第七十八話:新たな「家族」と、精霊使いの決意
カイトとオズワルドがアウラと共に王都へ飛び立った後、グランヴィル侯爵邸の庭園にはどこか落ち着かない空気が流れていた。
マリーとクラリスは白いテーブルを囲みお茶を淹れるが、二人の視線は自然と同じ一点へ。そこには、先ほど救出されたばかりのエルフの少女が立っていた。
少女の名前はリィン。長い耳を揺らし、所在なげに、しかし熱い瞳で空を見つめている。
マリーが騎士を見る。
「その子が?」
「はい、報告しました、エルフになります。カイト様に協力したいと申し出ましたので連れて参りました」
「そう、ありがとう。あとはこちらで……」
マリーがそう言うと、騎士は礼をして去っていく。
今度はリィンを見ると、
「カイトの役に立ちたいんですって?」
マリーが聞いた。
リィンは真剣な瞳で拳を握り、意を決して口にする。
「私、ただ守られるだけなのは嫌なのです。実は……こう見えて、エルフの村では一番の『精霊使い』なんです。お役に立ちますので、どうかカイト様のそばに居させてもらえませんか?」
クラリスは頷き、
「精霊使い……術者が魔力を与え、自然界の精霊に事象を成立させる力、でしたわね?」
と確認する。
「はい。魔力を与えれば、精霊が木々を育て、風を呼び、時には敵を惑わす手伝いもしてくれます」
その言葉に、マリーの瞳に真剣な色が宿る。
「エルフそのものも希少だし、精霊使いはそのエルフの中でも希少な才能だわ。……クラリス、この子をそばに置いてもいいんじゃないかしら? 当面はグランヴィル家で人間のマナーや教養を学ばせることになるでしょうけれど」
クラリスも微笑む。
「お婆様がそう仰られるのなら……。カイトは放っておくと何でも一人で背負い込みますから、公私ともに支える手は多い方がいいかもしれませんわね」
そしてリィンに向かって少し意地悪に言う。
「いいわ。ただし、修行は厳しいですわよ? カイトの隣に立つのは、並大抵のことではありませんから!」
リィンは真剣な目で
「はい! ありがとうございます、クラリス様!」
と言って返した。
こうして、王都でカイトがオズワルドと共に領地に手を出したハエを「ハエ叩き」している間に、領地では新たな忠誠、そして少しの恋心を秘めた精霊使いの少女リィンが仲間に加わった。
帰ってきたカイトがこれを知った時、どんな顔をするのか。
マリーとクラリス、二人の「先住者」は、少し意地悪な楽しみを抱きつつ、再びお茶を啜るのだった。




