28.無謀、真面目、実直、無骨、潔癖、律儀、善良―――でもって馬鹿
「どーするよ」
私を引き起こすと、伊達は長い青髪をがしがしとかいて尋ねた。
「どうしよう」
ロクを待ちたい。いくら頭のネジが10本ほど飛んでいってしまってようが、せっかく会えた仲間なのだ。ここで先に出発しては見捨てていくようで後味が悪い。
「俺はいくぜ」
あっさりしてるなあ。その決断力が羨ましいような。怖いような。
「ロクは俺よりよっぽどレベル高いんだぞ。待ってても足手まといにしかならねえだろ。それに向こうは向こうで案外ロップヤーンに向かってるかもしれねえしな」
それは私も考えた。
ピンホンユィーとやらがどこで捕れるのかしらないが、ここよりもロップヤーンに近い場所の可能性もあるわけだ。ロクの身に何かがおこって、ここまで引き返すよりも、ロップヤーンに進んだ方が楽な場合もあるだろう。時間をくいすぎて、私達が待っていないと思って先に進んでしまうって事も考えられる。
「………私も行く」
待っているより、行動する方が性分に合う。
まずはロップヤーンに行こう。カイと砂糖さんと合流して、それからロクを探そう。
「よし! 目指せ、ロップヤーン!!」
私はばちんと両の頬を叩いた。
それからちらりと伊達の、馬鹿げているほど整った顔を見る。
美形ばかりだというリョース。その肌の色は白を通り越してうっすらと青くさえ見えた。
白い半そでのシャツに簡単な胸当て。細身のズボン。腰を覆う長い布。種族柄か私よりも背が高いけど、私よりもずっと細身だ。
「えーと、私も一緒にいっていい……のかな? レベル1だし。裸族だし。お役にたてないけど」
私は腰のベルトから下がる細い一本の刀に目を留めて呟いた。本来両刀遣いの伊達にとって、どれほどの痛手だろう。
「武器は蝙蝠傘だけだし………。もし、もしも、伊達が一人で行きたいなら方向さえ教えてもらえれば、私だって、なんとか一人で逃げ回りなが…ら………」
「ロップヤーンを目指すよ」と言葉を紡ごうとして息を呑んだ。
伊達が見た事のない険しい形相で私を睨んでいた。
「次同じこと言ってみろ。ぶん殴るぞ」
私は目を見開いて伊達の顔を見つめた。怒りに黒い瞳が揺れている。
「………ごめん……なさい」
ふんっ、と鼻を鳴らして伊達は踵を返す。
その背中を追いながら、私は猛烈に反省した。
伊達を想っての言葉じゃなかった。
切り捨てられるのが嫌で予防線を張ったんだ。あんたが切ったんじゃない。私から切られてやったのよって。
面倒なお荷物なんて捨てて、楽をして進みたいと思ってるんでしょ? そう言っているのも同然だ。
でも、伊達はそんな奴じゃなかったんだ。無鉄砲の馬鹿だけど、責任感の強い真面目なタイプなのかもしれない。
傷つけた。
その事実が何より堪えた。
ずんずんと進む伊達に小走りで追いつくと顔を覗き込んだ。
「まじで、ごめん。いや、伊達がどうこうってわけじゃなくて、刀も一本なくしちゃったし、負担をかけたら悪いかなと思って」
「うるせーよ。喋ってる暇があったらさっさと歩けよ」
「らじゃー」
冷たく吐き捨てるように言われて、私はわざとおちゃらけて返した。
かっこ悪いなあ、私。
「って心から反省したのにいいいいいい」
「うるせー! 黙って走れ!」
「うるさいってなによ! あんたが余計な事するのが悪いんでしょ! ああ~っ! やっぱ一人で行けばよかったあああああ」
「そういうのを結果論ってんだよ!」
私と伊達は脇目もふらずに全力疾走していた。
『でっかいミミズに襲われてるなう!』
したことないけど、ツイッター。してたらそう呟いてるだろう。
一歩進むたびに砂に足を取られて走りにくいことこの上ない。
舞い上がった砂がパンツの中にまで入り込んで気持ち悪いったらなかった。
が。今はそんな贅沢を言ってる場合じゃない。
「とにかく死ぬまで走れ!」
いや、死んだら元も子もないでしょ!!