
「とにかく、ロップヤーンで佐藤さんと合流しよう」
あー、もうロクの存在は無視なんですね。
佐藤さんは怒らせると鳥肌が立つ怖さだ。けどすぐに氷解する。でもカイは怒らせるとしつこそう。早くも仲間割れとは、7人しかいないのに前途多難すぎる。
「ほら、早く虎徹に乗って」
「や、でも、全員は乗れないでしょ? ここらの敵なら逃げれるし、私も歩くよ………」
再び顎で促され私はおずおずと声を出した。
触らぬ神に祟りなし。怒るカイには触らないに限る。
「ちょろちょろ逃げ回られた方がカバーしにくい」
すっと目が細められる。カイが苛立っているのは誰の目にも明らかだった。
「いいですよね?」
カイの問いは何故か私ではなく伊達に向けられる。
「お? お、おう?」
いきなり許可を求められ、伊達は面食らってオットセイのようにこくこくと頷いた。なんで俺に聞くんだ? という視線を私に寄越すが、私だって分からない。
険悪な雰囲気が漂う中、動き出すことも出来ずに立ち尽くしていると、ぐっと腕をつかまれた。弾みで伊達の帯がするりと手から放れていく。
「ちょっとお。あんた、それはないんじゃないのお?」
アンニュイなリカさんの声が場に割って入った。
「オクトは自分で歩くって行ったのよ? あんたがその子の何なのかはしらないけどお? 相手の意思も尊重出来ないんじゃあ、すぐに駄目になっちゃうわよ」
おおお、なんというか、経験者は語る的な説得力がありますな。リカ姉さん。でも駄目になるって何が?
「それにい。本来の性別がどうであれ、今この場の女は私だけなの。わかる?」
リカさんはさらりと長い髪をかきあげる。
せっかくの名台詞がおかしな方向に転がりそうな気がして頬が引き攣った。ついでに胃も引き攣った。
「つまり、私を乗せるのが紳士として取るべき道でしょお」
あああ、ある意味天晴れです。空気を読めないわけじゃないだろうに、あえて我を押し通すその根性。肉食系の上に鋼鉄の心臓の持ち主のようだ。
さも当然と言い放つリカさんに反論を口にするものはいなかった。
カイは眉を上げてちらりと後方、つまり私を見ると小さく息を吐いた。
「ごめん。ロクから行方が分からないって聞いて、ちょっと焦ったみたいだ」
「え、いや、うん。その……心配かけてごめん?」
なんで疑問系になっちゃったんだろう。
自分でもよく分からない。裸族で、レベル1で、池に落っこっちゃうような馬鹿だけど、年下のカイにそこまで心配してもらわなくても。と思ったり。心配してくれて嬉しい。と思ったり。胸の中でぐるぐると不透明なものが渦巻いて自分の気持ちが分からなかった。
カイは腕を掴んでいた手をぱっと放し、「どうぞ」とリカさんを振り返る。
「聖者……ですか? 虎徹には?」
「聖者のレベル72よ。1人で乗れるわ」
その言葉にカイがほっとしたように見えたのは気のせいだろうか? いや、きっと気のせいではないだろう。
うら若き男としては、官能的なボン・キュッ・ボンバディに密着するのは緊張するよね!