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第七十九話:精霊の魔法と、奇跡の品種改良

 王都での「ハエ叩き」を完遂し、嵐のように帰還したカイトを待っていたのは、新入りエルフの少女・リィンだった。カイトは彼女の「精霊使い」としての資質を聞くと、即座にその魔力特性の分析を始めた。

「……なるほど。術者の魔力を触媒にして、自然界の事象を『加速』させるわけか。リィン、これを使えば植物の生育を早めることもできるんだな?」

 カイトが聞くと、

「はい、カイト様! 木の精霊に語りかければ、一晩で芽吹かせ、数日で実らせることも可能です」

 リィンが大きく頷いた。

 リィンの答えを聞いたカイトの瞳に、知的な光が宿る。

「面白い。なら、試したいことがある。……お爺様、裏庭の畑を貸してください」


 カイトが目をつけたのは、これまで家畜の飼料としてしか扱われていなかった、無骨で味の薄い大根だった。

「こいつを、甜菜サトウダイコンのような甘い作物に作り替える」

 常識外れの宣言に、オズワルドたちは半信半疑で見守った。

 カイトはまず種を撒き、リィンが精霊魔法を注ぎ込む。数日で収穫期を迎えた大根を、カイトはすべて自ら試食し、わずかでも糖分が高い個体を選別した。

「次は、この甘い個体同士を掛け合わせる。リィン、もう一度だ」

「はい!」

 一世代、三世代、五世代。  世代を重ねるごとに、大根は白く瑞々しく、そして驚くべき甘みを蓄えていった。十世代を超えた頃、収穫された大根を口にしたクラリスが目を見開く。

「……信じられませんわ。これ、果物のように甘いですわよ!」 「ああ。これなら十分な糖分が精製できる。この種を領地の農家に配布しましょう。グランヴィル家の新たな特産品、『砂糖大根』の完成だ」


 成功を収めたカイトは、さらに一歩踏み込んだ提案をオズワルドに持ちかけた。

「お爺様。エルフの村を『品種改良の聖地』にしてはどうでしょうか。同じ小麦でも、寒さに強いもの、実りが多いものがある。それらを掛け合わせれば、同じ面積の畑から今の倍の収穫を得ることだって可能です」

 目の前で奇跡を見せられたオズワルドは、呆然としながらカイトを見つめた。

「……見せられたからには、できるのだろうな。だが、お前……そんな知識、一体どこで仕入れてきた?」

「メスチノの冒険者ギルドですよ。魔法使いしか入れない書庫に、古の農業魔法の記述があったんです。……便利な場所でしたよ、あそこは」

 カイトは平然と言ってのけた。実のところ真っ赤な嘘。

 現代知識に近い選別交配の概念なのだが、「古の魔法書」と言えば、この世界の賢者たちは納得せざるを得ない便利な言葉。

「質の良い作物を作り、高く売り出せば、民は富み、領土は潤う。武力ではなく『農力』で国を支えるか……。カイトよ、お前という男は、本当に末恐ろしいな」

 オズワルドは愉快そうに、しかし畏怖を込めて笑った。  カイトの隣で、リィンは自分の力がこれほどまでに役立ったことに頬を染め、クラリスは「私の騎士様は、農家までこなしてしまいますのね」と、呆れながらも誇らしげに微笑んでいた。


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