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30.後ろ向きな前向き

 轟音が響き渡る。

 私は肩から砂の上へと倒れ込んだ。

 すぐさま体勢を立て直して振り返ると、デューネレーゲンヴルム目掛けて刀を振りかぶる伊達が目に入る。


「雷電」


 バチバチと耳障りな音を立てて雷が刀の刀身にまとわりついた。

 伊達は両手で握り締めた刀を振り下ろした。

 岩に激突し目を回していた砂ミミズの太い胴に刀がめり込む。砂ミミズの体がびくりと大きく跳ねた。

 渾身の力が込められていたであろう刀身は、しかし巨大ミミズの表皮を斬ったに過ぎなかった。

まあ、その分雷が全身に回ったらしく、ビリビリと尻のあたりがむずむずするような音を立てながら、のた打ち回ってるけど。

 伊達は滑らせるようにして刀をひくと、間をおかずにニ撃目を繰り出す。さらにもう一太刀。さらにもう一太刀。次々に刀を繰り出す伊達の姿は舞を舞っているようだった。ニ振りあればもっと様になっていたのだろう。うーん、惜しい。

 目を回しているのか、痺れているのか、巨大ミミズは、伊達の攻撃に会わせて体を痙攣させるだけで、未だその巨大な体を砂の上に横たえている。

 よしっ、今ならいける?

 私は傘を握り締めてそろそろとデューネレーゲンヴルムに近づいた。


「とりゃっ」


 振り下ろした黒い蝙蝠傘は、ミミズの表面でバネのように弾かれる。


「うわっとっとっ」


 そのあまりの反動にたたらを踏んでなんとか踏ん張るも、傘を掴んだ腕が頭上へと持っていかれるのを止めるのは叶わなかった。


「なにこれ、ボヨンボヨン」


 極太のロープじゃなくて、激太のゴムだ。


「切れ味の低い武器じゃ無理だ。下がってろ、死にてえのか。馬鹿」


 ……………。

 これがカイや砂糖さんに「下がってて。死ぬよ」とか「危ないから、下がっててね」なんて、余裕綽々に言われたら大人しく引き下がったと思う。

 でも、息を切らせて我武者羅に刀を振り下ろす伊達にまかせっきりってのは、ムキムキマッチョの名折れだ。

 私は辺りをきょろきょろと見回して一抱えほどもある大きな石を見つけると駆け寄った。

 石は重かった。オクトの体でも腰にきそうなほど。

 もし、足の上に落としたら悲惨なことになるだろう。

 慎重に石を抱えて、よたよたとデューネレーゲンヴルムの元へ戻ると、その頭部めがけて石を落とす。

 相手がアナコンダだったら、頭部がぐしゃっと潰れて、私の勝利! なところだったんだろうけど………。全然効果なさそう。

 あれだけ重たかった石は、蝙蝠傘と同じくぼよんと弾んで傍らへと弾かれたのだ。

 役立たずな筋肉ですみません。

 私は素直に傍観することにした。

 私が観戦にまわっても、まだまだ伊達の攻撃は続いた。息が切れても、額に汗が滲んでもその腕の力はいささかも衰える様子がない。

 けれど、デューネレーゲンヴルムの様子もまた衰えが見えなかった。

 そればかりか、徐々にその体の自由を取り戻し始め、うねうねと動き出すようになってきたのだ。


「伊達、このゴムミミズのHPってどのくらいなの?」

「さあな。でも、まず。俺とお前だけじゃ倒せねえのは確実だろうよ」


 伊達は胸の前で斜めに構えていた刀を、くるりと回転させて、その切っ先を真下へと向ける。


「電来電麻っ!」


 意味不明な伊達の言葉と共に、刀に纏わりついていた雷が消え、眩い青い光が刀身を駆け抜ける。

 余韻でか、鈍い光を放つ刀を、伊達は真上から突き刺した。

 その途端にデューネレーゲンヴルムは活発化していた動きをピタリと止める。


「麻痺が解ける前に逃げるぞ」


 伊達は刀から手を放すと、岩壁の遥か先にぽつりと見える緑を指差した。


「わかった………って刀は?」

「抜くと麻痺が解けるんだよ」

「………他に武器は?」

「あったら、そっちで麻痺させてる。今刀をケチッて逃げてる途中に喰われるのと、逃げ切った先で他の敵にやられるんじゃ、後者のほうがいいだろうが」


 それには賛同できかねる。


「その心は?」


 呆れて問えば、伊達はふんっと不敵にも見える笑顔を見せた。


「一秒でも長く生き残れる」


 それってすごいポジティブシンキング。いやいや、それとも、ネガティブシンキングなのだろうか。

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