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18.命名、伊達

「えっと、お知り合い。ですか?」


 カイと佐藤さんみたいに、直前までパーティを組んでいたとか?


「ん? 違うよ?」


 ぴったんぴったん、としっぽで自分の背中を打ちながら、佐藤さんは何やら難しそうに顔をしかめている。


「フォールンエンジェルなんとやらって、この青い人の名前ですよね?」


 名前を知っているなら、それを知り合いと言わずして何というというのか。


「あんた、見えてないのか……」

「は? なにが?」


 怪訝なカイの声。

 問い返しても返ってこない答えに、ふと皆の顔を見回せば、佐藤さんも青い人も眉根を寄せて私を見ていた。

 な、なんなんだ。いったい。


「これ。本当に見えてないの?」


 と言ってカイが指差すのは己の頭上。

 長身のヤクシャのその頭の上には、何も無い洞窟の空間が広がるばかりで、さっぱり意味がわからない。


「虫でもたかってるの?」


 夕方になるとどこからとも無く出てきて、頭上をぶんぶんと飛び回るユスリカみたいなものでもいるのだろうかと、伸びをしてカイの頭の覗き込もうとすると、わしっと大きな手が伸びてきて額を覆うように押さえられる。


「虫じゃない」


 はあーとカイは深いため息を落とした。


「名前だよ。オクト君」


 名前が何か? と首を捻る私に、佐藤さんは眉間に皺を刻みながらも、柔らかい声で続けた。


「カイの頭上にはKAI。僕の頭上にはsalt。それから、かれはfallen angel SEIMA KYO。それぞれのユーザーネームが表示されているんだ」

「は? そんなの……どこにもないですけど」


 つか佐藤さんのキャラクター名、ソルトだったのか。初耳なんですけど。え、じゃあ、佐藤ってのは本名? だから逆にソルトって名づけたのか? それともソルトだからカイが面白がって佐藤って呼んでるの? 「佐藤さん」は「砂糖さん」が正しかったのだろうか……。


「あ、じゃあ。私の頭の上にもOCTOって出てるんですか? 見えないけど」


 ぐっと首を後ろに倒して上を向くが、洞窟の天井が見えるばかりで、名前などまったくない。


「あんたにはない」


 なんで!?


「ないんだよねえ。オクト君には」


 うーんと、腕を組んで首をひねる砂糖さん。

 そういえば、初めて会ったとき、砂糖さんは私を見て攻撃態勢に入った。あれはひょっとして私の上に名前が出ていなかったから、敵と間違えての行動だったのだろうか……。


「オクト君の場合。色々とイレギュラーが発生しているみたいだし、名前も何かエラーで表示されないのかなと思っていたんだけど。まさかオクト君から僕達の名前が認識できていないとは思ってなかったよ」


 いくら目を凝らしてみても私の上にも、彼らの上にも、何も見えない。

 青い人の上にfallen angel SEIMA KYOなる文字が浮いているのを私もこの目で見たかった。


「えーと、フォールンエンジェルセイマキョー君?」


 砂糖さんに呼びかけられると、青い人はひくっと頬を引き攣らせた。


「その呼び名はちょっと……」


 ですよねー。


「え、じゃあ、堕天使君?」

「いや、それも……」

「うーん、じゃあ聖魔キョー君?」

「…………」


 もう青い人は今にも泣きそうだった。

 砂糖さん、それ、わざとじゃないですよね?


「あ、じゃあ、伊達で!」


 と叫んだのは青い人ではなく、私だった。

 さすがにこのまま天然砂糖さんに甚振られるのは可哀想だ。


「ああ、いいね。呼びやすいよ。伊達君か。フォールンエンジェルセイマキョー君って呼ぶのは舌を噛みそうだしね」


 え、そういう理由?


「いいんじゃない、伊達で」


 と、どうでもよさそうなカイ。


「え……あの……普通キョウになるんじゃあ……?」


 なんて、青い人がもごもごと呟いていたけど、ほっとこう。

 こうして、青い人改め、フォールンエンジェルセイマキョー改め、伊達と、私達は行動を共にする事になった。

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