10.罪(裸)と罰(ゲット品)
キーキーピーピーと耳をふさぎたくなるような、高音を発しながら息絶えると、白い煙と共に蝙蝠達の骸もまた消えていく。
「おおっ!?」
と、同時に現れたものに、私は思わず声をあげていた。
金貨でもほうれん草みたいな薬草でもない、一本の傘が、忽然と現れて、土の上に転がっていた。
「おっ、すごいなあ。レアアイテムじゃないか」
トテトテと虎徹を寄せた佐藤さんが、飛び降りるようにして着地する。
「種族、職業、レベル、これなら全部関係ないし、オクト君でも装備できるよ」
ぽんっと広げた傘は、真っ黒な洋傘で、
「蝙蝠なだけに蝙蝠傘………」
開発者の安易な発想に私はふうと息をついて瞑目した。
「どうぞ、オクト君」
失礼ながら、未だに昇り降りが大変なので、虎徹に跨ったまま、傘を受け取る。
傘をさし、虎もどきに乗った、趣味の悪いボクサーパンツ一丁の男。
「ぷっ」
「こら! カイ!! 今笑ったな? 笑ったよね!?」
「い……や……気のせいでしょ」
「いーや、確かに笑った。てか、肩震えてるじゃん!」
顔を背けて、笑いをかみ殺すカイ。
羞恥に顔が真っ赤になった。
「まあまあ、初の装備、おめでとう」
見た目幼女(ひょっとしたら男の子なのかもしれないけど、 ちょっと外見だけではわからないから、幼女で)な佐藤さんに窘められると、こんな事で怒っている自分が、ものすごく大人気なく感じる。
そして、そんな佐藤さんの肩もちょっぴり震えていたりするもんだから、私は唇を尖らして、
「ありがとうございます」
とお礼を言って、静かに傘を閉じた。
「ところで、これ武器なんですか? 防具なんですか?」
タッタッタッと軽快に歩む虎徹の上で、私は佐藤さんの錫杖と共に括りつけられた傘を見ながら尋ねた。
これで敵をなぐったら、一撃で壊れそうだけど、センジョ・レクスの毒攻撃なら防げそうかも。
「うーん、一応武器なんだけどね」
「攻撃力あるんですか?」
「最初に支給されるショートソードと同レベルかな」
レアのくせに、よわっ。
いや、むしろ蝙蝠傘と同レベルなショートソードが弱いのか?
「まあ、ここらの敵には全くきかないかもね。でも、運が飛躍的に上昇するんだよ」
宝箱を開ける前に装備しなおす的な武器か。
「魔道士系の女の子キャラだと、好んで装備する人もいるしね」
あー、なるほど。
私は、愚弟、修也のキャラを思い出した。シュウコちゃんにこの傘を持たせたらぴったりかもしれない。
「間違っても、全裸のマッチョマンが持つ武器じゃないですよねー」
「そんな事ないよ」
肩を落とす私に、佐藤さんは慌ててフォローを入れる。
「パンツははいてるじゃない」
フォローになってなかった。
それにしても、と私はしみじみ自分の姿を見下ろす。
「私が装備できる防具も落としてくれませんかね。この格好で佐藤さんに抱きついてると、犯罪者になった気分になるんですが」
しんと辺りが静まり返る。
あれ? なにかおかしなことを言ったかなと首を傾げた次の瞬間。
ぶはっ
と盛大に佐藤さんが噴出した。
顔を上げれば、くるっと振り返って睨み付けるように目を細め、見てはいけないものを見てしまったというように、さっと顔をそむけるカイ。
佐藤さんの中の人………あれ? なんかおかしい。
幼女の中の人である佐藤さんは、笑い上戸だったようだ。
ひいひいと苦しげに息を継ぎ、ぽろぽろと涙をこぼして、「腹が、痛い……駄目、腹痛い」と、ひたすら呟いて爆笑していた。
新たに敵が現れて、
「アイ……プッ、アイギ……ブブ、アイギス!」
なんて噴出しながらようやく唱えられたぐらいだから、佐藤さんの上戸は相当なものだ。
呆れた様に、一人で黙々と槍を振るうカイは、大人びて見えた。中の人は一番年下のはずなのにね。