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24.短い空の旅

 空の上ではエンカウントしないらしい。

 コアトールカに跨っての旅は思ったよりも快適だった。

始めこそ頬に当たる風の強さや、高さに恐怖を感じたものの、慣れてくると、素晴らしい景色を楽しむ余裕も出てきた。

 広大な草原や山々、不思議な建物が立ち並ぶ街に朽ちた遺跡。そのどれもが作り物のはずなのに、なぜかしら胸を打った。

 地に下りれば恐ろしいモンスターが徘徊している世界も、空の上から見ればこんなにも美しいものなのか。


「こらこら、あんまり体重傾けんとってや。バランス取りづらいわ」


 感嘆のため息をつきながら、身を乗り出すようにしてきょろきょろと地表を眺める私の体を、手綱を握るロクの腕が押し戻した。


「あ、すいません。あんまり絶景なんで、つい。あ、あれ、なんだろう?」


 草原の真ん中をうねうねと蛇行して流れる大きな川。その川べりにポツンと現れた、前方後円墳に良く似た形のこんもりとした丘を指差せば、ロクは「ああ」と声を上げた。


「レログーマの墓やな。アンデット系の敵がよーさん出てくんでー。見てみたい?」

「うええ、絶対見たくないです」

「やっぱ、そうやんなー。俺も腐った死体にまみえるのはごめんこうむりたいわ」

「おい、おまえら。何なごやかに話してんだよ! とっとと降ろせよ!」


 コアトールカの嘴に咥えられた伊達は、しばらく奇声を発して手足をばたつかせていたが、山を一つ越えた辺りでぐったりと動かなくなった。かと思えば、谷間にそってロクがコアトールカを急降下させた時に、突如として復活して、「あぶねえ!」「急に高度を下げんな!」「回転させるな! 錐もみ状態じゃねえか!」「うわっ、上げすぎだ。下げろ!」等と文句を繰り返すようになった。

 これだけ、威勢良く文句を口に出来ればまず大丈夫だろう。人間、何事にも慣れるものだと、私は密かに感心していた。


「ロクさん、ロップヤーンまであとどのくらいですか?」

「そうやなあ。このままこの調子で飛んでけば、15分もかからんと思うよ。けどな………」


 軽い口調から一転、思わせぶりに言葉を切ったロクに言いようのない不安が胸をよぎる。


「けど、なんですか?」

「ほら、あっち見てみ」


 ロクは進行方向からやや右を示してみせる。

 眼下には荒涼とした殺風景な大地が広がっている。ロクの指さしたその先は草原地帯から、なだらかな緑の丘へと景色がかわり、その頂上付近は美しく色づいていた。


「赤いやろ。あれ、夕日やねん」

「はあ、綺麗ですね。………夕日が何か?」


 ロクの言わんとしていることがさっぱり分からない。

 首を捻って彼を見上げると、彼はニカッと白い歯を見せた。


「コアトールカなあ、夜は飛ばれへんのよ」

「はあああああああああ!?」


 伊達と私の絶叫がはもる。


「ちょっ、ちょっと、待ってよ! 夜は飛べないって、え? え? ロップヤーンまで15分よね。んじゃあ、日没までは何分!?」

「ん~。ええとこ後3分やね」


 全然、無理じゃん!


「ふっざけんな。おい! どうする気だよ!」


 伊達がわめきたてる。


「いやあ、悪い悪い。すっかり忘れてもうてたわ。さて、墜落する前にそろそろ降りよか」

「てめえ、なに考えてんだ!? 馬鹿か? それとも呆けてんのか? 降りたら敵に遭遇するだろうが、このド変態の裸族連れてどうするってんだよ! おい! 聞いてんのか!?」


 どこまでもお気楽な口調であっさりと告げるロクに、伊達は罵詈雑言を浴びせる。


「まあまあ、なんとかなるって。ほな降りるで~。しっかりつかまっときや」


 空いた口がふさがらないとはこのことだ。

 ぽかんとしていると、コアトールカは言葉どおりに急降下し、


「どこにつかまれってんだ。この馬鹿野郎~~~~~~~」


 またしても伊達の絶叫が響き渡ったのだった。

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