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29.サンドワームじゃ駄目なんですか!?

 テンポー村を出発してから、しばらくの間、旅は順調だった。

 本来の出発地点ロップヤーンに近くなっているせいか、敵は弱くなっており、伊達一人でも余裕だったのだ。

 私はひたすら敵の目に留まらぬように、伊達の背後をうろちょろと逃げ、弱って虫の息のムカデっぽい敵やら、蜂っぽい敵やら、糞ころがしっぽい敵に、とどめをさして回っていた。

小動物並みに巨大化した虫系の敵を、蝙蝠傘でどついてまわる事に抵抗がなかったといえば嘘になる。

私の加勢がなくても伊達は難なく一人で全てをこなしていただろうから、私が手を出す必要はなかったかもしれない。

 でも、伊達はカイほど絶対的な強さを誇っているわけではないし、ここの敵は洞窟内の敵のように蝙蝠傘では全く歯がたたないわけでもない。

 そうなると何もせずに伊達にまかせきりというのは、どうにも居心地が悪かったのだ。

 ありがたいのは、倒せば敵の死骸は金貨銀貨へと取って代わるということだ。自分が止めを刺した巨大な蜂が、いつまでもひくひくと体を痙攣させて横たわっていたら、もっと抵抗を感じただろう。

煙と共に消えてアイテムを落としていく姿を目にするたびに、ここはゲームで、こいつらは作り物なんだと強く意識できた。

 そんなこんなで、意外な事に二人の息は合っていた。

 伊達が、砂に埋もれた壷を蹴飛ばすまでは…………。

 いや、まず最初は砂丘に忽然と姿を現した小さな遺跡を見つけたところだったか。

 小高い岡のようになっている砂山の頂上に、壁一枚をのこして崩れ去った、小さな神殿のような遺跡。

 何かアイテムが残されていないかと、そこに立ち寄ったのがまずかった。

 冒険映画の主人公になってしまったかのような錯覚に陥ってしまいそうになる。そんな雰囲気のある遺跡だった。

 つまり、ものすごく怪しい。曰くありげな遺跡だったのだ。

 そんな場所で、不自然に残されていた、壁に立てかけられていた燭台に何故触る………。一つだけ色の違う石畳を何故踏み抜く………。

 結果、砂の中から現れた、いかにも年代物といった複雑な紋様が描かれた壷に、どうして近づく!?

 壁から突き出た怪しげな棒とか、踏んだら凹みそうな石畳とか、やたら古臭い品とか。フラグ臭がぷんぷんするでしょうが!!

 なのになのに、伊達ときたら、壷の中身を覗き込み、何も入っていないと分かると、止める間もなく、それを蹴りやがったのだ。思い切り。

 空高く舞い上がった壷はくるくると回転して、岩山の上に落ちた。

 それが、今私たちを追いかけているミミズの頭だったのだ。


「やべ。デューネレーゲンヴルムだ。逃げろっ」


 ずずずっと周囲の砂を巻き込んでゆっくりと動き出した岩山を見て、伊達は舌を噛みそうな単語を器用にも叫ぶやいなや脱兎のごとく逃げ出した。


「は?」


 事態の把握に遅れた私が走り出すより前に、岩山にしか見えなかった巨大なそれは、鎌首をもたげてその姿を現す。

 呆然と立ち尽くす私の前で、極太の長いロープのようなデューネなんちゃらの、のっぺりとした先端がいきなり真っ二つに裂けた。切り口の両側は真っ赤に塗れた壁で、そこにびっしりと生えた白い小さな歯を認めた瞬間、私は全速力で駆け出した。


「こら待て! 置いてくなあああ」


 と叫びながら。


「どこまで逃げたらいいの!?」

「知るか」

「そもそも逃げれるの!?」

「だから知るか」

 

 雑魚敵からは逃げられても、ボス級からは逃げられない。そういうもんじゃないか?


「一撃必殺クリーンヒットで倒せちゃうような急所ないの!?」

「知らねえって言ってんだろ!」


 初めてした質問に、その答えはないと思う。


「おいっ! あの岩場に行くぞ!」


 青い髪を振り乱して、伊達が指差した先には、切り立った崖のような大きな岩があった。


「あんなとこ登れないし!」


 凹凸の少ない岩はほぼ垂直に聳え立っている。


「いいから、走れ」


 焼け付くように肺が痛い。息も切れ切れになりながらもスピードを落とすことなく岩にたどり着いた。


「いいか、ぎりぎりまで引き付けろ。合図をしたら左右に飛ぶぞ」


 …………岩に激突させるってか?

 その合図、伊達に任せるのは思いっきり不安なんだけど。

 ズモモモモ、と砂を押し分けながら、巨大砂ミミズが迫る。

 虎徹をも一口で飲み込んでしまいそうな、深く裂けた口は視覚的にとても優しくない。

 あの歯で噛まれて死ぬのだけは絶対にいやだ!


「いくぞ。3」


 伊達のカウントダウンが始まる。私はごくりと息をのんだ。


「2」


 デューネレーゲンヴルムがその巨体を持ち上げた。砂の雨が頭上に降り注ぎ、辺りを影が覆う。

 追い詰めたエサ(私たち)を前にデューネレーゲンヴルムの口がにやりと笑みの形に吊り上げられた気がした。かと思うと、波のように体をうねらせ、恐ろしいスピードで飛び掛ってきた。


「ゼロだ! 飛べっ」


 1は!?

 伊達の号令で私は全力で真横へ飛んだ。

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